4−13
「っ、スズシロ!」
部屋の扉の傍でアサギを護っていたスズシロを呼ぶ。
「スズナはそいつを、押さえていてくれ」
床に膝をつく男を指し示し、スズナが頷いて動き出すのを確かめてから、深く息を吸い込んで寝台の上へ目を戻した。
びくっ、と少年たちが体を跳ねさせる。随分怯えている。
アサギを連れてやって来たスズシロに、帳の内を見せてやる。
途端に、アサギがその銀色の瞳を見開いた。
「……あ、あぁ……」
「知った顔か?」
俺の背を盾にするように顔だけ覗かせたアサギの表情が曇った。
「さ、先ほど、申し上げた、月の、神さまのおな……お情けを、受けていた、者たちです……」
「これが……」
怯えた様子の少年たちを見やる。
月森宮に来てから、人の姿形をした者は皆、同じ色彩を持っていた。
黒い髪、淡い銀の瞳。髪の長さや体格には違いがあるが、色は皆同じだった。
そして、見目麗しいのが鈍い俺にもわかる。
「これは、月の神の眷属の証か?」
アサギが俺の後ろで首を横に振る。
「つ、月の神、さまのま、魔力を体内に受け入れる、と、皆その色になりました」
「成程」
つまり、あの幼稚な神は、気に入りの者を己の色に染めている、と。
舌打ちしたいのを堪えて、少年たちに問う。
「お前たちは、この部屋で何をしていた?」
「……っ」
震えるばかりで声を発さない少年たちに、スズシロが首を傾げる。
「その者たちは、舌を切られているようでございます」
「何だと!?」
「わた、私と同じく、攫われて、ここにおります……」
告げられた事実に驚愕する。
国元から攫われ、月の神の魔力を受け入れさせられて色を変えられ、言葉も奪われただと?
「……そこまで……」
ぎりぎりと奥歯を噛む。
それが、神の所業だと?いいや、最早あれを神などとは認めん。倒すべき、悍ましい敵だ。
男を魔力で縛り上げたスズナが、天蓋から垂らされた薄布を切り裂き、少年たちの細い体に掛けてやっている。
怯えた少年たちを安心させるのは、無表情のスズシロよりもスズナのほうがまだ、適任だろう。
「この子たち……この寝台で、さっきの者たちに魔力と精気を吸い上げられたみたい」
呆気なく倒れた男たちか。
「こ、この者たちは、月の神、さまのご寝所を、追い払われました、ので、ここで、あの方々をご満足させるため、にここにいたかと……」
「満足、だと……?」
底冷えしそうな声が己の喉から出た。
「この、者たちから魔力を吸い上げ、月の神、さまへ捧げていらした、かと」
「……アサギ」
「っ、は、はいっ!」
俺の低い声に、少年が肩を跳ねさせたが、構ってはいられなかった。
「あんな奴らに、いや、月の神にもだ。敬うような言葉を遣ってやる必要はない」
きっぱりと言い切った俺に目を丸くし、アサギは眉を下げた。
「な、なかなか……長い時の、間にうえ、植え付けられた態度、は変えられず……も、申し訳……」
「謝る必要もない。少しずつ、気持ちを変えていけばいい」
そして、寝台に視線を戻す。
「この少年たち、どうするか……」
「ここに、置いて行けばいいのじゃない?」
「はっ?」
スズナの言葉に首をひねる。
「危険ではないか?」
「弱ってる者を、下手に連れ歩く方が危険」
「スズナの申す通りでございますね。この部屋の中ならば、吾らの結界を張っておけば問題ないでしょう」
「では、頼む」
俺の言葉で、スズシロの体が淡く輝き始めた。
その細い指先から溢れ出した白銀の光が寝台を包み込む様子は、神に毒された者の心を癒すかのような、清浄な聖域を作り出しているようにも見えた。




