おまけ 世界の謎的な何か
こちらは二話同時投稿の二話目です。
前話があります、ご注意ください。
第二王女マリベルこと、ルルクロアルーフフルは溜息を吐いた。
夭逝した魂の次の場として、ゲームを模した世界を提案したのは彼女だ。
創世のカタチを、人の子が造り出したゲームに頼るなど安直だという意見も多数出た。
これだから最近の若者は……などと年長者達が口にするのも一度や二度じゃなかった。でも彼らだって似たような世界を創ってきたくせに、というのが彼女の本音だ。
血生臭い戦争が万年も続く世界なんかより、自分の選んだ世界の方が何倍も魅力的だ。
でも新人の彼女には、創世プロジェクトは一任してもらえなかった。
先輩のダンドダッジと一緒に創生することになった。
世界なんて塵の数存在して、瞬きの間にも生まれているというのに、自分の立場の弱さが悔しかった。しかも自分の方が権限は低い補助扱いになってしまった。
ある世界をじっくり観察して、見つけ出した乙女ゲームをベースに用意したのに、いつの間にかダンドダッジが「お取り寄せ」とやらで変なゲームを見つけてきた。
「こちらの方が参加登場人物が多いから、遍く魂達が楽しめるんじゃないかな」
笑顔でソフトを掲げる彼の意見が、会議であっさりと通ってしまった。
ダンドダッジはこういう営業活動が上手いのだ。
生まれ年もそう変わらないのに、差が付いてしまったのはきっとこのせいだ。
魔王城の豪奢で荘厳な大聖堂で、魔王ヒューと侯爵令嬢ヒステリアの挙式が執り行われている。黒一色の正装のヒューと、純白のウエディングドレスのリアは、誰が見てもお似合いだ。
ある意味ベストエンディングを迎えた二人に拍手を送りながら、密やかに溜息を吐くと隣の男に話しかけられる。
「結婚式に浮かない顔だね、ルル。親友を取られてしまって寂しい? それとも僕の案が上手くいっていて面白くないのかな?」
隣の男、今は自分の兄王子であり、その正体は先輩のダンドダッジがにんまりと笑っている。
「私の愛称はルルじゃなくって、ベルです。何度言ったら覚えるんですか?」
小声で冷たく返すものの、まったく気にしていないのはいつものこと。
この世界はゲームを模して創られたが、それは土台だけの話であって、そこに生きる人々を縛る要素なんて無かった。なのに、ダンドダッジはふざけたコードを世界にちりばめ、そのせいで導いた魂達の一部は前世を思い出してしまったのだ。
「ああ、我が妹姫は冷たいなぁ。僕が手を加えたお蔭で、目の前の二人は上手くいったようなものなのに。それに、君のここでの人生だって……ね?」
運用にあたり、細かなチェックを兼ねてルルクロアルーフフルもダンドダッジも、この世界に住まう生物として一生を歩まなければならない。
創世世界の本格運用は、天寿を全うして肉の器を失ってからだ。
確かに、彼女が当初提案した世界ではこんな呪いは無かったから、目の前のリアとヒューが結ばれるには、違う道を辿ることになっただろう。もしかしたら自分はリアの親友になれなかったかもしれない。
そして、彼女の兄シヴァーリに、特別な感情を抱きもしなかっただろう。
「…………悪魔」
「それは人が勝手に決めた僕達の呼称だろう。まあもう一つの天使よりかは、マシな響きかな」
この国の第一王子で、本来のゲームではメインルート。
シヴァーリの友人で、主人公ヒューの級友。
これだけの条件を揃えながら、見守るべき人々の魂に殆ど干渉しない彼は、やっぱり自分よりも優れた管理者なのかもしれない。
親友リアに小さく手を振り、少し離れた親族席から時たま送られる、シヴァーリの熱視線に微笑み返してしまう彼女には、真似出来そうにない。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
少しでも、読んでくださった皆様に、楽しんで頂けたなら幸いです。