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娯楽都市  作者: 菊日和静
第02話 娯楽屋と正義屋の極楽遊園地
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娯楽屋と正義屋の初めての邂逅?

 娯楽☆ハピネス遊園地。

 娯楽の限りをしゃぶり尽くすことを売りにしている娯楽都市なのに、今まで遊園地の類いの施設はなかった。諸説は色々あるが開発費やら既存のテーマパークの流入数を考慮して利益の確保が難しいから手を出さなかったというのが一般的な見解となっていた。

 もちろん、双六にとってそんなことはどうでもよく、新しくできた遊園地に心躍らせつつ、物珍しい施設をキョロキョロと見回していた。

 入り口付近で風船を子供に配ったりして愛嬌を振りまいているマスコットキャラ極楽鳥の「ごくら君」がいた。

 遊園地のマスコットキャラとして応募されたいわゆる一つのゆるキャラである。

 双六の目からは「不細工な鶏」にしか見えないのだが、不思議と変な愛嬌があり入ってきたお客さんとよく記念撮影をしている。

 俗に遊園地の善し悪しの決め手となるのは「非日常感」をいかに感じさせてくれるか否かにかかってくるわけだが、その点で言えばハピネス遊園地は開園初日とは思えないほど、スタッフ・マスコットキャラ共々指導が徹底されているようであった。

 笑顔で迎え入れられて、道ばたにはゴミくず一つなく、説明を受けるにしてもきちんとテキパキ元気よく教えてくれる。

 入ってまだ1時間も経っていないが、この遊園地の人気は何事もなければかなりのものになるだろうことを予感させる。

 ただ、問題が一つある。

 遊園地側の問題ではないのかもしれないが、ただここが娯楽都市にできた遊園地ということは、ここに来るであろうお客様はーーどれもこれも奇抜な格好をしていた。

 テーマパークであるはずなのに、テーマパークのキャストよりも目立ちそうな格好をした人間たちが溢れ返っている。

 木を隠すなら森の中とはよく聞くが、まさか、テーマパークの存在感すら奪いかねない娯楽都市の住人の奇抜さによって、テーマパークの存在感が逆に薄まっていた。


 ーーおそらくは、僕たちと同じくお金目当ての参加者かな?


 そう双六は見ている。

 そして、その判断は間違いなく正しかった。

 双六も娯楽社会の端くれとして、それなりに『頭のおかしい連中』を相手取ってきただけに、雰囲気的なものと足運びなどを総合的に判断して、怪しそうな参加者が大勢いることは確認している。

 何が起きるかはわからないが、経験上何かが起こるのは間違いない。

 だからーー双六は楽しそうに笑って隣にいる久遠を見た。

 ブスッとした不機嫌そうにしている久遠がこの先何を見せてくれるのか。

 それが何よりも楽しみであった。


「久遠さんって人混み大丈夫でしたっけ?」

「大丈夫だが好きではない」

「僕は好きですよ。ゴミのような人!」

「意味が全然ちげーよ」


 日本語というのは、前後の言葉を入れ替えるだけで意味が変わるから凄い。

 ただ『人混み』も見る人によっては『ゴミ』と大差ないのではないかと思うが、久遠の不興を買いそうなのでそれは言わないでおいた。


「そんで天野はどうした?」

「現地集合なのでそろそろ来ると思いますよ〜」


 天音とは駅で待ち合わせて一緒に行くかと尋ねたが、準備とかもあるから現地集合でよいと言われたので、現地で待ち合わせることにした。

 そして、久遠とも現地集合にしたわけだが15分以上前に着いた双六よりも先に久遠が待っていた。なんだかんだあっても久遠は年上だ。待たせたことに一言謝りの挨拶を入れたら「社会人になる人間の嗜みだから気にするな」と当たり前のように言われた。

 狐島がことあるごとに久遠のことをか「ケンケンかっちょいい!」という気持ちの一端が分かった気がした。


「そうか。……なんだ、その今日は悪かったな」

「何がです?」


 そんな久遠が歯切れ悪そうにそう言った。


「お前らのデートに俺が邪魔するみたいな形になったことだよ」


 その言葉を聞いて双六は不思議と笑いが零れた。

 前にジーニの事件があったどころか、あれだけ盛大に関わっておいて、それでもなお双六と天音のことを『普通のカップル』のように扱った久遠のことがーーひどくチグハグで面白かった。


