第31話 忌避
「あ…れ?俺は…何を…?」
思い出せない。
自分が何者であったのか。
どうして道路の隅で這いつくばっているのか。
立ち上がろうと足に力を入れる。
しかし、俺が立ち上がることはなかった。
当然だ。
腰から下がないのだから。
「う、うああ、なんだよこれ!」
腰から下が抉れてウネウネと虫のようなものが蠢いていた。
不思議と痛みはあまりない。
腰痛のような痛みがあるだけだ。
俺は再び立ち上がろうとする。
するとそれに呼応するように腰から下が生えてくる。
「うおわあ!……ち◯こ丸出しじゃねえか」
俺は落ちていたズボンを履くと、そそくさとその場を去った。
道を進んで暫く進むと、村のような場所が見えて来る。
俺は今の現状について考えていた。
俺は何者なのか、どうしてここにいるのか。
そして行き着いた結論は、”夢”だった。
夢とは便利なもので、あらゆる状況を説明することが出来る。
俺が自分のことを思い出せないのも、不思議なことが沢山起こるのも、夢だからだと結論つける事ができる。
「…之は…ッ。最悪の事態じゃ。直ぐに村人達を集めろ!!!」
「ッ!わかりました。住人全員連れてきます。」
「皆の者、聞けイ!只今よりこの村を捨てる!」
村人たちがざわつく。
「なるべく目立たず、気づかれず、遠いところへ逃げるんじゃ!心配するな。命さえ有れば人は巡り合う。また会おう。」
その一言で村人たちは直ぐに村を離れてゆく。
何十年も育った故郷を、今日彼らは捨てた。
「あれ、誰もいねえや」
俺が着くと、そこには誰も居なかった。
食事の用意はまだ暖かく、まるで先程まで誰かが居たかのようだ。
お腹は空いていなかったが、とりあえず口に運ぶ。
不可解な村だ。
どうして誰もいないのだろう。
まるで突然消えてしまったかのよう。
俺はこれから、何をしようか。
大人しく、夢が覚めるのを待つか。
それとも、好き勝手やるか。
決めた。
「この忘れ去った記憶を取り戻すぞお」
この方針が全く見当違いだということに気がつくのは、それから暫く後だった。




