544.暗夜の踊り子
残された最後の結界石。
結界は、この石を砕けば消える。
神殿を守るために配置された騎士たちが倒れ伏す中、結界石のある中央祭壇にいるのは一人の少女。
「――輪廻」
雨涙の呼び声に、涼し気な表情の少女が振り返る。
暗夜教団の一人、如月輪廻。
長い白髪に、上半身を包む黒のレオタード。
腰に巻くタイプの深いスリットのスカートは薄手で、動く度にひらひらと揺れる。
耳元に付けた羽飾りの、派手な色遣いが印象的だ。
「この子も2期生なのね」
見覚えのないその少女も、しっかり黒の装備に身を包んでいる。
その『できあがり具合』に、ため息をつくレン。
「純粋なる力を求めて闇の使徒を去った、恐るべき魔導士ナイトメア」
「け、形容の言葉が長い……っ」
「敵が誰であろうと、如月は職務をやり遂げるのみ」
そう一言つぶやいて、如月輪廻は静かに構えを取る。
その手には、魔法石の埋め込まれた短剣。
「気を付けろ。一人だけでない可能性もある。暗夜教団へ移ったもう一人の2期生『六道彼方』は弓術師。遠距離からの攻撃が得意だ」
「メイは弓矢の攻撃に注意していてもらえる? おそらく結界石を狙ってくるはずだから」
「りょうかいですっ!」」
正解が見えない状況、まずは一時的に結界石を守る。
レンは最も重要なポジションをメイに託した。
「申し訳ありませんが、一気にいかせていただきますわ! 暗夜教団とやらの目論見はここに潰えます! 【エンジェライズ】!」
スキルの発動と同時に、白夜の背中に小さな天使の翼が生まれる。
わずか一度の羽ばたきに背を押され、一気に輪廻へ接近する白夜。
「【ファントムダンス】」
放たれる振り降ろしからの突きを、細かく速い動きを得意とするスキルでかわしてバックステップ。
「【エーテルジャベリン】」
すると白夜は身体の左右に三本ずつの『魔法の槍』を生み出し放つ。
輪廻は細かな足の運びで、これも全てかわしてみせた。
「やりますわね……っ」
「【暗衝】!」
そこに飛び込んで来たのはリズ。
黒色の波動を残しながらの突撃から振り払う大剣を流麗なステップでかわされると、右足を強く踏みつける。
「【黒閃天衝】!」
足元から一斉につき上がる黒光の槍。
「【スピンターン】」
これもダンスのソロターンを思わせる華麗な回転ですり抜ける。
「職業は踊り子ってところかしら! 【連続魔法】【ファイアボルト】!」
しかしその瞬間を狙って放ったレンの援護射撃まではかわしきれず、二発の炎弾が炸裂した。
「くっ」
止まらない。
さらにそこへ飛び込んでくるのは、星野エトワール。
「【シャインセイヴァー】!」
「【スワンジャンプ】【エクステンダー】」
降り下ろされた光の剣をふわりとしたジャンプで逃げ、跳躍中にスキルを使用。
新体操のリボンを思わせるムチ型の武器が伸び、振り回す一撃がエトワールの頭部をかすめてけん制する。しかし。
「【加速】【リブースト】【電光石火】」
「ッ!!」
きっちり着地際を狙いに来たツバメに、ダメージを奪われた。
「このままでは、石を割るのは難しい」
見事な回避を見せた輪廻だが、やはり六人同時に相手にするのは不可能だ。
「如月は破れるのか? ……否」
自分自身に問いかけた後、それを否定してそっと手を持ち上げる。
「来たれ」
その指には、黒の紋様が刻まれた銀の指輪。
それは悪魔召喚士だけが与えられる契約アイテム【ソロモンの指輪】だ。
「地獄の侯爵にして監督官――――ネビロス!」
足元に広がる禍々しい魔法陣。
赤光を輝かせながらせり上がってくるのは、一体の悪魔。
体高は2メートル50センチほど。
まとった真紅のローブは背中で二つに割れ、翼のようにはためく。
そんなローブからつながるフードの中には、精悍な顔つきの黒い狩猟犬のごとき顔。
それは二足歩行の巨犬に、鳥の翼をつけたようにも見える。
「これが、召喚悪魔か……っ」
ふわりと浮かぶ、常態飛行の悪魔。
まとった恐ろしい瘴気のようなエフェクトに、思わずレクイエムも息を飲む。
「喰らえ【死龍】」
「「「ッ!?」」」
輪廻が指示すると、ネビロスが死霊術を発動。
死した巨竜がまるで獲物を狙うサメのように、地面を突き破って喰らい付きにくる。
前衛組は高速移動と跳躍スキルでこれをかわす。
