EX STAGE42:時は戻る
時は同じく……。
天野狼牙たちが、同属性の融合方法を理解した頃……時の監視者にして、悪の因子【憤怒】となったディルは、とある空間にいた。
そこは、時の監視者が代々と受け継ぐ何者にも干渉することのできぬ絶対空間。
神立時空図書館。
その図書館に隣接した、全世界の人間たちを移住させることのできる巨大なシェルター内……そこに彼女はいた。
現在、このシェルター内は、悪の因子たちの手により、悪用されている。
「ふふっ……いい子に育ちなさいよ、我らが主の僕たちよ」
そうディルが言う先には、ずらりとガラスの容器が並べられ、その中に成り代わられた者たちが、邪ナモノの液体に浸された姿があったのだ。
ここは、成り代わられた者たちが集められ、洗脳される場所……。
云わば、その存在を消された者たちが保管された場所。
そして、やがて生まれる新たな悪の因子たちを育てるゆりかごでもある。
邪ナモノにより、誘拐された者たちは、ここに自動的に転送される仕組みになっている。
そして、誘拐された者たちはこの邪ナモノ……つまりは、邪悪の力が宿っている特殊な液体に浸され、じわりじわりとその肉体を侵食される。
肉体を全て侵食され尽くしたら最後……邪悪の思いのままに操ることのできる人形となってしまう。
そうなってしまえば、例え天野翔琉の引き起こす数々の奇跡さえも通用しなくなる。
だからこそ……。
だからこそ……。
私は……この溶液の時を止め続けている。
「ふふっ……待っててね、人形たち……お前たちを止めている凶悪女は、私が殺してあげるからね……」
そう言って、私の身体を奪っている憤怒は、その身体の中に閉じ込めていたと思っていた私……ディルの魂と対峙していたのだった。
「殺してあげるからって……私はそう簡単に殺られないけど?」
「ふふっ……強がっちゃって。 今なら許してあげるから、ほら……液体の時間を解除しなよ……ディル」
「気安く名前……呼ばないでくれる」
私は憤怒を挑発する。
こんな霊体のような姿でも、まだやれることはある。
せめて……せめて、こいつだけでも。
「うふふっ……ディルったら、私を怒らせようとしても無駄よ♪」
「頼むから、私の身体、私の声でそんな風に喋らないでくれない? 気持ち悪い……」
「あらら♪ いやん♪」
憤怒は私を怒らせようとしている。
それはなぜか……。
その事について語るとするならば、こいつとの初戦を思い出すだけだ。
"あの日……私は、成り代わり現象について調べていた。
始まりの塔付近で、トルネたちが消息を断ってから戻ってきた……という話が、どうにも腑に落ちなくてね。
いや、あのトルネたちが、拐われたにも関わらず、何の情報もなくぬけぬけと帰ってくるなんてことはあり得ないと思ったからさ。
だって、仮にも大魔導士である彼らが……幾度もなく戦闘を経験している彼らが、そんなバカな事をするはずがない。
故に、私は彼らが、偽者ではないかという推論にまで達していたのだ。
かつて、私を騙したドッペルゲンガーレベルの偽装能力を持った生命体ならば……違和感を持たずに、変身できることなど不可能ではない。
「さてと……ここが例の場所ね」
かつて始まりの塔の周りに栄えていたとされる都市の遺跡に私はやって来ていた。
そして、ここで多くの者たちが消息を断って、そして再び戻ってきたとされる場所。
噂によると、黒い液体のようなものに飲み込まれた……とされているけど、こんな水気のない場所でどうやってそれが現れたと言うのだろうか。
そうだ。
「時空間魔法:過去読み」
私が扱う魔法は、時空間魔法。
これは、光属性と闇属性の両方を併せ持つ魔法で、文字通り時間と空間に関係した魔法だ。
今やっている過去読みは、周囲3km圏内で発生した事象を見る力。
言うならば、過去に起きた出来事を見る魔法である。
さて、トルネたちは……。
……。
……。
……!!
「……こ、これは……!?」
私は目の前の光景を疑った。
だってそこには、だってそこには……。
「……まずい!!」
これは非常にまずい事態になっている。
まさか、まさか……こんなことが。
あり得ないとは言わないが、いや……でも……これは。
「おやおや、見てはいけないものを見てしまったようだね……お嬢ちゃん」
唐突にその声は私の耳元で囁かれた。
私は急いで、その声の人物から遠ざかり、臨戦態勢を取る。
先程まで私のいた場所には、道化のピエロのような格好をした男が立っていた。
「あはっ♪そんなに、距離を取らなくてもいいじゃないか……ねぇ、時の監視者さん」
「貴様……何者だ!!」
「私の名前は憤怒。 偉大なる邪悪様が作った悪の因子の一人さ」
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