2−16
さらに二週間の訓練を経て、ライカーンの魔力制御は完璧になった。
普通は、もっと時間がかかるものなのだけれど、勘がいいのね。さすが脳筋の王さまだわ……。
「クララ、俺は脳筋ではない」
床に座っていたライカーンが立ち上がる。
「えっ?」
「何か、失礼なことを考えられている気がしたから、休息の時間に本棚から書物を取り出して読んでみた」
ああ、そう言えば、窓際に座って何か読んでいたわね。
「本棚の一番左に、物語本があった。あれは、貴方が一番最近読んだ書物だな?他より少しだけ、棚からはみ出していた」
「よくわかったわね?」
「物事を観察するのは、王族として必要なことだからな。鍛えられている」
それで、どうして私の考えていることがわかったのかしら。
「貴方はすべての知識を有していると言うが、どうも偏りがあるように感じられた。興味のないものは、端から忘れて……いや、頭の奥底にしまっているようだ」
ライカーンの言葉に首を傾げる。
「そんなつもりは、なかったけれど……」
「まあ、自覚はしていないんだろうとは思っていた。だが、あの物語本は、繰り返し読んだようだ。頁に皺が寄っていた」
「そんなところまで、見ていたの?」
汗を拭いて、厨へ歩き出す彼の後ろをついて行く。
「貴方の好きなものを知りたかった」
「!!」
どうしてそんな、嬉しがらせるようなことを言うのよ……。
「あの物語の中に『脳筋』という言葉が出てきたんだが……どうも、貴方が俺を見る目に、そういう感想を抱いているような気がして」
ライカーンが、狩りで採ってきた山菜や木の実をしまってある食料庫の扉を開けた。
「……貴方のような、体を鍛えている男の人のことを、指す単語ではないの?」
「俺は生まれてこの方、そんな呼ばれ方をしたことはない」
きっぱりと言い切るライカーンは、肉や山菜をせっせと取り出している。
「それは、貴方が王さまだからでは」
「皆が気を遣った、と?それはないな」
「どうして?」
「俺の周りに仕える者たちは、俺に遠慮などしない。炎の国の人間は、基本的におべっかなど使えないからな」
それは、やっぱり筋肉で物事を考えているのではないかしら。
鍋に切った食材を投げ入れ、ライカーンが火魔法を使う。
生活に使う魔法も、随分上手になった。
危なげなく調理する様子を見て、微笑む。
「そういうわけで、俺のことを脳筋の王さまと考えるのは、やめていただきたい」
「……わかったわ、ライ」
愛称を呼ぶと、嬉しそうな顔をする。
何だか悔しいわ。
出来上がった料理を皿に移しているライカーンの傍に近寄る。
「クララ?」
「えいっ」
その太い腰に、ギュッと抱きついてみた。
「……っ!」
ふふっ、固まったわ。
もうすぐ別れの時が来る。少し触れるくらい、許してほしいわ。




