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不満な少女

前回十万字突破したので区切りって事で

 僕の名前は璃癒(りゆ)。ごく普通の女子高生で……今は異世界で勇者をやっている。まあ、勇者の後に見習いが付くけどね。夏休みにエリーゼによって召喚された僕は、魔界から数百年周期で現れて人を脅かす禍人(まがびと)の王である魔王を倒して魔界とこの世界の繋がりを絶つ事になったんだ。


 まるでネット小説みたいだけど、これは紛れもない現実。ゲームみたいにセーブ&ロードもなければモンスターが徐々に強くなっていくよう旅をするって訳にも行かない。適正レベル以上の危険地帯に行く可能性もあれば思わぬ遭遇戦立ってある。命がけの一発勝負、それが勇者の旅だ。


 ……正直言って怖い。召喚された時に戦いへの忌避感とかは薄れているけど数日前まで平和な日本で育ったんだ。でも、帰るには魔王を倒す必要があるし、勇者である僕しか魔王を倒せないなら頑張るぞ! 権力者が擁立した偽勇者とか不安もあるけど、僕には心強い味方が居るんだから大丈夫さ。


 ……まあ、お米も大豆製品もこの世界にないのは辛いけどね。納豆ご飯食べたいな……。




「キキィー!」


 二頭を持つ猿型モンスターのオルトロスモンキーが引っこ抜いた木を振り回しながら迫ってきた。尻尾で身体を支えながら随分な速度で駆けてくる相手に僕もあります腰に差した刀、緋鋼(あかはがね)を抜いて真正面から迎え撃った。


 僕の胴に叩きつけようと真横に振り抜かれた木に振り下ろせば豆腐を切ったみたいに簡単に切り落とせて、返す刀で反対に胴を一刀両断。飛び退けば少し遅れて血飛沫が上がった。


 危ない危ない。もう少しで血塗れになる所だったとホッと胸をなで下ろせば正面から三匹のオルトロスモンキーが随分と手入れがなっていない武器を構えて飛びかかって来た。


 群れで獲物に襲いかかる上に人間から奪った武器を扱う知能を持つ厄介なモンスターとして恐れられているらしい。


「アースウォール」


 突如地面からせり上がってくる土の壁。見た目以上に頑丈なのか反対側で壁に衝突したオルトロスモンキー達の悲鳴が聞こえた。


「ウキ!?」


「エリーゼ、ナイス!」


 僕は一足飛びで壁の上に着地し、天地逆転のままオルトロスモンキー達目掛けて落下、空中で一回転して着地すると即座に前に跳ぶ。数瞬遅れてオルトロスモンキー達がバラバラになって崩れ落ちた。


 ふふん! まだ勇者になって少ししか経っていないけど僕も強く……っと、行けない行けない。油断大敵だった。それに……。


「此奴のお陰ってのが多いよね」


 もう合計十匹は切っているのに曇り一つ無く輝く緋色の刀身。アンノウンを名乗るパンダのキグルミから貰った物だ。この世界にパンダは存在しないのに何故パンダのキグルミなのかは気になるよね。


 さて、武器の力が大きいって再確認したし次のを相手しようか。自分も弱さを受け入れて向上心を絶やさない。其れが強くなる為の条件だからね。


「さあ! 続きと行こうかっ!」


 まだまだ残ったオルトロスモンキーは沢山居る。何匹かは逃げ出したけど飛び跳ねたり歯を剥き出しにしたりと威嚇してるし、こりゃ全部倒さないと終わらないかな?


 チラリと焚き火の方を見れば焦げないようにと火から外したお昼ご飯が目に入る。お昼ご飯を今から食べようって時に僕達も一緒に食べようと匂いに誘われて襲ってきたんだ。一切手加減はしないからね。


 空腹時に戦わされる鬱憤を晴らすべく僕はオルトロスモンキーの中に突っ込んで行く。さっさと終わらせてご飯だ、ご飯!





「……はぁ。爪を避けたまでは良かったですが死体に躓いて転んだ時に落ちてた剣で切るなんて。油断大敵ですよ、璃癒!」


「あはははは。ごめんって」


「笑い事じゃありません! ほら、癒すので手を出して下さい。…ヒーリング」

 

 淡い光に包まれて僕の足の切り傷は癒えていく。同じ歳なのにお姉さんみたいに僕を叱っているのが僕達を召喚した張本人のエリーゼ。胸周りだけ着痩せする以外は文句の付けられない仲間で友達さ。


 そう、僕達。召喚されたのは僕だけじゃなくってお祖父ちゃん達もなんだ。勇者召喚は異世界から勇者とその仲間に相応しい二人を召喚するんだけど、まさか保護者同伴で世界を救う旅に出るとか驚きだよ。




