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207X年4月

東京某区ー


フルダイブ式VRゲーム全盛期の現在

友長晃は旧式と呼ばれるディスプレイ式家庭用ゲームを毎日続けている。


理由は2つ。


1つ目は金が無いこと。


47歳独身、無職。

83歳になる父親と78歳になる母親に養われ、日々自宅で過ごしている。


引きこもりではない。

引きこもりはよほどのことがなければ部屋から出ない。


俺は違う、と晃は言う。


晃はきれい好きで毎日部屋を掃除したり自宅の掃除をしたりする。

料理も得意で食材さえあれば大抵のものは作ることができる。1週間に数回、両親のために料理を作ることもあった。


ただ働いていないだけだ。


親の年金で養ってもらっていることも分かっているから節約を心掛け無駄遣いは絶対しない。


だから高価なフルダイブ式のゲームには手を出さない。

安価で買うことができる旧式の家庭用ゲームで十分楽しんでいる。


2つ目はどうしてもクリアしたいゲームがあること。


今から40年近く前に発売された家庭用ゲーム


「ブレストピアーライジング」


昔ながらのアドベンチャーRPG


ブレストピア大陸を舞台に冒険の旅を続けながら、様々な種族と交流したり敵対勢力と対峙したりしながら謎を解き明かし、数々の苦難を乗り越えた先にあるスピアとよばれる解放の地を目指すー


よくあるゲームだった。

発売当初も特に話題にならなかった。


しかし


その年の「クソゲーオブザイヤー」にダントツで1位になったことで注目が集まった。


無数に存在するキャラクターの生い立ちや関係性を把握し、複雑に絡み合う出来事や事件を正しく解決しない限り必ずバッドエンディングを迎える。


当時の攻略サイトでもハッピーエンドを迎えたという情報がなく


ある熱狂的なゲーマーが名乗りを上げてSNS上でゲーム配信をしたが


どの道を進みどの人物と絡んでも決してハッピーエンドにたどり着くことはなく


もはや「この形がハッピーエンドなのでは」といった諦念的意見や「開発が作り忘れたのではないか」といった疑惑や開発陣への批判が各所から起こり一部で大炎上となったゲームだった。


さらに一度バッドエンドを迎えた場合、セーブデータは消去され最初からやり直しになるという鬼畜とも苦行とも思えるシステムに参戦者は1人、また1人と減っていった。


その後開発側からのコメントもなく


時とともに忘れられ


「かつて伝説のクソゲーと呼ばれたゲーム」と一部のゲーマーが記憶している程度となった現在


晃は今もハッピーエンドを目指して毎日この「ブレストピアーライジング」をプレイしている。


そして今日


晃は99回目のバッドエンドを迎えたー


「クソおおおおおおお!!またかよおおおおお!!」


向こう三軒両隣まで聞こえるような晃の大声が2階の部屋から響く。


1階で新聞を読んでいた父親は「またか・・・」という表情でため息をついた。


いつものことだ。


詳しくは知らないが時折ゲームでうまくいかないときには必ず大声を上げる。


そこに台所で食事の準備をしていた母親が父に声をかけた。


「お父さん、準備できたわ」


「そうか」


「晃を呼んできます」


「ああ」


テーブルに食事の用意をし終えた母親は晃を呼びに2階へ向かう。


少しの間やり取りが聞こえ、ドアを閉める大きな音がした。


晃は母親のあとに続いて降りてきた。


「カレーか」


晃はそう言うと席に座って食べ始めた。父も母もその姿を何も言わず見ていた。


美味しいカレーだ。自分でも作るが母のカレーの味はなぜか出せない。何かが足りないのだ。母のカレーは子どものころから大好物だった。


半分くらい食べたころ


急に眠くなった。


そういえば昨日は徹夜だった。


ここで寝るのも嫌だな・・・


立ち上がろうとした。


立てなかった。


なぜか天井が見えた。


瞼が重い。


動けなかった。


微かに


微かに父親の声が聞こえた。


「こうするしか・・・」


父親の声が聞こえなくなった。




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