EX STAGE23:死念の底より
ヨルヤたちは、かつて天野翔琉が作った偽りの世界【魔がさす楽園】へと降り立っていた。
そしてここは、魔がさす楽園の天野翔琉が始めて降り立ったとされ、始まりの神が眠っていた【創始神墓地】……があった場所である。
血生臭い死臭ばかりが漂うこの世界……美しく咲き誇っていた花たちも、透き通るような湖も、真っ赤に真っ黒に染まっていた。
空さえも、不気味な赤色に包まれ、雲は闇のように真っ黒だった。
「ふう……なんか久々だわ」
そう雷の大魔導士ライは言った。
そして彼の息子ジンライはその言葉に頷く。
ちなみに、今この世界に来ているのは四人だけだ。
ヨルヤ、ライ、ジンライ、そしてリュウ。
他の人物たちはどうしているかと言えば、お留守番をしてもらっているのだ。
流石に反乱軍の方も心配であったので、他のメンバーはひとまず元の世界へと帰還し、悪の因子と攻防を続けてもらわねばならなかったのだ。
そうしなければ、例え天野狼牙を連れ帰ったとしても、全員が成り代わられているかもしれなかったからだ。
憶測で物事を言うのはよくないかもしれない……が、それほどまでにこの状況は彼らには読めないのだ。
唯一この事態を冷静に知っているとすれば、現在悪の因子にいるディルか、封印されている天野翔琉くらいなものだろう。
「さて……ヨルヤ様。 ここからすぐに始まりの塔があります。 急いで終わらせましょう」
「そうだな、リュウよ。 この場はなにやら、おびただしいほどに嫌な気配が立ち込めている。 クロノスの言うあり得ないことが起こる前に、早々に事を済ませよう」
と言ったその瞬間、唐突に暗雲が立ち込め始めるのだった。
「いけない……みんな、伏せろ!」
そうライが言うと、暗雲は雷雲になり、雷を降らし始めたのだった。
激しい雷の中、ライは同様の雷を放ち相殺させる。
雷は強烈な轟音と、閃光を走らせ雲ごと消えていった。
そして、暗雲があった場所には首のない虎獣人がいた。
その虎獣人の首から上は急速に戻り、とある人物の顔になった。
それは、今まさに雷を防いだ雷の大魔導士ライだったのだ。
「あははははっ、流石だね……本物の俺様よ……」
その声は若干ライより低い……というより、なにかフィルターがかかったような声だった。
その俗に言う偽ライの身体は血まみれで、ボロボロだった。
まるで激しい戦闘直後のようだったのだ。
「な、あれは……パパなの?」
「やあジンライ……俺様の名前はライ。 雷の大魔導士にして、虎族族長の息子……そして、白虎の生まれ変わりだ」
「そんな設定までライパパとおんなじだなんて……」
「設定っていうなよ、ジンライ‼」
本物のライがジンライに思わずツッコミを入れてしまった。
しかし、偽ライはそんな状況でも変わらず普通な顔をしていた。
「ヨルヤ様……これが、あり得ない事象なのでしょうか?」
「そうだな……消去者によって消えたはずの存在がこうして生きている……しかも、復元不可能な状態から回復しているのも見た……これが、あり得ない事象なのかもしれないな……」
「あはははは、あり得ない事象って、あたしたちのことかしらね??」
突如湖の方角から、リュウの声が響き渡った。
そして、湖の底より、彼女の偽物が現れる。
首も腕も身体も……なにもかもが、食いつくされたおぞましい姿で。
しかし、ヨルヤたちに近付くに連れて身体は徐々に回復し、すっかりと本物のリュウと同様の姿へと戻る。
また、地面からまるでゾンビのように、死体が盛り上がり、消去者に殺された者たちが蘇り始めたのだった。
「なるほど……これが、あり得ない事象か。 死者の復活……確かに、あり得ないと言えるが……」
と、ヨルヤが指を鳴らすと、蘇った者たちの首は吹き飛んだのだった。
「ヨルヤ様‼ なにを……‼」
命を守る医者であるリュウは、流石の今のヨルヤの行動には異を唱えようとした。
だが、リュウはそれを言うのを止めたーーー何故なら、ヨルヤの攻撃によって死んだ者たちは、直ぐ様首を回復させていたのだから。
「あははは、無駄ですよ悪魔神ヨルヤ=ノクターン。あなた程度の攻撃じゃあ、我々は殺せませんよ」
そう言って、現れたのは偽物のジンライだった。
偽ジンライは、邪悪な輝きを放っている。
すでに、神魔法を発動させているようだった。
「我々は、【存在を許されなかった者達】。 天野翔琉のご都合主義によって排除された空想の死者。 最初に言っておくけど、この世界にいる限り僕たちには勝てないよ。 だって、この世界は今……俺たちが支配しているんだからね」
「天野翔琉の管理下を外れた今、あたし達は無敵な存在となった……」
「今俺様達が欲しているのは、他世界への干渉……そして、憎き天野翔琉の殺害だ」
「「「さあ、見せしめに貴様らを殺してやろう」」」
そう言って、存在を許されなかった者達はヨルヤ達を殺すべく襲いかかってきたのだった。




