2−17
黙々と料理を口に運ぶライカーンの頬が赤い。
怒ったのかしら。
彼が怒るのは、嫌だわ……。
「あの、ライ?ごめんなさ……」
「何に対する謝罪だろうか」
ぴしゃり、と言葉を遮られ、口を噤む。
料理を咀嚼し終え、ゆっくりと水を飲むライカーン。
ふぅ、と息を吐いて、橙色がこちらを見た。
「クララ、よく聞いてほしい」
真剣な声に、姿勢を正す。
「男に、簡単に抱きついたりなどしては、いけない」
「……えっ?」
「貴方は美しい女性で、俺は若い男だ。いや、俺でなくとも、だ。男には下心というものが備わっている。あんな風に無防備に、男の体に触れたりしては、いけない」
何かしら。真剣に諭されている気がするのだけど、幼い子扱いされているような……。
「したごころ……」
繰り返した単語が、ライカーンの口から飛び出たことに驚く。
目の前の王さまとその言葉が、結びつかない。
「でも、ライにそんなもの、ないでしょう?」
「……っ。頼むから、俺にももっと、警戒してくれ!」
「警戒?ライを?必要ないわ」
がっくりと肩を落とすライカーン。
どうしてそんなに、警戒してほしいのかしら。
強くて優しい貴方は、私の敵なの?
いいえ、そんなはずないわ。
私の世界に彩りを与えてくれる、私の王さま。
……心の中で呼ぶくらい、いいわよね?
「そんなことより、ライ」
「そんなこと!?」
目を剥くライカーンに構わず、私は考えていたことを話し出す。
「貴方の魔法は、もう完璧。私が教えることはもうないくらい。だから、そろそろ準備を整えなくてはね」
ハッとしたように、ライカーンも姿勢を正した。
「時の神の住処、時限宮に武器は持ち込めないでしょう。害あるものとして、おそらく結界に弾かれる。
水晶石に込める貴方の魔力は、時の神に悟られないほど小さく、砂粒ほどに圧縮するから、貴方の肉体と魔力はそのまま時限宮まで飛ばせる」
一つ一つ確かめるように、言葉を紡ぐ私に、ライカーンが尋ねた。
「その、俺を込める水晶石というのは、どうやって飛ばすのだ?」
「時の神が私の肉体から溜まった魔力を取り出す時に、同じような水晶石を使っているのよ」
そう言って、私は小さく指を振った。
最上階から、小さな光が飛んでくる。
手の平の上に、青く輝く小さな水晶石が乗った。
「これが、その水晶石」
「これ、が……」
まじまじと、私の手の平の上をライカーンが見つめている。
「こんな、小さな中に、俺が入るのか?」
「入る。私の魔法を甘く見ないでちょうだい」
少し自慢気にそう告げて、再び手を振って水晶石を元の場所へと戻した。
「私から魔力を抜く時に、いくつかの水晶石が使われる。一つの石では、溜めた魔力のすべてを入れられないから。その内の一つに、貴方入りの石を紛れ込ませるわ」
黙って話を聞くライカーンに、続ける。
「時限宮に着いたら、水晶石が割れるように魔法陣を描いておく。割れた瞬間に、貴方の肉体は元の大きさに戻り、魔法も使えるようになる」
時の神は、月の神ほどには警戒心が強くはない。
他者の魔力の動きにも、そう敏感ではないはずだ。
「だから、肉体が戻ったらすぐに、風魔法で自分の周りに障壁を張るのよ。貴方の身を守るために」
「わかった」
しっかり頷くライカーンに満足し、私はほうっとため息を漏らした。