「ははっ! 久遠さんもそんなこと気にするんですね〜」

「うるせーよ。人並み程度だよ」


 いえ、並の人から大分外れてますと喉から出かけたのを我慢した。


「まぁでも気にしないでください。元がマークさんからとはいえ狐島さんからのお誘いでもありましたし。どのみち一緒に行動してましたよ」

「それが一番不安なんだ。……金さえ良くなかったら絶対に来なかったぞ」


 逆に言えば金がよければ絶対に来るということでもある。

 金を積んでも動かないような人間もいるので、それを考えれば久遠を動かすのは以外と簡単なのかもしれない。

 そして、待ち合わせ時間である午前10時丁度を指した時ーー1秒のズレもなく天野が待ち合わせ場所に姿を現した。


「お待たせしましたね双六君」

「いえいえ今来たところですよ」


 とりあえず、彼氏彼女っぽいことを言っておく。

 それにしても『今来たところ』というのは、相手を待たせたわけでないと気遣って出る言葉だと思うのだが『ちょっと待ってたけど気にしないで』の代名詞になりつつあるのは気のせいではないだろう。

 むしろ、気遣いがありありと滲み出ている比喩だ。

 そう考えると『今来たところ』という言葉は気遣いという点においては不適当であるのではないかと思う。かといって、気の利いた言葉がパッと出るわけではないので、使い古された便利な言葉はこれからも言うことだろう。

 今来たところーー本当に便利な言葉だ。


「久遠さんも本日はよろしくお願いします」

「あぁ。……ったく、女ってすげーな」

「ふふ。それほどでもありませんよ」


 久遠が呆れ混れに漏らす。

 ついこないだジーニモードの天音を見ていただけに、久遠も彼女の人格の切り替えともいうべきほどの変化に感心しているようだ。

 それ以外にも、白のキャミソールに黒のパンツルックというシンプルな装いながらも、上品さ演出する天音は周りの奇抜なお客からも注目の的である。

 本物が出せる存在感というものは、やはり、どのような場所であろうとも輝きがくすむわけではないのだと知った。


「じゃあ皆集まった所で、本日の流れについて説明しますね」


 こういったことは自分の仕事だと言わんばかりに双六が取り仕切る。

 二人とも異論を挟むことなく双六の話に耳を傾ける。


「正午から開会の挨拶が終わった後からイベントが始まるようです」


 開場時に配られたパンフレットの参加概要にそう書いてある。事前に調べた情報とも差異はないため、これは間違いない。


「イベントの内容はスタンプラリーだそうです。遊園地の施設を回って行って、そこで出される問題をクリアしたらスタンプがもらえるとのことです」


 そして、スタンプを全部集めたらクリアとなる。

 そのクリアした組に対して早い者順で賞金が配られる仕組みだ。


「スタンプラリーとか珍しく平和的な感じだな」

「遊園地の施設を沢山回らせようとする広告効果も狙ってるんでしょうね」

「だとするとクイズとかもあんのか? そうなるとあんま自信ねーな」


 見るからに体力自慢の久遠は自信なさげに言う。

 確かに久遠は知識自慢というよりは、体力方面に秀でているのは確かだ。

 

「そんなこともないようですよ。知識だけじゃなくて体力ものもあるようですし、それに知識系統なら天音さんいますからね」

「微力ながら頑張ります」


 ーー天才の微力って僕の全力でも及ばない気がするんだけどなぁ。

 気のせいではない確かな能力差に双六は苦笑した。


「そして、僕はお二人のサポートとして頑張らせていただきます! ふふ〜お二人の活躍をすぐ間近でみられるなんて僕はなんてついているんでしょうか! さぁ、久遠さんに天音さん! めくるめくお二人の活躍をこの遊園地に刻み込んでやろうじゃありませんか!!」


