556.最後のクエスト
新たな悪魔の復活を阻止し、神官の繰り出したリッチを打倒したメイたちは、聖女のもとに戻ってきた。
「ありがとうございます。新たな悪魔の復活は、阻止できたようですね」
「これで、大罪悪魔も止められるのかしら」
レンの言葉に、聖女エルステラは首を振る。
「悪しき者たちは着々と準備に動いていたようです。復活自体を阻止するのはもう、難しいでしょう」
「そんな……」
聖女の言葉に、アルティシアを拠点とする白夜が悲哀の表情を見せる。
「ですが。アルティシアを闇へと還すその『力』の発動には、若干の時間がかかります」
「その間に大罪悪魔を倒せ……そういうことか?」
リズの問いに、聖女はこくりとうなずく。
「今夜、街の各所に現れる四つの魔法陣。魔力が大罪悪魔に充填され切る前に全てを壊せば、街の破滅を止めることができるでしょう」
橙に藍色が混じる夕景と、広がる美しい街並み。
神殿の二階バルコニーからは、街行く人たちの姿が見える。
「ああ忙しい忙しい! あっ、皆さん! 先日はありがとうございました! 騎士さんも喜んでいますよ!」
そう言って手を振るシスターは、今日も忙しそうに駆け回っていた。
「当然、魔に与する者たちが立ちふさがるでしょう。ですが私には、強き勇者たちが光を護るというお告げが聞こえたのです。どうかお願いいたします。皆さまの手で大罪悪魔を止めてください」
そう言って、静かに頭を下げる聖女。
「おまかせくださいっ!」
そう言ってメイは、元気に応えた。
神殿を出ると、街は夕刻から夜へと移り変わる最中。
橙から青紫へと変わりつつある空に、金星のように目立つ星が瞬いている。
「――――やあ、ナイトメア」
「人違いです」
維月刹那は、並んだ古い柱の一本に腰かけたままレンにゆっくりと視線を向ける。
「どんな気分なんだい? 神官に利用されて、ボクたちに力を貸していたと知った時の気分は?」
そう言って、クスクスと笑う。
「お礼に見せてあげるよ、この街が闇に沈む瞬間を。そして――――最強の悪魔召喚士が世界を席巻する瞬間をね」
「認めぬぞ、ルナティック」
「レクイエム、力は使ってこそなんだよ。ボクたちはたった三人でこの街を闇に還すんだ。こんなにすごい力をさァ、秘めたままでなんていられるかい?」
「我らが理念に反する。強き力を得たのであれば、傲慢な正義を強いる光の神たちへの抑止力であるべきだ」
「まだ分からないのかい? これからボクは、世界の理念を作る者になるんだよ」
「勘違いにも、ほどがありますわね」
「勘違いしているのは君たちの方さ。光の使徒は、この街と共に消えるんだ。自らの力のなさに啼きながらね」
ふふ、と笑う刹那。
「もはや光も闇もない。全ては等しく『明けの明星』の前にひれ伏し消える。黙示録はボクが書き変えるんだ。暗夜教団が、この維月刹那こそが『終末』だとね」
「めちゃくちゃしっかり設定してきたわね!」
レン、これにはもう言わずにいられない。
そしてこんな騒ぎが目立つ神殿前で起きていれば、当然皆気づく。
「すっげえ……! とんでもない展開になってるな!」
「やっぱメイちゃんたちって最高だわ!」
ただならぬ気配に駆け寄ってきたプレイヤーたちが、使徒たちによる火花の散らし合いに歓喜する。
「魔導士の研究所では、ずいぶんとあっさり引き返したわね」
「神官ごときに悪魔をくれてやる必要はないと思ってね。ボクたちだけで十分、この街を沈められるんだから」
「終わりの時は、もう間近でございます」
「おとなしく終末を見届けることを、如月は提案する」
柱の陰に控えていた輪廻と彼方も、静かに言葉を続けた。
「レクイエムが、光の使徒などと行動を共にするとは驚きでございました」
「如月たちの強さに、恐れをなしたということですか?」
「ふん、勘違いをするな」
「これは、利害の一致による共闘ですわ」
「共闘でございますか」
「らしくないですね」
注目の的であるメイたちのパーティが、繰り広げる舌戦。
街の存亡をかけたぶつかり合いに、続々とプレイヤーたちが集まり熱を帯びていく。
「闇に還るって、具体的にどうなるのかな?」
そんな中、不意に疑問を口にするメイ。
その問いに、刹那が答える。
「これまでたくさんアンデッドを見てきただろう? アルティシアはああいう不死者の跋扈する、闇の街に変わるのさ」
「え、ええっ!?」
「そして君たちは、昏き伝説の目撃者となるんだ」
「ええーっ!? そんなこと、させませんっ!」
闇に還ればどうなるのかを知ったメイが、指を差して反論。
「「「うおおおおおお――――っ!!」」」
さらに増えた見学者たちが、その宣言でさらに盛り上がる。
「やがて真円を描く月が、夜空の頂点へたどり着く。それが……儀式の始まりだ」
石柱の上から華麗に着地した刹那は、そう言い残して踵を返す。
「させませんわ。この街は、わたくしが守ります」
「『堕ちた』なルナティック。貴様たちの野望は我らが叩き潰す」
「――負けない」
「ふふ、期待しているよ。せいぜいボクを――――楽しませてくれ」
首だけで振り返り、笑う刹那。
輪廻と彼方も静かにその後に続く。
熱くなるメンバーたちと、いよいよ『強敵感』を出しまくってきた刹那に、苦笑いしかできなくなるレン。
「さてと。もう少し時間もあるみたいだし、一つ頼んでもいいかしら」
「はいっ」
だがもちろんレンも、この時のために色々と考えてきた。
戦いを少しでも有利にするため、来たる夜に備えた準備に動き出す。
◆
「こんなところかしらね」
無事に戦いへの準備を終えたレンは、息をつく。
「レンちゃんカッコいい……っ!」
「ナイトメア……素晴らしい装備だな」
「――最高の装備」
「これが貴方の本気ということですのね」
「あんまり注目しないでよ。はあ……眼帯に包帯は付け過ぎだと思うんだけどね」
目を輝かせるメイたちに、ため息をつく。
大きな戦いがある以上、たとえ恥ずかしい装備でも全力を尽くすのがレンのやり方だ。
中二病フル装備状態のレンを中心に、神殿前に集合した六人。
聖教都市アルティシアに、夜がやって来た。
真円を描く月が昇り、その煌々とした輝きが街を照らし出す。
聖女は静かに、祈りを捧げるのだった。
「アルティシアを賭けた戦いが――――今、始まります」
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