4−15 クララ
『エグラール大陸南端の、火の神を祀る国。
起源は遥か神話の時代に遡り、王族の祖は光の御子の子孫である』
……光の御子。
赤い背表紙の書物の頁をめくる。どうして、忘れていたのかしら。
そうよ、炎の国の祖先は光の御子の子供だったのに。
『太陽神と月の神の争いから逃れ、火の神から授けられた剣を手に、南方へ逃れた光の御子。
遠い未来で、子孫の護りとなるように、最期の魔力を込めて王族の手元に遺された剣。
代々の王だけが手にすることを許された、王の証である』
炎の国の王である証。
ライカーンの手にこそふさわしい、重くて美しい剣。
本棚の横に置いた剣にチラリと目をやる。
『光の御子は世界を憂いていた。
いずれ、月の神が世界を全て手中にすることを。
世界から太陽が失われても、人々が強く生きていけるように、剣に希望を託した。
来たるべき戦いに備え、剣に込めた魔力を隠し続ける魔法を施した』
「魔力を隠し続ける……だから、ライが持っていた時には気づかなかったのね」
大神殿で、ともに過ごしていた光の御子。
太陽神と同じ黄金色の髪を三つ編みにして、背中で揺らしていた。深い緑の瞳は大神殿の周りにあった森林を思わせた。理知的な光を宿していたのを思い出す。
「ライの、ご先祖さまだったなんて、ね……」
世界から太陽が失われることを、予見していたなんて。
いえ、それよりも。
「剣に全ての魔力を込めて、しかもそれを決戦の時まで隠していたなんて……」
この私にも気づかせないほど、長い長い時、隠していた。
「恐ろしい力と知恵ね」
さらに頁をめくる。
『剣の魔力の封印を解く鍵は、太陽が隠れ、憂いた王が旅立ちの時を迎え、魔法を解き放った時。
炎の装飾に隠された魔力が、大いなる愛に包まれるだろう』
ちょっと、最後の文章の意味がわからないわね。
ここまで史実を書いてきてあったのに、どうしていきなり詩的になるのよ。
いえ、そんなこと本に言ったって仕方ないのだけど。
意外に、光の御子は情熱的だったのかしら。
螺旋階段を、剣を胸に抱きしめて上がってきた。その間も、ずっと剣に魔力を込め続けた。
時の神の言う通りにするなんて癪だけど、本当にライカーンの助けになるのなら、迷わないわ。
いえ、少しは悩んだのよ。私が騙されていて、私の魔力がライカーンの妨げになる可能性だってあった。
でも……。
『時がない』
あの嗄れた声には、いつもの余裕がなかった。
私を甚振る月の神を、楽しそうに宥める声とは違った。
どこか切羽詰まっているような、何かに必死に縋りつくような……いえ、あの神にそんな感情があるのかは怪しいけれど。
でも、この剣の魔力に気づいて声を飛ばしてきた。月の神に気づかれれば、自分だって危険だろうに。
ただ祈るしかできない私の無力感につけ込んでいるのかもしれない。
考えは纏まらなかったけれど、ライカーンの助けになる希望が、ほんの僅か、砂粒ほどでもあるのなら、私は剣に魔力を送り続けるわ。
彼が、光の御子の末裔だというのなら、私が思っていた以上に、彼は強いはず。
私の手助けなんて、もう必要としていないかもしれない。
それでも、何もしないでここで待っているだけなんて、やっぱり嫌だわ。
貴方が無事でいてくれるためなら、私は何だってできる気がするわ。
不思議ね、ライカーン。




