EX STAGE47:消滅の憤怒
憤怒は私を怒らせようと、罵倒や翔琉の悪口、閉じ込められた仲間たちの侮辱などなど試した。
が、私は……怒らなかった。
否、怒る気力にならなかったのだ。
こんなにも死にそうに、必死に抗って足掻いている憤怒を哀れだと思ってしまったからだと思う。
哀れすぎて哀れすぎて……。
終わらせたくなる。
「やめろぉ……デ、ディル……」
私は時空間を圧縮した光をその手に宿していた。
この光に触れれば、あいつは……憤怒は未来を失う。
そして、その存在も。
「いいえ、やめないわ……」
私は光を憤怒へと差し出す。
憤怒は逃げ回る。
が、空間を次第に狭めていく。
そりゃそうさ。
魂さえも逃れられない空間を展開し、しかもそれを狭めているのだから。
「い、嫌だ……嫌だ……怒れ、怒れ、怒れ!!」
「……怒らない」
「天野翔琉はクズだ!ゴミだ!掃き溜めだ!」
「……怒らない」
「お前の仲間たちはみんな死ぬ運命なんだよ、邪悪様たちによってな……潔く身体を寄越せよ……ブス」
「……怒らない」
「お前の母、クロノスは本当にクズだよな……お前を1人残して勝手に時空間の狭間に閉じ籠ってさ……バカだよバカ」
「……怒らない」
「や、やめろ……その光を私に近づけるな」
「さようなら……憤怒」
「い、いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!し、死にたくない、死にたく……死に……」
こうして憤怒は消滅した。
というか、消滅させた。
これでよかったのよ。
あいつは、世界を乱す者。
だから、私が思っているこの気持ちは筋違いだ。
私の肉体を奪ったのに、私にあんな酷いことさせたのに、私を殺そうとしたのに……。
「どうして、気持ちがスッキリしないのかしら」
なんかもやっとしている。
この晴れない気持ちはなんなのかしら。
いや、きっとこれも全てあいつの手のひらの上で踊らされているからだろう。
私は誰かの手のひらで踊らされていることを知っている……だからこそ、こんなにも晴れない気持ちなのだろう。
「あいつの思い通りになんか、させてたまるもんですか……」
そう言って私は、このシェルター内のガラス容器全てにヒビを入れる。
そして、容器内から出てくる邪ナモノを全て浄化させる。
なあに、始まりの神の力を時空間魔法で現出させているからできる芸当ってわけなのよね。
「さあて、そろそろ目覚めなさいよ……みんな」
時は紡がれる。
私は時の監視者ディル。
全ての過去や未来を見通せる女。
だが、私は未来に干渉することはできない。
何故ならば、干渉したところで無意味なのだ。
歴史の修正力……というものが、働いてしまい、どんなに都合よく進めても、最後にはその分溜め込まれた都合の悪いことが押し寄せてくる。
死を回避しようとしても、やがて来る死には抗えないように。
歴史ある建造物が、天災で無くなったり。
希望を得たものが、最後に絶望するように。
物事には必ず結末が存在する。
だからこそ、私はこの物語の裏方に徹しよう。
それが、唯一手のひらで踊らせている者を倒す隙を生むと信じて。
そして、彼を信じているから。
歴史の修正力を悉く破ってきた私の愛した男をね……。




