540.即興コンビネーション
いくつもの罠を乗り越え、メイたちは錬金術師の研究室にたどり着いた。
広い部屋の端には、様々な研究道具の並んだ棚とデスクがある。
そしてその反対側には、鉄製の重たいドアが設置されていた。
デスクに置かれていたのは、『偽命』の研究日誌。
『ついに完成した【偽命の石】は、死したものにすら命を与える』
『研究番号0019は魔獣を継ぎはぎにした化物のはく製だが、見事に命を与えることができた』
『実験は次の段階へ続く。私が死した後、果たして『偽命の石』によって蘇ることができるのだろうか』
「なかなか闇深い研究ねぇ。この後その研究結果を披露してくれるって感じかしら?」
レンがそうつぶやくと、予想通りドアが開かれていく。
やって来たのは、その胸元に『鈍く輝く石』を埋め込んだ錬金術師の男。
動きは普通だが意思はなく、その肌も石のような灰色だ。
「よ、蘇ることはできたが、記憶や人格を復元することはできなかったということか」
骸骨やゾンビほど生々しくないとはいえ、レンの後ろでちょっとビビっているリズがつぶやく。
「――様子を見ます」
そう言って二本の刀を抜きつつ、雨涙が一歩前に出た。
「助かるわ、お願いね」
雨涙は静かにうなずき走り出す。
「――【早駆け】」
きれいな軌跡を描く高速移動は、一気に敵との距離を詰める。
「ウグァァァァ――ッ!!」
すると錬金術師は、サビた剣を振り降ろしてきた。
剣からは緑の毒液が滴っており、状態異常を引き起こすことは必至だ。
「――【流刃】」
二本の刀に、赤い輝きが灯る。
時限的に通常攻撃の速度を上昇し、火力まで上げるというスキルで華麗な二連撃を叩き込む。
「グァァァァ――ッ!!」
すると錬金術師は恐ろしいうめき声と共に、ゲル状の毒液を振りまいてきた。
「――【苗木越え】」
しかしこれを雨涙は、走り高跳びを思わせる背面跳びで華麗に回避。
着地と同時に強く踏み込み、一気に錬金術師の懐へ。
【流刃】による速く流麗な連撃を叩き込むと、そのまま左手の刀を手放した。
「――【火遁・竜鳴砲】」
鳴り響く咆哮。
突き出した左掌から吹き出す猛烈な火炎に、錬金術師は大きく後退する。
「【暗衝】!」
追撃は、いつもより気合を入れたリズ。
足元に黒色の波動を残しながらの突撃を、移動のために利用して接近。
「目覚めろ【暗夜剣】っ!!」
放たれる三日月形の闇波動が錬金術師を斬りつけ、HPは6割強まで減少。
この隙に雨涙は刀を回収して、態勢を整える。
「かっこいいー!」
「はい、見事です」
リズの重厚さを感じさせる攻撃はもちろん、雨涙の流れるような動きと剣撃は、同じく敏捷型の前衛であるツバメも思わず目を奪われるほど。
同じ二刀流でも、通常攻撃自体の威力を上げる戦い方は興味深い。
「ゴァァァァァァ――――ッ!!」
しかしここで、新たな展開が始まる。
開けっ放しの鉄扉から新たに入り込んできたのは、いくつかの獣を継ぎはぎにして作ったような合成獣。
首元には『0019』の文字が焼き付けられている。
「あれが研究番号0019ね!」
「こちらはおまかせくださいっ!」
「【加速】」
華麗な動きを見せた雨涙に、触発されるように駆け出したツバメ。
合成獣は、マンティコアを思わせる翼を持った獅子。
そのサソリ型の尾が、ツバメを狙って放たれる。
「【リブースト】」
上方から迫る針付きの尾を潜り抜け、懐へ。
「【紫電】」
駆け抜ける雷光で動きを止めた。
「【フルスイング】!」
そこに駆け込んできたのはメイ。
石床に突き刺さったままのサソリの尾に、剣の一撃を叩き込む。
「「「ッ!!」」」
斬れ飛ぶサソリの尾。
めずらしい光景に、メイたちは思わず目を見張る。
切れ飛んだ尾は、地面に落ち炸裂。
毒液をまき散らした。
【トカゲの尻尾切り】を思わせる方法でHPの減少を3割に抑えたマンティコアは、この隙を突く。
跳躍から翼を羽ばたかせ、レンに向かって飛び掛かる。
