1467.翔べパラス・アテネ!
物理では、足止めできても倒せない。
さらに範囲攻撃を連発する黒霧の魔物に対し、レンはついに使い魔を呼び出した。
「いくわよ――――パラス・アテネ!」
翼を広げて空を舞う、アテナノクトゥ。
それを見た黒霧は、すぐさま攻撃を開始する。
空中に生まれた粒子の空間が、豪快な炎を上げた。
しかしパラス・アテネは、弧を描くような飛行でこれを回避。
「お見事です!」
さらに続く球形の粒子空間を、反対方向の弧を進む形で飛べば、置き去りにされた氷嵐が虚しく吹き荒れる。
「すごーい!」
その飛行能力は、魔法学院の森の時と変わらない。
だがそこに続くのは、粒子を鋭石に変えて放つショットガン攻撃。
「【高速飛行】!」
ここでレンの指示が活きる。
飛行速度を突然上げる急加速で、鋭石攻撃まで全てをかわしてみせた。
緩急による見事な回避の後は、反撃だ。
「【火炎弾】!」
身体を華麗にコントロールして黒霧に狙いをつければ、放たれる火炎弾。
これを黒霧も、冷静に回避した。
アテナノクトゥの初期スキルは、思った以上に優秀だった。
シンプルな【火炎弾】は【フレアアロー】より火力が高く、【フレアストライク】に及ばない程度。だが。
「【同時打ち】!」
マーちゃんに発見を頼んでいた、パラス・アテネ用の新スキルをここで発動。
「【火炎弾】!」
火力が高い割に【火炎弾】は連射が効く。
さらに中級最上位のレベルの攻撃に【同時打ち】を乗せると、一度に三発を同時で放つことが可能となる。
迫る三つの炎が、黒霧をかすめた。
「もう一回! 【同時打ち】【火炎弾】!」
続けざまの三発同時打ちに、ついに黒霧が巻き込まれて『ブレ』を見せた。
それは『体勢を崩している』ようにしか見えない。
「【同時打ち】【フリーズブラスト】!」
ここでレンが『覚えさせておいた』氷嵐の魔法が、【同時打ち】によって二発同時に放たれる。
プレイヤーでも上級魔法の同時撃ち使用者は限られる中、それをなす使い魔はかなり貴重だろう。
「私も続くわ! 【フリーズブラスト】!」
さらにレン本人も魔法を使えば、三発の氷嵐が吹き荒れることになる。
黒霧は回避することもできずに直撃。
HPを大きく減らすことになった。
「す、すごいです……!」
「かっこいいーっ!」
これには驚きの表情を見せるまもり。
メイも目を輝かせて飛び跳ねる。
「反則的よね。さすがに【フリーズブラスト】と一緒に使うと【同時打ち】の再使用が遅くなるんだけど、それでも十分驚異的だわ」
猛烈な氷嵐に斬り刻まれ、その身体を霧散させた黒霧。
再び原型を取ると、反撃はレンを狙う形で放った。
「っ!!」
続けてパラス・アテネを狙うと思っていたレンは、反応が遅れた。
粒子が起こした炎に焼かれて、ダメージを受ける。
「使い魔と自分を別々に動かすのが難しいのよね……! 使い魔の方ばかり見ていると、カメラのファインダーをのぞいてる時みたいな感じだわ!」
その場に自分もいることを忘れて、使い魔に集中してしまいがちになってしまう。
慌てて横っ飛びをするも、続け様の白嵐に肩を弾かれ転がった。
「【稲妻】!」
ツバメが即座にフォローに入ると、斬られた身体を元に戻しながら接近して、鋭石のショットガンを放つ。
「【かばう】【コンティニューガード】【地壁の盾】!」
しかし今度はまもりの防御で、ツバメを守る。
「パラス・アテネ! 【火炎弾】!」
主の体勢が整っていなくても、指示さえあれば攻撃に入れるのが使い魔の強み。
放つ炎弾が、敵をけん制する。
黒霧がこれをかわしたところに、大きな跳躍で跳んでいくのはメイだ。
「【装備変更】【ラビットジャンプ】【アクロバット】! それええええーっ!」
【狐耳】による【狐火】を灯した一撃が、炎弾をかわしたばかりの黒霧をかすめた。
