複雑なトレーニングマッチ
ロッカールームから試合のために選手たちはピッチに向かった。
天城も県社会人選抜の一員として、プロのタートルリバーレと試合をするためにピッチに向かう。
ピッチでは既にタートルリバーレの先発選手が並んでいた。
スタンド下の通路から、陸上トラックに姿を見せたところで「天城、先発か!」「がんばれよ」と、天城の背中には数人の男性たちからの野太い声が掛かった。
「天城、カズみたいだぞ!」
ひときわはしゃいだ声を上げたのは岡崎旋盤製作所の社長だった。立ち上がり、天城に両手で手を振る。
「ありがとうございます」
天城はスタンドに頭を下げた。
「やってやろうじゃないか」
不安はあるが、天城の気持ちの中でやる気がみなぎっていた。
試合はタートルリバーレのキックオフで始まった。トレーニングマッチなので、試合時間は通常の45分ハーフの2本ではなく、30分の3本だった。タートルリバーレはキックオフをすると、中盤から後ろでボールを回す。天城はボールが行き来しているタートルリバーレのボランチとディフェンスラインの間で立ち尽くしていた。
パスなのである。パスのはずなのである。なのにタートルリバーレの選手が回すパスは、芝の上をシャーッと音を立てて転がっていく。天城の近くをボールが転がると、いつものようにスローモーションになったが、ボールの勢いの強さに足を出すのをひるんでしまった。そうこうしているうちに、細かくパスをつないで、タートルリバーレは県選抜陣内へ進んでいく。たとえフォワードのポジションでも、自力に劣る県選抜は全員が守備をする必要があるらしく、藤崎も下がる。天城もペナルティエリア付近まで下がって守備に入った。
天城の目の前で華麗なプレーが披露された。
タートルリバーレのMF岡田は右サイドのコーナーポスト付近でパスを受けると、ダイレクトにゴール右端にいるFW赤城にパスに出した。ゴール前だ。県選抜のディフェンダー二人が赤城のボールを奪いに走る。赤城はパスを受けるふりをして、ボールには触らなかった。するすると赤城の足元を転がるボールは、県選抜ディフェンダーの足もすり抜ける。そしてファーサイドにはタートルリバーレのエースストライカー、FW江上が走りこんでいた。マンマークのディフェンダーがついていたはずだが、すでに追い越されていてフリーだった。「オフサイド!」と県選抜の選手が手を上げて線審にアピールするが、ディフェンダーより飛び出していても、パスを出した時点でボールのほうがDFよりもゴールに近い位置にあったので、オフサイドラインはボールと判断されオフサイドにはならない。キーパーが飛び出す。江上がシュートを放つ。惜しくもボールはゴール左側にポストをかすめるように逸れた。得点にはならなかったが、さすがプロという見事な攻撃だった。
ボールはゴールキックになる。藤崎がタートルリバーレ陣内に上がっていくので天城も合わせるように上がっていく。藤崎の位置を見ながら上がっていっていると、どん! と身体をぶつけられた。
「スミマセン。アタリマシタネ。ヨロシクデス」
タートルリバーレのブラジル人DFロベルトが白い歯を見せて片言の日本語で言って、握手を求めてきた。ロベルトの掌を天城は握る。
太いロベルトの硬い筋肉が、天城の薄い筋肉の肩に当たったため、肩に鈍い痛みがじんじんしていた。天城とは15cmの身長差があり、見上げるように身長が高い。脚は丸太のように太く、サッカー選手なのに腕の筋肉までごつごつに鍛え上げられていた。ロベルトは天城が前へ走ると前へ走り、左に歩くと左に歩く。天城をマークしていた。嘘だろうと天城は思う。こんな男にずっとマークされたら命はあるんだろうかと恐怖がよぎる。
「天城、生きて帰って来いよ!」
