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異界迷宮を歩むもの  作者: 戸美丸
21/23

21話

 今年は5連休のゴールデンウィーク、その初日。

 俺は第6層までやってきていた。

 今回の目的は第7層。新階層への進出だ。


 そうしようと思ったのは、カズが位階を上げていたことを知り少し焦ったから。

 とはいえ、索敵技術が足りていない状況なら行くつもりはなかった。

 だが、魔力感知のランクがFからEに上がったことで、半径5mほどなら魔力の存在を感知できるようになったことで、俺の危険察知能力は大幅に上がったのだ。よって今回の第7層進出は実行されることとなった。


 というわけで現在第6層。

 襲い掛かってくるスケルトンたちをメイスで砕きながら道を進む。

 スケルトンは足音がうるさいので、魔力感知なしの俺の索敵でも余裕でわかる。


 30分ほど歩き、突き当りの壁を右に曲がれば第7層への階段といった場所まで来たところで、俺の視界に黒い何かが映りこんだ。


「ッ……!?」


 反射的にメイスを構える。

 しかしそこにはなにもいなかった。


(なんだ今のは……確かになんかいたぞ……)


 さらに、見間違いでなければあれはスケルトンではない。

 スケルトンの体は当然白いし、足音も何も聞こえなかったのだ。


(……行くか)


 俺は第7層への階段とは別方向、左側の通路へと足を進めていった。


 地図で確認すると、この先は小さな部屋が2つあるだけで分かれ道もないようだ。

 俺は慎重に歩を進めていく。

 そして一つ目の小部屋の前にたどり着くと、空間収納からワンドを取り出し深呼吸をする。


「ふぅ……」


 一気に部屋の中へと駆け出す。

 すると小部屋の中に入った瞬間、背後の壁が大きな音を立てて崩れる。


(くそっ、罠かよ!)


 舌打ちと共に状況を確認する。

 しかし、黒ゴブリンが出た時のように魔物が現れる様子もない。


(どういうことだ……?)


 まさか単純に崩れただけなのか。そんなことを考えて瓦礫となった壁に触れた瞬間。


「痛ッ……!?」


 電気のようなものが流れて手が弾かれた。

 それと同時に背後に魔力を感知、考える間もなくメイスを振り回した。


「うぉ……っ……」


 しかし返ってきた感触は空振りのそれ。爆発も起きなかった。


(やべえ……くそっ……!)


 相手がどんな奴かはわからないが、少なくとも魔物であることに間違いはないはずだ。

 ――このまま固まっていたら殺されてしまう。

 そう判断した俺はすぐさまメイスを手放すと、床を転がりながらその場を離れる。


 痛みもなく、攻撃は避けられたか。そう考えた俺の目に映ったのは予想外の光景だった。


「女……?」


 そう、女。

 そこには白いワンピースを着た中学生くらいの年頃の少女が立っていた。


(武器はないか……。誰だこいつ……?)


 俺と同じ探索者ではないだろう。

 俺の家から入れたはずもないし、そもそも軽装過ぎる。


「……お前誰だ」


 俺がそう問いかけると、少女はこちらを向いてにっこりとほほ笑んだ。


「ねえ……あなたは牛肉と豚肉と鶏肉、どれが好き?」

「は?」


 何を言い出すんだこの少女は。

 いや、そういう魔物ということなのだろうか。


「それ答える意味あんのか?」

「あるよ。いいお肉があるの。連れてってあげる」

「……どこに?」

「お肉があるとこまで」


 意味が分からない。

 魔物にしては知能があるし襲い掛かっても来ない。

 しかしこの状況は黒ゴブリンの罠と似通ったところが多すぎる。


(くそっ、どうすればいい……!?)


「あー、俺さ、ここから出たいんだ。肉とかいいからさ、そこの瓦礫どけらんない……?」

「……お肉食べたら退かしてあげる」


 明らかに何かある。

 あるんだが……よくよく考えればゴブリンの罠も倒すまでは出られなかった。

 つまりはここもそういうことなのだろう。

 そう結論付け、俺は少女に付き合ってやることにした。


「じゃあ、牛肉が食いたい。連れてってくれ」

「うん。わかった。じゃあそこに立って」


 そう言って少女が指をさしたのは小部屋の中心。

 嫌な予感しかしないが、メイスを拾ってからそこに立つ。


「じゃあ、頑張ってね。元気のいいお肉だから」


(元気のいい……? ……ッ! そういうことか!)