「リズ!」
「了解した【黒閃天衝】!」
リズが地面を強く踏むと、足元一帯に黒光の槍が突き上がる
「ウォオオオオ――――ッ!!」
この一撃がカウンターで刺さり、転がるマンティコア。
「高速【連続魔法】【誘導弾】【フレアアロー】!」
一方レンは転がってきたマンティコアをかわしつつ、炎の矢で錬金術師を攻撃。
なんとわずか一つの指示から、自らの危機を回避しつつ味方に好機を作ってみせた。
「――【早駆け】」
そしてこの隙を狙い、雨涙が走り出す。
「――【流刃】」
炎上する錬金術師を二本の日本刀で斬り付け駆け抜けると、反撃とばかりに向けられた手。
「グァァァァァ――ッ!!」
放たれたのは氷結の砲弾。
雨涙はしっかりと、その軌道を見定める。
「――【斬り捨て】……御免!」
タイミングがかなりシビアなため、三回に一度くらいしか成功しない斬り払いスキルを見事に成功させてみせた。
迫る氷の砲弾は、切り裂かれて粉砕。
「――【早駆け】【遅れ咲き】」
反撃は高速の斬り抜け。
それは威力こそやや控え目だが、任意のタイミングで起爆し隙を作れるという良スキル。
雨涙が刀を払うようにして振り降ろすと、錬金術師に刻まれた赤の刀傷が一気に開き血しぶきを散らす。
「ギャアアアア――――ッ!!」
「【暗衝】!」
悲鳴をあげる錬金術師のもとに飛び込んでいくのは、黒神リズ。
「眠るがいい、安息に抗う者よ! 【暗夜剣】【闇十字】!」
放つ十字型の黒き波動で、錬金術師を切り裂いた。
「準備できたわ!」
「それではいきます【加速】【リブースト】」
倒れる錬金術師。
一方ツバメはマンティコアの喰らい付きをかわし、突撃を引き出したところで超加速によって置き去りにする。
その足もとには【設置魔法】
ツバメに引き出される形で踏み出してしまったマンティコアは、噴き出す【フレアストライク】に弾かれた。
「【バンビステップ】!」
追撃に駆けるのはメイ。
剣によるシンプルな二連撃で、ターゲットをしっかりと自分に向けたところで後方へ跳躍。
「【ラビットジャンプ】【アクロバット】」
「【低空高速飛行】!」
視線がメイに集中したところに飛び込んで来たレンは、杖をマンティコアの横っ腹に突きつける。
「たまの近接はやっぱりワクワクするわね! 【フレアバースト】!」
ゼロ距離で放つ爆炎が、マンティコア吹き飛ばす。
紅蓮の炎はごうごうと燃え上がり、そのまま敵HPゲージを焼き尽くした。
「上手くいったわね」
「はいっ!」
「お疲れ様でした」
いつも通りのハイタッチから、メイはそのままリズたちのもとへ。
笑顔のメイにハイタッチを求められ、あくまで威厳を保てそうな手の出し方をするリズと、無言で手を出す雨涙。
五人は見事、錬金術師の研究所を踏破した。
「相も変わらず、二つの戦いを同時に手繰ってみせるか……ナイトメア」
ウェーデンのイベント戦同様、一人で二つの戦いの勝利を引き寄せたレンに、リズは感嘆のため息を漏らした。
「――やはり闇の使徒たちは、レベルが違います」
増援のマンティコアをノーダメージで倒したメイたちに、雨涙もあらためて感心する。
「雨涙。純粋に力を求めたナイトメアの本気は、この程度ではないぞ」
「…………」
『純粋に力だけを求めて組織を抜けた』という設定のレン、何も言い返せない。
「これが『偽命の石』だな」
錬金術師が倒れた後、残されていたのは鈍く白い輝きを灯した手のひら大の石。
「これはナイトメアたちが持っていけ」
「いいの?」
「我々はオマケのようなものだったからな。それにもし帰り際を狙われるような事態になっても、ナイトメアたちから石を奪うのは困難を極めるだろう」
そう判断して、リズはメイに『偽命の石』を託すことにした。
こうして五人のクエストは、無事終了を迎えたのだった。
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