同じことを考えていたのだろうか。スタンドで岡崎旋盤製作所の工員が言った。天城がロベルトを指さすと、そうそうと爆笑が起こる。心花も釣られて笑っている。天城は心花の顔を見て、うまくできるかわからないが、ちょっとはいいところを見せられたなあと考える。自信のようなものはまったくないが気合いだけはあった。
活躍のチャンスはすぐに来た。
県選抜のキーパーは、ゴールキックからディフェンダーに低いボールのパスを出した。
「天城さん、上がりましょう」と藤崎が言ってスタートを切る。天城もペナルティエリアに向かって走る。天城なりにダッシュをしたつもりだったが、ロベルトは余裕のようで「コンナニ、スロー、イイノ?」と言いながら身体を寄せてくる。
ボールを持った県選抜のDF橋本に、タートルリバーレのFW江上がプレッシャーをかけてくる。慌てて橋本はDF大木を見たが、大木はFW赤城に狙われていた。焦った橋本は、長いボールをまっすぐ蹴り上げた。
監督の今福はその橋本のプレーを見て、それでいいと頷く。もともとゴールキックでパントキックをすればルーズボールになっていたはずだ。それをあえてしないで、攻撃の形を組み立てられるかもしれないと、キーパーにはディフェンダーへのパスという形でゴールキックをさせた。しかし、タートルリバーレはやはりプロ。そう簡単に攻撃を組み立てさせてくれなかった。そうなれば、長いボールを蹴ってルーズボールにしたほうがいい。自陣ゴール近くで下手にボールを持っていたら、江上や赤城にボールを取られる最悪の形になるかもしれない。だからこれで正解なのだと思う。
今福は弧を描いて飛ぶボールを見つめた。ボールはタートルリバーレの最終ラインに届きそうだった。落下点付近には天城とロベルトがいた。身長差から見てロベルトがヘディングで跳ね返すだろうと、今福は読んだ。天城を見て、できるだけロベルトのヘディングを邪魔してくれと願う。ロベルトがヘディングでタートルリバーレの選手へのパスを出すのではなく、慌てて弾くかたちにするためにせめて天城に競り合ってほしいと思った。
「パラ・ケ?」
ロベルトが母国語で叫んだ。
ロベルトが油断をしていたこともある。また、橋本のボールがプロのように最後まで勢い良く伸びるホームランのような弾道ではなく、外野フライのように失速してロベルトの予想落下点より手前に落ちてしまったこともあった。
「素晴らしい!」
今福は天城のプレーに目を奪われ、思わず叫んだ。
ロベルトがヘディングしようと飛んだ時には、天城がすでに胸でボールをトラップしていたのだ。スローモーションの弾道を胸で受け、足元で拾う。
「ワオ」
慌ててロベルトが前を向かせないように胸を天城の背中にぶつけた。よろける天城。それでもなんとかボールをキープすると、藤崎を探す。ロベルトがそれを見抜いて、藤崎を隠すように天城の左側に足を伸ばし、身体を入れてくる。ロベルトが左に足を入れたことで、右側に隙間ができたことに天城は気づく。いけるじゃん、ここ! 天城は時計周りに身体を反転させる。ロベルトが慌てて手を伸ばすが、天城は前屈みになってその手を避けた。ロベルトがよろけた。ゴールが見える。まだペナルティエリアの外で、ゴールまで20mほど距離があった。ロベルトはすぐに体勢を立て直す。身体をぶつけてきそうな素振りを見せる。藤崎にはパスを出せない。ボールを持っていたら殺されるかもな。天城は思い切ってシュートを蹴った。20m先のゴールだが、今打てば狙えると直感が走った。鋭いライナーのシュートが放たれた。キーパーは一歩も動けない。ボールはゴールネットを揺らす。陸上競技場が一瞬静まり返った。
「天城さん、すごーい」
知香子が立ち上がって叫ぶ。心花は大きく口を開けているのに気づいて慌てて顔を抑える。興奮して変な顔をしてしまったのだ。天城さんに見られてないといいなと思う。
「天城、よくやったぞ」
岡崎製作所の社長が両手を上げて喜んだ。
「ほんと、すげー」
西中が社長と手を取って飛び跳ねる。