「……ふむ。特訓メニューを厳しくしましょう。集中力が足りていないので座禅でも……」


 穏やかな老紳士が示現(じげん)お祖父ちゃん。


「まっ! あんな雑魚とはいえ油断して怪我するたぁ情け無いぜ、璃癒」


 色黒で強面なのが(くうや)お祖父ちゃん。


「……はーい」


 二人はさっきの戦いに参加していない。いや、参加する必要が無い。それは役に立たないって事じゃなくって、逆に役に立ちすぎて僕やエリーゼの実戦訓練にならないんだ。




 だって、二人こそが前回の勇者と仲間だもん。レベルだって今の僕が17で二人は100。……うーん。僕って役立たず? 孫娘だし無条件で守ってくれる二人だけど、ちょっと悔しい。


「……もっと強くならなくちゃね」


 決意を新たに僕はお昼ご飯のシチューを食べる。……猿って美味しいのかな? 中国では食べるんだっけ?





「エルフの国まで船で3日間だっけ? 僕、船旅って初めてだから楽しみだよ」


「私達も船旅をしましたけど結構快適でしたよ。流石に地球の技術で作られた船とまではいきませんが」


 次の目的地はエルフの国カノンノ。漫画とかで有りがちな少し傲慢なのがエルフに多い特徴らしいけど、女王のチルニア様はお祖父ちゃん達を召喚して共に旅をした仲間らしい。


 禍人に狙われたら周囲の人に危害が及ぶから大々的に勇者を名乗れないから支援者になって貰う予定なんだ。結構余所の住人と面会するし視察に出る人らしいから会うチャンスは多いし、ステイタスを見せればお祖父ちゃん達って分かるから大丈夫かな?


 うーん。他のエルフの評判は悪いけど女王様は親しみやすいっぽいね。部下の人は面白く無いだろうけどさ。


 僕はお祖父ちゃん達の仲間に興味を抱きつつ八杯目目のシチューを平らげる。さてと……。


「腹八分目が良いし、あと二杯で我慢しておくよ」


「……本当によく食べますね、璃癒って。地球の女の子って皆そうなんですか?」


 僕の友達は小食が多いけど……どうなんだろう? あっ、パンも少し貰おう。体を動かした後は食欲が湧くよ。







 港町ラグレ、それが次の目的地の名前だ。周辺の気候が年を通して安定していて周辺の貿易拠点として栄えているらしい。魚介類のパスタとワインのお店が有名で、領主の嗜好でワイン以外のお酒は少ししか輸入していないとか。


 でも、僕達の目の前の町の空は分厚く黒い雲が居座って動く様子を見せない。奇妙なことに町の形に合わせて切り取ったみたいに町の外の大地の上には雲一つなかった。


「……確実に何かが有りますね」


 空を見上げながら示現お祖父ちゃんが呟く。海の上にも広がる黒雲から降りしきる大雨で波は荒れ狂い、これからの旅路への不安を駆り立てた。


 ああ、とても心配だ。僕は胸の内に広がっていくザワザワとした不安に顔を曇らせる。何かがあったのなら、それを引き起こした奴か物が存在するって事だ。僕に何とか出来るならしたいと思う。



 だって、この天候だと漁は難しいだろうし、名物を食べられないかも知れないじゃないか!








 降りしきる豪雨が傘の表面を打つ音がずっと聞こえている。立ち寄った場所で買っておいた傘を差して町の中を歩くけど活気が無いって僕は思った。この雨だから買い物に出かける人が少ないとかじゃなくって、本当に人の気配が薄いって感じなんだ。


 多分、如何にも怪しい雨雲が関係しているんじゃって思うけどね。お店も結構閉まっているし、民家から賑やかな声も聞こえない。取り敢えず遠目に見える宿屋は開いてるから向かっているんだけど、その途中の広場に古ぼけた石像が立っていた。


 随分と立派な船乗りの像で、アイパッチに肩に止まったオウムがセットになれば海賊の船長って感じの人。まあ、ならず者が称えられる訳もないし、多分何か功績がある人だろうなって通り過ぎながら思っていたけど、空也お祖父ちゃんの言葉に思わず立ち止まった。


「彼奴、まだ石像なんか立ってやがんのか。なあ、示現」


「……まあ、このご時世ですからね。残っている方が自然でしょう」


 あれ? この会話からして二人の知り合いみたいだ。じゃあ、三百年前に何かした人なんだね。名前が石像の台座に掘られていたから読んでみるとキャプテン・シャークゥ。一体何をした人だろう? お祖父ちゃん達に聞くのも良いけど……。



「エリーゼ、知ってる?」


「勿論です! 絵本で何度も読んだお話ですから」


 一応この世界でどんな伝承で伝わっているかも気になるしね。僕が訊ねたらエリーゼは目を輝かせて語りたそうにしているし、多分お祖父ちゃん達本人に当時何があったかを聞きたいんだろうね。じゃあ、宿屋で何か食べながら聞こうっと。


