EX STAGE46:反逆の時
場面は戻り、神立時空図書館へと戻る。
あんなこんなで、私は肉体を憤怒に奪われていた。
お恥ずかしい話だ。
窮鼠猫を噛むとはよく言ったものだ。
追い詰められた悪に、まんまと肉体を奪われてしまってた。
しかも、あいつは私の意識を覚醒させたままで、悪事を行っていた。
私の身体、私の声、私の魔法で……。
多くの人を騙し、私の愛するものたちを傷つけ、邪悪に翔琉を差し出してしまった。
この贖罪は必ずやる。
例えこの魂が朽ちようとも……何度でも何度でも蘇ってやる。
でも、今は……この憤怒を倒すことにしよう。
「いやぁ、それにしても……君の身体って意外だよね~割りと胸もあるし」
憤怒は私の身体を使って、私の胸を揉んでいる。
おい、胸揉んでるときそんなスケベオヤジみたいな顔するのやめろ。
「さてさて……お喋りはこの辺で……時の監視者ディル。 今すぐ、この身体に戻るか……それとも消されるか……どちらがいい?」
憤怒は余裕顔だった。
何故なら、あいつの手元には人質となるべきものが揃っているからだ。
ここにいる捕らわれた者たち……そして、私の肉体。
それは、まさしく圧倒的な不利という状況を物語っている。
だが、私は諦めない。
希望は捨てない。
「断る……私は、お前たちを倒して、必ず翔琉を救って見せる。 そして、裏で糸を引いている黒幕を……この手で……」
私は思い出していた。
あの時……始まりの塔付近の遺跡で見てしまったものを。
そして、黒幕の正体を。
邪悪とエンドを操り、悪の因子たちを従えている本当の黒幕……それは。
「じゃあ、死ねよ……ディル!!」
憤怒はそう私に言い放ち、時空間魔法を私に行使する。
だが、私はその時空間魔法を同じ時空間魔法で相殺させる。
以前、私が魔法を使おうとしたとき、憤怒は魂側から干渉し、魔法を使えなくしていた。
だが、今はどうだ?
私は私の肉体から脱出した状態……つまりは、奴が魂側から干渉することのできない場所にいる。
故に私は、霊体であるが魔法を使えるのだ。
勿論、肉体のあるときの方が強力なのだが、贅沢は言っていられまい。
向こうも同じ条件なのだからな。
私の肉体に宿っているとはいえ、憤怒の肉体はすでに無くなっている。
元の肉体……というものは、そもそも昔に無くなったと言っていた。
だから、相手を怒らせ肉体を奪ってここまで来たともあの戦闘後に悠々と語っていたものだ。
肉体が本来のものではないと、100%の力を発揮するのには、その肉体に魂が馴染む必要がある。
それは、約1年の時間を要するはずだ。
例え、時空間魔法で早めても、最短で9ヶ月だ。
あの戦闘直後から計算しても、まだあと2ヶ月はある。
それに、私は内側……つまりは、魂側から抵抗していたからな。
もっと遅くなっているはずだ。
「時空間魔法:明鏡止水」
「無駄よ、時空間魔法を扱うもの同士では時間を止めることは無意味……。 何故ならば、時空間魔法を完全に継承された者は、その身体の時間を狂わされるのだからね。 勿論、魂さえも……」
「それが時の監視者たる由縁か。 時を見守る義務のため、そのものの生の時間は停止される……お前、本当は何歳なんだか……」
憤怒は再び、私の胸を揉む。
だから、スケベオヤジみたいな顔しながら人の胸揉むなって。
「いや、でもこの弾力と言い……肌といい、まるで10代そのものだ……まさに、不老に相応しい身体なのだろうな」
「不老なんかになりたくてなった訳じゃないけど……まあ、魔法の副作用ってとこね。 さて、そろそろ私の身体から出ていってもらうわよ」
そう言い、私は私の肉体に向かって、手をかざす。
すると私の身体はみるみると歳をとっていくのだ。
少女の姿から、一気に老女になっていく。
「ひゃぁ……ひゃひほひはんは……」
もう、歯もすかすかで、正直聞き取りにくいんだけど……恐らく、何をしたんだと言いたいんだろうね。
「どうもしないわよ……私が私の身体を本来の姿に戻したってだけ……本当の時間に戻しただけよ……」
「ひゃ、ひゃんへほほほ。ほへは、ほはへほははははほひ」
な、なんてことを。
これはお前の身体なのに……という感じかしら?
「私の身体だからこそ……貴方みたいなおぞましい者に乗っ取られるくらいなら、消し去った方がマシよ」
「ほ、ほほへぇぇぇぇぇ!!」
憤怒はようやく私の肉体から飛び出る。
そのチャンスを狙い、私は私の身体へと戻る。
「ふん、そんな老婆の姿になってなにを……」
「……時空間魔法:反逆の時計」
すると、私の身体はみるみると元通りの姿になっていく。
10代のあの姿に。
「な、なんだと!!」
「私の身体の時間を巻き戻した……ダメでしょ、憤怒。 私は時空間魔法の完全な継承者。 自分の身体を老いさせることも、若返らせることさえも……容易なのよ」
さあて、肉体も取り戻したことだし……。
反撃、開始だ。