一点取って、天城はリラックスした。今福監督が天城に「自由にやってください」と言ってくれたのを思い出す。ヨエーゼンやダイヤモンドミラクルズで試合したのと同じようにやればいいんだと気づいた。
30分間のゲーム中、フォワードというポジションということもあり、天城は歩いている時間のほうが多かった。ボールに触ったのはこの得点シーンを含め、6回しかなかった。ポゼッションは圧倒的にタートルリバーレが支配していて、前のほうにあまりボールが来なかったからである。今福監督の戦略としても、序盤にリードをしたのだから、残りの時間は徹底的に守備的な布陣を敷いた。それでも天城は先制点を含め、ボールに触ったうちの2回は自らシュートを決め、1回は藤崎へのパスで得点に絡んだ。一度、完全にフリーな藤崎にキラーパスも出したが、それは藤崎がプレッシャーに負けてシュートを外してしまった。
それでもアマチュアの県選抜が、プロのタートルリバーレを3-1でリードして1本目の30分は終了した。
記者席にいる記者は驚きよりもあきれたようにタートルリバーレを見ていた。
「もうネットで叩かれてますよ」
サッカー雑誌のタートルリバーレ担当記者の五和は、スマホでインターネットの掲示板を覗いて言う。
「いくらTMでもレギュラーメンバーでこの結果はまずいな」
地元新聞の記者、大楠はスコアブックのスタッツを見ながら頭を掻いた。
「クラブもこんな試合になるなら、今日のTMを非公開にしておけばよかったと思ってるでしょうね」
五和は言いながら鞄から資料として準備していた国体の選手名鑑を取り出す。
大楠が県選抜の選手たちとハイタッチしている天城を双眼鏡で見る。
「あの19番って誰だろう?」
「田中って選手でしょ。東浜技研の」
選手名鑑を見ながら五和が答える。
「いや、どう見ても違うよ。だいいち、田中は先月の天皇杯で靭帯を痛めて、国体にも出てないんだぞ」
「さすが地元紙は違いますね」
五和が国体まで取材に行っている大楠に言った。
タートルリバーレの南監督がベンチに向かって歩いていた。五和や大楠が想像しているほど表情は暗くない。
「サッカー雑誌としては、この時期に南監督の解任はあり得るの?」
「するなら今週でしょうね。先週、ホームで負けて降格圏に落ちたでしょう。次、アウエーですけど、そこで負けたら解任じゃないですかね。山並コーチがS級ライセンス持っているから、そのまま内部昇格という形で」
「今週日曜日はロマンス厚木じゃないか。厳しいな」
「ですね」
スタンドでは岡崎製作所の工員が拍手をして天城を迎えている。
「天城、よくやった」
「MVPじゃねえか」
「プロになっていいんじゃないのか」
天城は工員たちに手を振り応えた。知香子に手を引かれて、心花は最前列の柵で天城に「おつかれさまでした」と声をかけた。「さんきゅ」と言って天城が手を伸ばしジャンプして、心花とハイタッチする。
「次のゲームは出なくていいそうで、三本目また出るからみんなにそう伝えてて」
天城が心花に言う。
「はい」と答えた心花を見て、天城が苦笑する。
「だから敬語」
「だって、天城さんだから」
心花が舌を見せて笑う。天城はそんな心花を笑顔で見て、ロッカールームへ向かった。
「県代表の19番の選手とお知り合いですか?」
大楠が新聞社の名刺を見せて、心花に訊いた。後ろから五和も名刺を出す。
「はい」と言ったが心花が言葉に詰まる。竹部は近くにいない。西中が助け舟を入れるように顔を出した。
「ぼく、天城さんの会社の同僚です」
「会社って東浜技研ですか? 今福監督の在籍されている」
すかさず五和が訊く。
「いえ。東浜さんだったら、その二次外注、孫請けの会社です」
「失礼ですが会社名は?」
「言っていいのかな? ちょっと社長に訊いてみます。社長!」
西中が社長を呼んだ。岡崎が小走りでやってくる。
「こちら記者さんらしいんですが、天城さんの会社名聞かれているんですけど言っていいですか?」
「記者さんですか」