「パラス・アテネを使った連携も、面白くなりそうね……!」
攻撃から防御、そして再び攻撃へ。
パラス・アテネを入れての連携に、思わず笑みがこぼれるレン。
気付けば敵の残りHPは、あとわずかだ。
「「「「っ!?」」」」
すると黒霧自体が、その形態を無数の粒子に変えた。
そのまま大量の小さな閃光が、まもり目がけて怒涛の直進。
「【コンティニューガード】【天雲の盾】!」
防御に成功したものの、怒涛の勢いで迫る粒子の小さな爆発は、それこそ急流のような力強さ。
攻撃を防ぎ切った直後に、まもりはそのまま転倒した。
すると今度は前衛組二人を狙うような位置に、収束する粒子。
巻き起こる爆発に、逃げ場はなし。
「「っ!!」」
メイとツバメは防御して事なきを得るが、さらに黒霧の攻撃は続く。
先ほどを超える、大量の粒子が収束。
さらに大きな規模の爆発が、今度はレンとまもりも巻き込んで巻き起こった。
「くっ!」
続けざまの攻撃はもう、ひたすらの防御で耐えるほかなし。
我が身を削るような激しいスキルは、削りの性能も高くやっかいだ。
こうして戦いは完全に、残りHPわずかとなった敵の、捨て身攻撃を前に防戦一方の形になってしまったが――。
「……それで、優位を取ったつもりかしら?」
防御に徹している状況だからこそ、レンは次の手を打つことができた。
「敵の攻撃が私たちに集中することで、こういう事も可能になるわ! ――――【ギリーフェザー】解除!」
羽毛の色を、付近に合わせて変えるそのスキル。
大きく回り込むような飛行で近づいてきたパラス・アテネが、空色の羽を戻して空中に現れる。
「【増幅のルーン】発動! 【同時打ち】【火炎弾】!」
【見覚えの成長】という、主人の戦い方やスキルを見て覚えるパッシブ能力があることを知ったレンは、火山のクエストでできる限りの魔法を使用。
自身の持つ魔法を記憶させ、その中から選んで覚えさせたもう一つのスキルは、【増幅のルーン】だった。
これによって【同時打ち】の効果が上昇し、放たれるのは脅威の六発同時発射。
範囲攻撃を連発していた黒霧に、回避のしようなどない。
集まってくる炎弾を次々に喰らって、大きく崩れる黒霧。
「これで終わりよ! 【フレアバースト】!」
最後にレンの放った爆炎が混ざり、上がる大きな炎が黒霧を焼き尽くす。
「ご苦労さま」
盛大な爆炎が燃え上がる中、優雅にレンの肩に戻ってくるパラス・アテネ。
「これが、使い魔なんですか……?」
「火力も援護性能も高すぎるだろ、今の時点でもう並みの魔導士より優秀だぞ……」
燃え盛る炎を背に、穏やかな笑みでフクロウの小さな頭を撫でるレンに、マーちゃんたちは呆然。
もはや唸り声を上げるほかない。
「まずは軽く高速移動砲台としてスキルを覚えさせてみたの。【火炎弾】が意外と高性能なのよね。【同時打ち】との相性もいいし」
アテナノクトゥの初期スキルは、シンプルだがなかなかに優秀だ。
「まだいくつかの攻撃パターンを作っておいて、それを状況に合わせてやっているだけだけど……悪くないでしょう? できることが多いと自分の動きとの連携が大変だけど」
「驚きました。非常に優秀な使い魔ですね」
「カッコ良かったよー!」
「こ、これでまだ第一弾というのが恐ろしいです……っ」
現状の使い魔のレベルでは、初期スキルをのぞいて覚えさせられるものは三つだが、それは当然増えていく。
さらに使い魔は戦闘だけでなく、小さなアイテムを運んでもらったりもできそうだ。
理想は高速移動砲台でありながらルーンによる援護もできる、パラス・アテネとのフレキシブルな連動。
難しいからこそ、レンは楽しそうだ。
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