2−18
白い襯衣を身に着け、上から黒い軍服を纏ったライカーン。
胸元に、彼の国を示す紋章が刺繍されている。
塔までの旅で着てきた赤い外套は、ここに置いて行くと言う。
必ずここへ戻ってくると、そう誓われたような気がしてくすぐったい。
腰に差していた剣を手渡され、鞘ごと胸に抱きしめる。
「貴方が俺をこの塔に入れてくれて、知恵を授けてくれて、魔法の訓練までしてくれた。感謝しかない」
目を伏せ、深く頭を下げる炎の国の青年王。
顔を上げた彼の瞳が、橙色に煌めいている。
見つめられると嬉しくて、けれどもうすぐ見られなくなると思うと、寂しいわ。
貴方が、無事に目的を達成できるように、私はここで祈るしかできない。
「一緒に、行きたいわ……」
零れた言葉に、ライカーンが目を見開いた。
「クララ?」
「貴方が、心配でたまらないわ」
だけど、塔を出られない。
溜めた魔力で動くこの肉体。
月の神へ捧げられる魔力の器。
魔力が充満した塔から一歩踏み出れば、バラバラに砕け散ってしまう肉体。
唇を噛む私の頬に、大きな手がそっと触れた。
思わず視線を上げる。
「ライ……?」
「貴方に一つ、約束しよう」
「約束?」
「俺は、必ず戻ってくる。ここに、貴方の元へ」
「……」
何かを決意したような橙色は、私をじっと見つめている。
「ここから先、どれほどの困難が待っていようと、貴方をこの塔から解放する術を見つけてみせる。だから、その時には……俺と一緒に、この塔を出よう」
「!!」
塔を、出る?ライカーンと一緒に……?
そんな夢を見てもいいのかしら。
いいえ、これは、私を安心させるために言ってくれているのよね?
答えない私に、ライカーンは腹を立てた様子もなく微笑んでいる。
「だから、その時を待っていてほしい。俺を……信じてほしい」
頬を撫でる優しい感触に、思わず目を閉じてしまう。
俺に警戒しろなんて言ってたけど、やっぱり酷いことなんて何もしないじゃない。
この大きな手が、私を傷つけることなどないのだと信じられる。
ライカーンのゆく道は、きっと険しい。
私は、ほんの少し手を貸しただけ。
相手は正気ではない神と、この世を統べる絶対神。
二柱の神を相手に、ただの人間であるはずのライカーンがどこまで戦えるのかは、わからない。
ボロボロになって帰ってきたらどうしよう。
いいえ、帰ってきてくれるなら、何でもいいわ。
怪我なら治してあげる。傷なら癒してあげる。
だから、死なずに帰ってきて。
口にできない願いを心の中で唱えていると、底冷えのするような声が聞こえてきた。
『……へーぇ。楽しそうだねぇ』
ズキリ、とないはずの心臓が痛んだ。