 少女のにこにこと笑っていた顔が凶笑へと変わる。


「第15層ボスのミノタウロス、倒せるといいわねぇーっ! アハハハハハッ!!」


 可愛く微笑んでいた少女の顔が凶笑へと変わる。


「なッ……!?」


 足元の床がなくなる感覚。

 咄嗟に少女を殴ってやろうと伸ばした拳は一歩手前で届かず、俺は暗闇の中を落ちていく。


「こっのクソアマがぁぁぁあああああッ!!」


 最後の悪あがきとばかりに毒を吐く。

 しかし少女は余裕の表紙で佇むのみ。


 やがて少女の姿も見えなくなり、あるのはただ下に広がる暗闇のみ。

 落下の最中は何も感じられず、いつ地面に落ちるのかと身構えることしかできない。


(……あれ、まだ? ……これミノタウロスとかじゃなくて、落ちた時に死ぬんじゃ……)


 30秒経っても未だ地面は見えず、落下速度はどんどん加速していく。

 死因は墜落死か、そう思った瞬間、一粒の光が視界に入る。


(いや、もう遅えだろ……普通に死ぬわ)


 光はだんだんと近づき、大きくなってゆく。

 視界一面に光が広がるほど大きくなった瞬間、俺の体に凄まじい衝撃が走る。

 それと同時に全身に圧迫感。

 すぐに状況を理解した。


 水だ。

 俺は今水の中に落ちた。


 おそらくここで勢いを殺せる仕組みになっていたのだろう。

 だが、完全には勢いを殺しきれなかったようで、そのまま空中に浮遊していた水球から放り出される。


「……あー、痛え……。でも生きてる……」


 硬い土の上に倒れこみながら、自分が生きていられたことに安堵する。

 だがスマートな入水ではなかったので、肌を露出していた部分は赤く腫れ上がっており、刺すような痛みに襲われている。


「にしてもここ……ッ!?」


 立ち上がってあたりを確認しようと思った瞬間、背筋に強烈な寒気がはしりその場を飛び跳ねる。

 後ろから轟音が鳴り響き、砕けたのだろう地面の破片がいくつか飛んできた。

 何か起こったのかと後ろを振り向いて確認すると、そこにいたのは化け物だった。


「……ミノタウロス……」


 そこにいたのは化け物だった。

 牛頭の巨人。筋肉で覆われた褐色の肌に4メートルを超える体躯。その背丈を越えるほどの戦斧を持ち、獰猛な表情でこちらを睨みつけている。


 はっきり言おう。

 これは死んだ。

 カズの言葉を思い出す。


『適正レベル、ってか位階は、今のところ階層の数字と同じくらいだぞ。ボスはソロなら階層の5つ上もあれば余裕で勝てる』


 じゃあこのミノタウロスは?

 あの女は言っていた。第15階層ボス。

 俺の位階は15。ミノタウロスに勝つには5つも足りない。


 ――位階5つ分の差は、努力や気力でなんとかなるものでは、決してないのだ。


「は、はは……っ」


 乾いた笑いが口の端から漏れる。

 そんな間も、目の前のミノタウロスは最初に斧を叩きつけた位置から動いていなかった。


(なんだよ……!いつでも殺せるってか!?)


 まるで、お前など取るに足らないとでも言われたようでイラつく。


(ダメだ落ち着け……ここでやらかしたらマジで死ぬぞ)


 どうにかこの状況を潜り抜けられないかと、あたりに目を走らせる。

 すると気になるものを見つけた。


(扉が……開いてる……?)


 そう、おそらく本来ボスに挑戦するものが入ってくる扉。それが開いていたのだ。

 このイレギュラーな状況ゆえなのかどうかはわからないが、希望は見えた。


(やってやる……!)


 俺はミノタウロスへと駆け出した。

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