545.魔法陣と暗夜教団
神殿の後部から続く大階段の上。
そこには遺跡のように大きく欠け落ちた屋根を持つ『旧神殿』がある。
その中央部にある古びた魔法陣は、結界が失われたことで妖しい深紅の光を放ち出していた。
「このクエストは、ここまで含めて競争になってるわけね」
「そこまでですわ!」
旧神殿前でケツァールの背を降りたメイたちは、魔法陣の前で如月輪廻と黒の弓術師に追いついた。
広い旧神殿には各所に松明が置かれ、欠けた石柱の影が伸びている。
「まさか追いつかれるとは……如月も、これには驚愕」
「召喚には若干ですが時間がかかりますよ。多少時間を稼ぐ必要がございますね」
黒き弓術師、六道彼方。
襟の高い黒コートの下には、腹部が出るほど短いタンクトップにショートパンツ。
同じく黒のブーツに黒の弓を抱えた少女は、サイドは首元まで、後ろは腰まで伸びた髪を結んでいる。
その温和な話し方がすごく『キャラ』っぽくて、ちょっと震えるレン。
「では……まずは私から【ハイジャンプ】【弾幕斉射】!」
「「「ッ!!」」」
彼方は高い跳躍から、矢を一斉に放つ。
【技量】に依存する矢の数は、約40発。
光の線を引くエフェクトと共に放たれた大量の矢を、メイたちはしっかり見据えてかわす。
「来たれ。地獄の侯爵にして監督官――――ネビロス!」
放たれた矢は、召喚の時間を稼ぐため。
輪廻の前方に現れた魔法陣から、ネビロスがせり上がってきた。
「起きろ【雑兵】」
すぐさま呼び出されるアンデッド兵たち。
「【夜駆け】」
輪廻がアンデッドの壁を作り出すと、速い直線移動と大きな連続バックステップが可能となる移動スキルで、彼方はすぐさま距離を取った。
「【神速連射】」
それは信じられない速さで矢を放つという、シンプルなスキル。
移動しながらの使用も可能なため、なかなかの威力を発揮する。
「【ルミナスシールド】!」
アンデッド兵たちの隙間を飛んでくる矢を、光の使徒たちは花森ミヤビの盾に隠れる形で防ぐ。
するとアンデッド兵たちの中から突然、輪廻が攻撃を仕掛けてきた。
「ッ!?」
【ゴーストダイブ】は、影に沈んで移動するという変則スキル。
一見すごそうだが、その効果は短時間かつ割とバレバレというもの。
だがアンデッド兵だらけの状況であれば、見事にその強みを発揮する。
突然現れた輪廻は短剣でミヤビの盾を叩くと、そのまま【スワンジャンプ】で跳躍。
「【栄光の手】」
そこに低空飛行で追って来たネビロスが燃える腕を振り払うと、火の粉が辺りに広がった。
「「「ッ!!」」」
『強制停止』から、大慌てで逃げるレンたち。
六道彼方は、この瞬間を狙う。
「【弾幕斉射】」
「嫌らしいこと、この上ないわね……っ!」
【栄光の手】による停止は死活問題。
必死に逃げるところへ、矢の弾幕を放つという攻撃は功を奏す。
リズ、レン、ヒカリの三人は矢を受けダメージを奪われた。
「まだですよ【呪爆の矢】」
必死の回避で体勢を崩している白夜を狙い、放つは結界石を割った黒光の矢。
「そうはさせませんっ! 【ラビットジャンプ】からの【フルスイング】っ!」
「ッ! 【夜駆け】!」
アンデッド兵たちの隙間を抜けてきたメイの振り降ろしを、慌てて大きな連続バックステップでかわす。
「【神速連射】」
そのまま下がりながらの高速射で、しっかり牽制するが――。
「右左、右右左っ!」
なんと放った矢を、ことごとくかわしてメイは距離を詰めてくる。
「どういう回避力なのでございますかそれは……っ! 【風乱矢】【斉射】!」
矢を5本まとめて放つそのスキル。
メイはこれすら普通にかわすが、この属性矢は吹き荒れる風で敵の足を止められるのが強み。
「ぷあっ!」