言いながら、セカンドバックを持ってきて名刺を取り出す。会社を休みにしてポロシャツにスラックスのプライベートな格好なのに、経営者らしくいつでもちゃんと岡崎は名刺を持っていた。
「天城くんはうちの社員です」
うやうやしく大楠と五和に名刺を渡すが、残念ながら二人は岡崎旋盤製作所には興味を示さなかった。
「どこのクラブチームの選手なんですか?」
「えっと」と西中は考える。ヨエーゼン太田町の選手と言えば選手だが、正式な選手ではない。ダイヤモンドミラクルズにも天城は助っ人で練習試合に出ただけだった。
「どこにも所属してないと思います」
「結構なベテランですよね。おいくつぐらいですか?」
「たしか42歳かと」
「なるほど」
なにがなるほどなのかわからないが、引退したプロ選手とでも思ったのだろう。五和が納得してメモを書いている。
「というか、サッカー雑誌の記者さんなら天城さんをご存知ないですか? 十日前まで、ご本人はサッカーしたことなかったと言い張るんです」
大楠と五和が顔を見合わせた。
「まさか」
西中が、天城がヨエーゼンの草サッカーで初めてスパイクを履いたと言っていたこと、アウトサイドキックなど高度なプレイを軽々とやるのにいままでやったことないと言い張ること、そして二十代後半に投機に失敗して鉄工所に再就職したことまで話した。
「たぶん、こっちに帰ってくるまでは有名な選手だったんじゃないかと思うんですけどね」
「うーん」
大楠が考える。
「J2が相手とは言え、あれだけのゴールへの嗅覚を持ったフォワードの選手、いままでいたかなあ」
五和も首をひねっていた。
「たぶん、天城さん、本当に初めてサッカーをやったと思いますよ」
名刺を渡されたあと、黙って西中の横に立っていた心花が、口を挟んだ。
「だって、ご両親も住んでいる自宅の表札も天城さんですよ。偽名を使ってるって言われたけど、そんな手の込んだことを実家でします?」
それに天城さんは、わたしには嘘をつかないと言ってくれた。心花は確信があった。
「しかし、あれだけの選手が埋もれてるってことあるんだろうかねえ?」
大楠が五和を見た。
「幼い頃から海外でプレーをしてたとかだとあり得るかもしれませんが、あれだけの選手なら代表がスカウティングしてますよね」
五和はそう言って腕を組んだ。
二本目はタートルリバーレは控え組だった。人数が少ないので県選抜は6人の選手は一本目に出た選手が続けて出場したが、天城は休憩をさせてもらった。
天城は二本目の試合は見ないで、ロッカールームに座っていた。
ほとんど歩いていたとはいえ、30分間ぶっつづけのサッカーは、想像以上に足腰に来ていた。教員クラブのような悪質な反則ではないが、フェアなプレーでも終始身体をぶつけてくるロベルトのマークのおかげで、肩も青あざがいくつもできていた。プレーは反則じゃなくても、身体の痛めつけ方は教員クラブの反則がかわいくなるほど、ロベルトは容赦なかった。天城はロッカールームに置いてある氷嚢で痛むところを冷やしていた。
「天城さん、いらっしゃる?」
ロッカールームをノックされた。天城は返事をする。扉が開くと、竹部、前田とまだ40歳ぐらいの天城とそう歳の変わらない男がいた。男が座っている天城に名刺を渡す。
「タートルリバーレ社長の鬼池です。ええ、座ったままでいいですよ」
言いながら鬼池は丸椅子に腰を掛けた。その後ろに竹部と前田も座る。
「おふたりからお話を伺いましたが、本当にどこのクラブにも所属されていないんですか?」
「ええ」
鬼池は悔しそうに両目をつぶり、「惜しい、惜しいなあ」とつぶやいた。
「あと、ひと月早かったらですね」と前田が言う。
Jリーグは選手の登録期限というものが決められている。今年の場合で言うと9月14日までに登録しなければならないのだ。
「たった10分でも5分でもいい。あなたのような得点の取れるフォワードがベンチで出番を待っていてくれたら、うちのチームが苦しいとき、どんだけ救われたか」