 何にせよ今日は楽しい遊園地だ。

 テンションを上げつつ、これから来るであろう輝く二人の活躍のために全員の士気を高めようとしたーーまでは良かった。


「俺は金が欲しいから頑張るが、やる気はそこまで高くないぞ」

「私はお金もポイントも有り余っているので普通に楽しめればいいです」

「全くやる気ないですね! うっわ〜このアウェー感楽しいですね〜!!」


 問題は二人が全くやる気を出そうとしていないところだ。

 一応、久遠は金目当てであるがどうしても欲しいというわけではなく、それなりにやって金を稼げればいいと思っているだけに士気は高くない。

 天音に至っては言葉通りだ。

 まぁ、遊園地を周っていれば二人とも否が応でもやる気を出すだろう。

 と、そこで双六は狐島から頼まれていたことを思い出した。


「そうだ。狐島さんから写真を撮るよう頼まれていたので、せっかくなので記念撮影しませんか?」

「……はぁ、好きにしろ」


 チケットをもらった時、狐島から直々に「らー、ケンケンの写真をよろしくね〜」と頼まれた。前に写真を撮らせてもらったことによる料金だと思えば安いものだ。

 なので、写真を撮ってもらうようスタフを探していたら、



「Hey少年! 俺が写真を撮ってやろうか!?」



 金髪オールバックでサングラスをかけた陽気そうなお兄さんから声を掛けられた。

 どう見ても裏路地でカツアゲするスタイルの人だ。

 そんな人が写真を撮ってあげようとか見た目と言動がまるで合っていない。

 ただまぁ、こちらには久遠も付いているのでそういった心配は一切していない。

 どうしたものかと一拍考えてからーー考えることを放棄した。

 つまり、向こうのテンションに乗っかることにした。

 楽しそうだから。


「Yeah! すみませんがお願いできますか!?」

「HAHAHAノリがいいなフレンド! 男前にとってやるZE!!」

「Thank youです!」


 どうも狐島のことといい、目の前のこの人といい何かとテンションや言動を合わせてしまう。

 友好度上げることを示すためには何かと有効なコミュニケーション手段だ。確か心理学では相手の動作と同じ動作をすることで、安心感を与えるものがあるというがそれと似たようなものだ。


「なぁフレンド。お前さんたちもイベント参加者かい?」

「はい、そうです。賞金目当てにがんばりますよ〜!」


 ということは、この人もイベントの参加者なのだろう。

 本当に色々な人間が参加している。


「そうかそうか。だがフレンド。俺がいるから優勝は無理だぜ!」

「お、ライバル登場ってやつですね! こっちも燃えるところですよ!!」


 堂々としたライバル発言。

 さっきまでの仲間内がローテンションだったので、非常に嬉しく感じる。


「それで、そっちのタッパのあるお兄さんも強そうだNA! 名前は何ていうんだ?」

「久遠健太だ。まぁ、お互いがんばろうぜ」

「そうかケンタ君だな! 見たとこ年も近そうだし、よろしく頼むぜ!」


 ガシッと金髪のお兄さんは久遠の肩に手を置いて気安そうにしている。

 こんなに久遠の距離をあっさり詰めてきたのを見たのはマーク以来だ。

 そして、金髪のお兄さんは横に立っていた天音を見つけるやいなやーー片膝をついて手を差し出した。


「麗しの乙女。あなたの名前を聞いてもよろしいですか?」


 金髪のヤンキーが中世ヨーロッパの騎士がやんごとなき身分の方にダンスを申し込む図に見えた。それだけで既に面白かったので、双六は彼女である天音がどう切り返すのかニヤニヤして静観していた。


「初めまして天野天音です。そこの賽ノ目双六君の彼女をやってます」


 とんでもない切り返しをされた。

 いやまぁ、彼女が声をかけられて何もしなかった自分も大概だけれども。

 ギギギっと金髪のお兄さんがこっちを振り向いた。


「おう〜これは手厳しい。ーーそして、そこのバッドフレンド双六。歯ぁ食いしばれぇぇぇえ!!」

「躊躇いがなさすぎるっ!?」


 付き合っているだけで反射的に殴られそうになるとは思わなかった。

 アツシでさえもここまでではなかった。


「あ、私暴力ふるう人は嫌いですよ」

「天音ちゃん。もちろん俺もだZE!」


 殴られる直前、天音がそう言った途端殴るのをやめた。

 いや、止めなかったら本当に殴りそうな剣幕だったので助かった。


「だが、気をつけろよマイフレンド。美人は世界の宝。そして、宝ってやつは独占したら宝じゃなくなるんだZE☆」

「僕の宝なんだからいいじゃないですか」

「双六君。それは少し違います。あなたが私のものなんです」

「……もう好きにやってろ」


 やれやれと久遠が呆れたようにつぶやく。

 そこで、金髪のお兄さんの携帯電話が鳴った。


「おっと、すまないなフレンズ。弟から連絡がきたようだ。スタンプラリーやってりゃどっかで会うこともあるだろ。そん時はよろしくな〜!」

「はいこちらこそ! っと、そうだ。お兄さんのお名前聞いてないんですが?」

「Oh! そういや言ってなかった。俺は虎徹正義だ。縁があったらまた会おうぜ〜」


 颯爽と金髪のお兄さんーー虎徹正義さんが遊園地の人混みの中へと消えていった。


「嵐みたいな人でしたね」


 現れるのも突然なら消えるのも突然。

 でも、そこに嫌味な感じが何もしないのは、やはり、虎徹正義の人柄によるのだろう。


「こないだみたいな連中よりマシだな。つか、賞金欲しいんだから先を急ぐぞ」

「やる気ないって言ってませんでしたっけ?」

「やる気はないが金は欲しいんだよ」


 そりゃそうだと思った。

 虎徹正義以外のまだ見ぬ参加者がいるのかと思うと、中々にこのスタンプラリーは楽しめそうだった。

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