EX STAGE25:狂乱の神外者
天野翔琉の異世界の弟である天野狼牙。
天野翔琉の異世界の妹である天野蘚琉。
異世界……というより、天野翔琉が作り出した偽の世界に訪れた人物たち。
いや、住み着いていたというのが正しいのかもしれない。
そういう設定を与えられて、存在させられていた存在。
だが、彼らは実態のある、正真正銘の本物だ。
時を越え、空間を越え、因果というべき事象に近しい何かによって、あの世界に封じられる運命だったのだろう。
そして、今……彼らは自由になってしまっている。
少なくとも前の……パラノイア時代であったなら、絶対に外に出すわけにはいかなかっただろう。
しかしながら、彼らは今、天野狼牙であり天野蘚琉である故、各々の個を持った存在である。
前のように無邪気に、無惨に、残虐に周りを捕食しないはずだ。
もし、そんな事になったら、どうにか抑えるしかない……が。
今はそれよりも、彼らにはとある事情を説明して時空の狭間に来て貰っている。
来て貰ったんだけど……。
「な、なんだこれは……」
思わずその言葉が口に出してしまった。
なぜならそこには、血まみれでうち伏せられていたクロノス、概念の存在であるながら消えかけているファースト、そのまま、そして死にかけている鳳凰の姿があったからだ。
更には、時空間の狭間がめちゃくちゃに壊されていたのだ。
壊されているなんて生易しいレベルではなく、最早消滅は時間の問題と言ったところだったんだ。
「おい!大丈夫か!」
そう言ってヨルヤたちは、ファーストたちを介抱する。
状況がその時全く読めなかった……が、とある結晶体が破壊され、そこに封じられていた者が消えていた事が、彼らにとって全てを物語っていた。
「す、すまない……油断した……」
クロノスは、必死に傷口を抑え、立ち上がる。
その腹部からは、血が滲み出ており、相当傷が深いことを物語っていた。
「まさか、翔琉が……?」
「ええ……結晶では抑えきれなくなって……翔琉くんは、翔琉くんは……」
と言いかけ、ガタガタとクロノスは身を震わせ虚ろな目になってしまう。
「おい、クロノス……」
「いいわ……私が話す……」
そう言って、ファーストはゆらりと消えかけている身体を無理矢理修復して浮かび上がった。
「……翔琉は、神外化し……神外者になってしまったのよ」
そう言ってファーストも震え始めてしまった。
「それで、その翔琉は……どこに……‼」
そう言った瞬間だった。
時空間の狭間の崩壊は止まり、全てが元通りに修復された。
そして、ファーストたちの傷跡もきれいに無くなり、時空間の狭間は強烈な光に包まれた。
全員が直視出来ないほどの光の先に、ボロボロの白衣を来て、天使のような羽と悪魔の尻尾を生やした男が立っていた。
そして、目が赤く光っていたその男の名は……。
「天野……翔琉……」
「おや、みんな……俺の名前は天野翔琉。 人外にして神外に成り果てた、異常で狂気な神外者だよ……」
神外者と成り果てた……いや、人間からその存在に成り代わってしまった天野翔琉は、ゆらりゆらりとこちらへと近付いてきた。
先程までこの世界を照らしていた光は消え、うっすらと翔琉の周りにオーラ状に纏われている。
「あははは、みんな元気~?」
「か、翔琉……お兄ちゃん……?」
「お、蘚琉に狼牙‼ 久しぶり~。 贖罪の旅は終わったのかな?」
「え、ええ……まあ……」
「ふむ、それは上々‼ 素晴らしいね~あははは♪」
蘚琉と狼牙は正直な話、ここまでにこやかに嬉しそうに狂ったように笑っている天野翔琉を見て気持ち悪いと思っていた。
普段の天野翔琉は、ほんの少し微笑む程度……少なくとも、こんなテンションでこんな感じで話しかけてはこないし、なにより笑わない。
「翔琉お兄ちゃん……あなたは、その姿になって……これからどうするの?」
「ええ‼ なに言ってるの? 蘚琉。 俺はこれからほら、邪悪たちを倒すんだろ?」
「え、ええ……」
「そして、この世界を終わらせるんだ~あはははは♪」
そう言って狂ったように笑う天野翔琉の目的はこれではっきりした。
邪悪たちと戦う意思はある……が、世界を終わらせようとしている。
それはすなわち、世界にとっての脅威になるということだ。
そんなこと、おいらは絶対に許さない。
「【捕食】発ど……」
「ダメ‼ 狼牙‼」
蘚琉の声は一足遅かった。
おいら、天野狼牙は天野翔琉を体内へ取り込もうとした。
だが、その瞬間、まるで雷に撃たれたように身体が硬直した。
そして、おいらの身体は……子供の姿に戻ってしまったのだった。
「こ、これは……ひゃ!」
こ、声まで……。
声変わりする前に戻っちまった。
「ダメだよ~狼牙。 俺をお前の体内で捕縛しようとしても、ダーメ」
そう言って翔琉はおいらに近づいてきて、人差し指で唇をなぞった。
うわぁ……それは、どちらかと言えばライとかジンライ辺りにやったら喜びそうな行動だろうて。
「ああ、狼牙……久しぶりに会えて良かったよ……可愛い可愛い俺の弟……」
「か……翔琉お兄ちゃん……」
「ん? なんだい?」
「お兄ちゃん……こんなことは、やめて……」
自然とポロポロっと涙がこぼれ落ちていた。
「ああ、狼牙……泣いちゃダメだよ……」
天野翔琉はそっと俺の涙を手で拭う……が、次の瞬間悪魔の尻尾で俺の心臓を突き刺したのだった。
「さようなら、狼牙……」