竹部と前田が後ろで頷いている。鬼池は「無理なことを言っても仕方がないですね」とため息を吐いてから続ける。
「そこで来年1月2日に契約させていただけませんか? 金額や条件は前田と話をしてください。先ほど、監督とコーチとも話したのですが、できればそれまでに年齢も年齢でしょうが、もう少し体力をつけていただきたい。一回練習に参加していただければトレーナーにメニューを作らせてもいいです。いかがです?」
天城は竹部の顔を見る。目が合うと竹部は黙って頷いた。
右足のふくらはぎを冷やしていた氷嚢を左のふくらはぎに動かす。鬼池が真面目に言っていることは、天城にもわかった。プロ選手と互角に試合をしてしまったのだ。まるで夢のようなことだが、それは現実だった。ただ、そんなことが42歳の自分に起こるとは思ってもみなかった。
「会社とかにも相談しないとまずいんで」
天城はやっとそれだけを言った。
「もちろん今日お返事いただこうとは思いません。いいお返事お待ちしてますよ。昭和51年生まれ、わたくしと天城さんは同級生ですし、ぜひタートルリバーレの選手として活躍してほしいです」
そう言って鬼池と前田がロッカールームを出ていく。
竹部が動かず残っていた。扉が閉まると竹部が口を開いた。
「悪い話じゃないと思いますよ。ぼくだってサッカー選手になりたかった。うらやましいぐらいです」
竹部の言ってることもわかる。だが、事態がうまく理解できない。
「社長、お若いんですね」
考えることを逃避するように、どうでもいいことが口から出た。
いやどうでもよくないかもしれない。天城は自分と同い年の人間が、Jリーグクラブの社長をしていることに驚いていた。20万そこらの給料で毎日夜遅くまで汗水たらしているおれと、ピカピカのスーツを着て年上の前田さんを子分のように引き連れていた鬼池。その違いはなんだろうかと思う。
「あの人はタートルリバーレの大口スポンサー、クラタケの社長の息子さんですよ」
「そうですか」
言われて納得する。
鬼池がどんな人か走らないが、生まれながらに天城とは世界の違う人なのだ。最近、とみに格差社会などと言われるが、もともと人間は生まれながらに格差がある。逆を言えば、天城にしても、食べるものにも困り飢え死にするような国に生まれなかっただけでも、しあわせなことだ。そういう格差は必ずあるのだ。
「先ほどちらっと社長と福田さんが話していましたが、正直、そこまでお金は出せないみたいです。よく出せて年俸は400万ぐらい。J3に落ちたらもっと安いかもしれません。あとはゴールや勝利の出来高給をいくらにするかのオプションの契約でしょう。それでもお金じゃないじゃないですか。プロサッカー選手ですよ。ぜひ前向きに考えてもらえませんか」
竹部はそう言ってロッカールームを出て行った。天城は400万を12で割る。月収約33万円。それでもいまの収入より10万円は高い。そのぶん競馬ができるな、なんて考える。
控え組主体の二本目は5-0でタートルリバーレの圧勝だった。
「天城さん、三本目はお願いします」
藤崎が呼びに来たので、天城はピッチに戻る。
天城は三本目でも得点に絡みまくった。1本目、2本目とフル出場している選手がいることもあって、集中力を欠いた県選抜は三失点を喫したが、天城の3ゴール1アシストの活躍で、4-3で県選抜は勝った。
「控え組のほうが強いんじゃないか?」
「もういっそ県選抜にタートルリバーレのユニフォームを着てもらえ」
「J3に落ちて国体に出てもこの選手たちなら惨敗だろうな」
天城の活躍に大喜びする心花、知香子、岡崎製作所の工員の陰で、インターネットの大型掲示板のタートルリバーレスレッドは大荒れに荒れている。
「天城、最高だったぞ!」
岡崎旋盤製作所の社長、岡崎は興奮冷めやらぬ顔で、大きな拍手を天城に送った。