すると巨竜はそのまま突き進み、地面に潜って消えた。
スペースが大きく空いたところで、輪廻は続け様にスキルを発動する。
「起きろ【雑兵】」
「なっ!?」
思わず身を引くリズ。
生み出されたのは、大量のアンデッド兵たち。
濃灰色のアンデッドたちが手にした武器を振り回し始めると、途端に輪廻の姿が隠れてしまう。
「【ファントムダンス】」
その隙間を華麗に抜けて、輪廻は結界石を狙いにいく。
「させません! 【加速】!」
「叩け【狼腕】」
「ッ!! 【跳躍】!」
その動きに気づいたツバメが高速移動で止めにかかるも、足元に現れた魔法陣から大きな『屍狼』の腕が飛び出し慌てて跳躍。
狼の腕は、アンデッド兵を数人まとめて叩き潰した。
それを見たエトワールは、一気に距離を詰めていく。
「【栄光の手】」
「っ!? 動けません……!」
突然燃え出した、ネビロスの腕。
振り払いと同時に飛び散った燐光が触れると、動きを強制停止させられた。
「よもや輪廻が、悪魔召喚によってここまで力を付けているとは……っ」
「邪な野望を抱くわけですわ!」
ネビロスの思わぬ強力さに、惑う白夜たち。
一方、神殿から二百メートルほど離れた建物の影に潜むのは一人の黒き弓術師。
「【遠当て】【チャージアロー】【呪爆の矢】」
結界石を狙った、必殺矢の準備が整う。
「きたっ!」
メイは高速で飛んできた矢を「待っていました」とばかりに斬り払う。
矢は見事に跳ね上がり、石柱にぶつかり弾けた。
「お見事ですわ!」
「さすがだ」
見事に敵のコンビネーションを防ぎ、歓喜する白夜たち。
緊張の中に生まれる、わずかな安堵。
「ッ!! まだっ!!」
暴れるゾンビたちによって、聞き取りにくくなっていた『もう一つ』の音。
気づいたメイは、慌てて走り出す。
『それ』は初撃の矢のちょうど反対側から、いまだ爆発の煙が舞う中を飛んできた。
「えーいっ!」
メイの剣はそれでも矢を打ち軌道を変える。
一発目の『通りがかりの弓術師に放たせたオトリの矢』の直後を狙い、放たれた矢。
これをメイは、再び斬り払ってみせた。
「見事ですわ!」
その驚異的な反応に、思わず歓声をあげてしまう白夜たち。
二度の危機を乗り越え、今度こそ安堵の息をつく。
「危なかったぁ……えっ?」
しかしこの攻勢は、まだ終わっていなかった。
二の矢を斬り払った時点で、『保険の一撃』すら防いだことに誰もが安堵。
そんな中を猛スピードで飛んでくる、第三の矢。
メイは慌てて駆け戻り、剣を振るう。
その一撃は見事に矢を弾くが、大きくそらすには至らない。
黒き弓術師が放った本命の矢は、結界石の上部に炸裂した。
「やられた……っ!」
まさかの一撃に、レンは唇を噛む。
「起きろ【雑兵】」
輪廻があらためてネビロスにゾンビたちを呼び出させると、ここに飛び込んできたのは目くらましの矢。
強烈な輝きが、視界を白く染める。
「如月としたことが……見とれてしまうとは」
一発目の矢を弾いた上に、完全に虚を突く形で真逆から放たれた二の矢も払う。
さらに第三の矢まで軌道を変えてみせた、メイの異常な剣さばきに驚いていた輪廻。
我に返ったかのように息をつくと、この隙を突いて逃走に転じる。
目くらましの矢と多くのゾンビたちによって、その姿を確認することはできない。
「……やられましたわ」
目を開けた時には、すでに輪廻はその姿を消し、ネビロスもアンデッド兵も消えていた。
見えるのは、空に昇る光の柱。
わずかに遅れて『ガラスの割れるような音』が鳴り響き、夜空に入ったひびが砕け散る。
結界は、失くなった。
「まだ結界を破られただけです。結界が失われたから悪魔が目覚めるというわけではありませんよ!」
「その通りですわ! 悪魔の眠る魔法陣は神殿の背後。悪魔の召喚がなされるまでは、終わらないはずです!」
「ならばそこで止めればよい。そうすれば街の破壊は防げるはずだ」
「いきましょうっ!」
慌てて神殿を出るメイたち。
ちょうど追いついてきたミヤビとヒカリも、さすがにこの状況では文句を言う事もなし。
メイのケツァールに同乗する形で、暗夜教団の後を追うことにした。
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