 ……それにしても絵本かぁ。四人中三人がお祖父ちゃんお祖母ちゃんだし少し気恥ずかしい気もするんだよね。








「アンタ達も酷い時に来たもんだね。半月もこの雨が降ってるもんで船は出ないわ、商人連中は見切りを付けて遠くの港に向かうわ、こっちは商売上がったりだ。まっ、精々金落としていってよ」


「半月もっ!?」


 僕達が泊まる事にしたアカサンゴ亭の女将さんが言うには豪雨は町と周辺の海だけに降り続けるから何かあるなって人が離れていっているらしい。それで寂れていたんだね。


 この宿屋にも少ししか泊まっていないみたいだし、娼婦の人とか他の宿屋の人とか元から住人だった人達の中にも町から出て行った人もいるらしいし……。


「代わりに妙な連中が居座って大きな顔しているしさ。幽霊船を見たって奴も居るし、貴族も勇者様も懇願しても動かないし、もう終わりかねぇ。アタイだって旦那が港を捨てられないって言わなきゃボロ宿屋なんて捨ててるんだけどねぇ。ほら、パンケーキ一丁!」


 フワフワのパンケーキの上にはカリカリのベーコンとトロトロのバター。上機嫌で皆がいるテーブルに持って行く。


「じゃあ、キャプテン・シャークゥについて話してよ」


「その前に視線をパンケーキから離しなさい、璃癒。人の話を聞くのなら顔を見ろと教えましたよ」


「……うん」


 出来たら熱々の状態で食べたいけど我慢だ我慢。エリーゼは食べながらで良いとか言ってくれそうだけど示現お祖父ちゃんが許してくれないだろうしね。



「……三百年前、この町は今のように荒れ狂う天空に悩まされていました。ですが、この町出身の船乗りであるキャプテン・シャークゥが勇者一行と力を合わせ、最後には命と引き替えに嵐を起こし続けていた禍人を倒して平穏を取り戻した、そう伝わっています」


「え? じゃあ倒した禍人が復活したんじゃっ!?」


 エリーゼの話と今のこの町の状態は符合するし、多分出て行った人達も同じ事を思ったんだろう。勇者が他の誰かに力を借りなくちゃ倒せなかった強敵の復活。当時のお祖父ちゃん達がどの位強かったのかは分からないけど、仲間だった奈月お祖母ちゃんとエルフの女王様の代わりは未熟な僕とエリーゼだ。


 そして、勇者って名乗らない以上は当時みたいに誰かの手を借りれるかどうか……。



「……いえ、禍人の復活は有り得ません。訳は……今は話せませんが」


 ……むぅ。どうも禍人に関してお祖父ちゃん達は僕に何か隠している。ローズリンデが言っていた事とか今の事とか、エリーゼがポカーンとしてるから公に伝わっている事でもないと。


 その上、僕が知ったら迷ったりショックを受けると思っているんだ。なんか高校生にもなって小さい子扱いされているみたいだ。僕だって少しは強くなっているのにさ……。


「って言うか随分と違った内容に……いや、そう伝えたんだっけか? 兎に角幽霊船に乗り込みたい所だよな。ったく、何してんだ? 彼奴」


 あー、これは歴史が改竄されたっっていうか本人が改竄して伝えたって驚愕の事実? って言うか幽霊船にも心当たりが有るんだ……。



「取り敢えず船がないと……エアウォークで行くにも何処に行くのか分からなけりゃ……」


 空也お祖父ちゃんが困ったように腕を組んで唸った時、背後から声が掛けられる。






「船なら用意しているですぅ。幽霊船の出現場所も分かるですよぉ」


 振り向けば背後にはピンク色をしたカバのキグルミが立っていた……。



 取り敢えず例のパンダの関係者なら帰って欲しいけど駄目かな? 残念だけど駄目っぽいよね……‥。








 霧の中を突き進む幽霊船の船長室。激しい攻撃を受けて沈没した事がまざまざと見て取れる室内で幽霊船長は愛しい相手であるかのように白骨化した指先で鞘を撫で、奇妙な歌を口ずさむ。まるで恋人に愛を語るみたいに……。




「恋はメロリン、あなたの眼差しシューティングソーダ    私のハートはメロリンパッフェ 


 蕩け蕩けてチョコフォンデュ


 とまらない このDO☆KI☆DO☆KI 届けたい このTO☆KI☆ME☆KI


 だけど嫌な予感が落雷エクレア パリパリ弾けて お口で蕩ける 蕩けちゃう


 恋を阻む障害はポポロン投げつけて追い払う 恋のライバルは超絶スパイス 刺激が涙をさそうのよ


 豆板醤にキムチに塩辛 嫌いなあの子は胃痛にな~れ


 私の愛はスーパー激甘   砂糖にクリーム、餡子にハチミツ。恋の痛みは歯に響く


 恋はメロリン、あなたの眼差しシューティングソーダ    私のハートはメロリンパッフェ 蕩け蕩けてチョコフォンデュ」









 奇妙キテレツな歌には変わりない。だが、彼の歌声には確かに誰かへの愛が込められていた……。





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