メイが5本分の風壁にびっくりしたところで、彼方は再び下がって距離を取る。
だがこの状況下では、自分の身を守ることで精いっぱい。
とても輪廻の援護射撃など不可能だ。
そうなれば当然、戦況は変わっていく。
「め、目覚めろ【暗夜剣】っ!!」
アンデッド兵たちが、リズの放った三日月形の波動に払われる。
「【ライトニングスラスト】!」
すると生まれた道を、白夜が高速の閃光突きで特攻。
「【スピンターン】」
これを輪廻は速いターンでかわす。
「ここです! 【シャインセイバー】!」
「逃がさないんだよね! 【四連射】【ホーリーバレット】!」
さらに続く、エトワールとヒカリの追撃。
「【スピンターン】【スワンジャンプ】! 【エクステンダー】!」
輪廻は必死のスピンでかわして空中へ退避。
伸ばしたリボンを振り降ろす。
その狙いは、迫り来ていたツバメだ。
「【加速】【リブースト】」
だがツバメの見事な高速回避によって、リボンはアンデッド兵を弾き飛ばすにとどまった。
「【電光石火】!」
着地際に駆け込んでくる斬り抜けが、輪廻を斬り飛ばす。
「くっ、起きろ【雑兵】!」
大量のアンデッド兵を出す【雑兵】はそのクールタイムが思ったより短く、優秀なスキルのようだ。
転がりながら守りの壁を作り出したところで、輪廻は反撃に移る。
「喰らえ【死龍】!」
アンデッド兵たちごと喰らわせるというがむしゃらな一撃で狙うは、状況の好転。
「【フレアストライク】!」
するとアンデッド兵が喰われたことでできたスペースを飛んできた炎砲弾が、輪廻の肩口を焼き後方で爆発。
炎が大きく燃え上がった。
一方喰らい付きをかわされた【死龍】は石柱に衝突して折り砕くと、大きな砂煙を上げて消えていく。
「なんだあの戦い……!? 何が起きているんだ!?」
「おい、あれ見ろ! メイちゃんと闇の使徒ってやつらじゃないか!?」
「おお! すげえ……っ!」
旧神殿で突然始まった派手な戦いを見つけて集まってきた、付近のプレイヤーたち。
夜に輝く魔法陣の禍々しさに、思わず息を飲む。
「いけますわ! このまま悪魔の復活を阻止してしまえば、問題はありません!」
「当然だ、このまま潰す」
「――承知」
メイが彼方を追い続けたことで、生まれた好機。
レンたちは一気に攻勢を仕掛ける。
「くっ! 【ファントムダンス】! 【スピンターン】!」
「なんという強さ……っ! これがナイトメアの仲間たちでございますか……っ!」
変わらず薄い笑み浮かべたままの彼方だが、状況は明らかに不利。
もはや敗北は時間の問題だ。
「逃げ回ることすらもう限界が近い……如月は破れるのか……?」
頬をかすめていくブレード。
追い込まれた苦境に、輪廻は思わず自分自身に問いかける。
「……否」
そしてポツリと、自らの問いに答えた直後。
「――――【クリムゾンフレア】」
盛大な一撃が、旧神殿の中央に炸裂した。
「「「ッ!?」」」
吹き荒れる紅蓮の業火。
その凄まじい威力にメイたちは思わず足を止めて身を守り、アンデッド兵たちは耐えきれずに崩れ去った。
そして、晴れていく煙の中――。
「……久しぶりだね、ナイトメア」
誰もがその者の姿に、目を奪われる。
肩にかからないくらいの短さの黒髪ショートカットは、日本人形のように艶やか。
年齢はメイたちと変わらないが、夜月に照らされた顔つきは、どこか少年のようにも見える不思議な少女。
「自己紹介をしておこうかな」
静まり返った旧神殿。
浮かべる、妖しいほほ笑み。
「ボクの名前は刹那」
石柱の上に優雅に腰かけたまま、少女は名乗りを上げる。
「暗夜教団が教主、維月刹那――――ルナティック」
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