EX STAGE44:時の監視者ディルvs7体の悪の因子
"戦闘シーン?
そんなものはないよ。
だって、勝負はすぐに終わった。
とはいっても、この普通の時間帯ではって話。
私は時間を止めていたから、本当の時間はもっとかかっているんだろうね。
とりあえず、結論だけ言おうか。
私は勝ったんだよね。
「ぐっ……嘘だろ?」
「俺ちんの魔法が……効かないだなんて……」
「私様の……力より上だなんて……」
「時間を止めるだなんて、反則だろ……」
各々、悪の因子たちは憤怒を残し、地に伏せていた。
憤怒は、と言えば……目の前にいるよ。
身体の半分以上を失った状態でね。
「はぁ……はぁ……」
「案外……呆気ないものね。 悪の因子って」
((いや、お前が強すぎるだけだよ!!))
なんだかそんなツッコミが聞こえたように思えたけど、気のせいかしら。
「はぁ……はぁ……ははっ……」
息を絶え絶えにしていた憤怒は、突然笑い始める。
そして、その肉体を修復させるが、ダメージは消えていないようで、がくりと地に倒れ込んでしまう。
「流石は時の監視者……その力は、伊達じゃねぇな……」
「お前たちがバカみたいに弱っちいだけでしょ」
「ふふっ……あはっ……」
まるで壊れた人形のように不気味に笑い続ける憤怒を見て、暴食は慌て始める。
「ま、まずい……怠惰!!」
「オッケー」
と、怠惰は憤怒以外の悪の因子を集め、自身の周りに結界を張る。
その直後だった。
憤怒から、禍々しいまでの魔力を感じたのは。
「あはっ……あははっ……あぁぁぁぁぁん?てめぇ……いい加減にしやがれよぉ??」
突然、憤怒の口調が変わる。
そして、醸し出していた雰囲気や、魔力の質さえも変化する。
邪悪であり、黒々しく禍々しいものに。
「てめぇぇぇ!!俺様をキレさせたんだから、死ぬだけじゃ生ぬるいぜ」
「明鏡止水」
私は空間を停止させる。
お喋りは不要だ……早く、けりをつけないと翔琉の身が……!!
「う、嘘でしょ……」
私は目の前の現象を疑った。
全ての時間は止まっている。
その証拠に上空の鳥や、雲は止まり、風は消え失せている。
なのに、なぜ……憤怒は止まらないんだ。
未だに止まらずに、こちらに向かって殺意と悪意の牙を向け、言葉を発している。
「なぜ、時間が止まってないんだ……」
「んなもん、いちいち説明しねぇよ!」
そう言って憤怒は、私に向かって走りながらパンチを繰り出してきた。
何てことはない普通のパンチ。
魔法で防御……!!
「ダメ!」
私は寸前のところでパンチを回避した。
なんだこの違和感は。
「おら!!」
と、憤怒は体術による攻撃を繰り出してくる。
私は半信半疑だったが、あえて魔法の盾を張り、あえて盾を憤怒の拳にぶつけてみた。
するとどうだろうか。
盾は粉々に消えたのだ。
「まさか……魔法耐性を……!!」
「ふん、気づくのがはぇえんだよ、ボゲェ」
瞬きするまでもなく、私は詰め寄られ蹴り飛ばされる。
幸いなことに、骨は折れてはいない。
ヒビも入ってはいないが、これはもろに入ってしまったせいか、吹き飛ばされ、瓦礫となった建物から這い出た私は吐いてしまう。
口の中に酸っぱいのと苦い味が広がる。
「はぁ……はぁ……」
「どうした?ゲロ女……さっきまでの威勢はよぉぉ?」
憤怒と私の強さは完全にひっくり返ってしまっていた。
驚いたことに、こいつ……魔法耐性が翔琉並みに高く、更にはその魔法耐性の力を自在にコントロールし、一転に集中させることもできるようだ。
「魔法を使っては勝てない……なら」
私は肉弾戦に移項しようと考えた……が、とてもじゃないけど力では勝つことはできない。
相手の肉体は明らかに鍛え抜かれた肉体。
知と魔法の鍛練を主としてやっている私ではとてもじゃないが敵わないだろう。
だから、私はこの時考えたのだ。
魔法耐性を破る魔法を。
魔法……というよりは、この場合は魔術と言うべきなのだろうな。
何故ならば、たどり着いた方法が、滅び去ったノース文明の魔術だったのだから。
「おらおら、どうした?ゲロ女!! その程度か?」
「もういいの……もういいのよ……」
「あぁぁ?」
「どうせ、これでけりがつくから……」
「ほう……面白い……やってみろ!!」
憤怒は駆け始める。
その勢いは、まるでサイの突進のような勢いだ。
まっすぐ私に向かって勢いをつけているのがわかる。
そんなやつの方向に向かって、私は魔法陣を描く。
ノース文明のノース文字……確か、図書館で前に見た記録だと、この陣であいつは打倒できるはず。
「喰らえぇぇ!!ゲロ女!!」
憤怒は勢いのつけたその身を空中へ飛ばし、強靭な足を私の方へ向け飛来する。
だが、私の描いた魔法陣はそれを意図も容易く防ぎきる。
魔法耐性の力を足先に集中させる憤怒だったが、ここで思いもよらない事態が発生する。
彼が持っていたはずの魔法耐性……それが、消えたのだ。
「な、なんだと……」
「これが、ノース文明の魔術……【強制排除】。 対象の能力を全て消し去る力……さあ、魔法耐性が消えたんだから、止まれ!! 明鏡止水!!」
憤怒は止まる。
世界は止まっている。
そして、私は力の消費が激しいあまり、その場に膝をつくが、勝利を確信していた。
そう……この時までは。
"




