12-2:魔法のランプを預かった
このマホロバは、かつては貧しい街だったらしい。オアシスはあれど、今のような大きさではなく、本当に極僅かな人間が暮らせる程度の水源でしかなかったそう。
だけど、ある時を境に状況は変わる。この魔法のランプが使われるようになったからだ。魔法のランプは、擦ると中からランプの精なる存在が出てきて、その者の願いを叶えてくれたという。完全に千夜一夜物語の世界だね。
ちなみに、ランプは初代市長が作り出したという伝説もあるけど、確たる出自は一切不明らしい。
「とにかく、ランプの精の力でオアシスは大きくなり……外敵から身を守るための蜃気楼も作られた」
「なるほど」
魔法の要塞になっていたワケだ。
「ただ、ここ100年ほどは擦っても出てこなくなってしまって」
「どうして? ねてるの?」
「いや、そうじゃないんだ。段々、我々の願いを叶えるのが嫌になってしまったらしい」
うーん。なんか分かる気がするな。人間の強い欲望に触れ続けてたら……想像するだけでも怖いよね。中にはランプを盗もうとしたり、壊そうとする人も居ただろうしね。
「対外的には、魔力が弱まっているという説明にしてあるけどね」
クエストの依頼書にも、そう書かれてたね。
ただ実際は、厭世的になって願いを叶えなくなってしまったということか。
「辛うじて、オアシスと蜃気楼に関しては、保守・維持のための力は貸してくれるから、街は回ってるんだ」
「なるほど」
じゃあ完全に見捨てられてるワケでもないのかな。この街が本当に嫌なら、「滅んじゃっても良いや」ってなるだろうし。
「……キミたちには、魔力充填という名のご機嫌取りをしてもらいたいんだよね」
少しだけ声を潜めて言うモノッキさん。ランプの中の精霊に聞こえないようにかな。あそこから外界の声が聞こえるのかは知らないけど。
「具体的には?」
「話をしてあげて欲しい。精霊は面白い話が大好きなんだ」
「……それだけ?」
「ああ」
一瞬、「そんな簡単なの?」とも思ったけど。よくよく考えれば、私に語れるような面白い話なんて無いよね。意外と苦戦するかも。
「キミたちだけじゃ足りないから、街を回って色んな人の面白い話を聞かせてあげて欲しい」
なるほど。そこまで含めてのクエストだね。ていうか、そういうことなら、私より面白い話のネタを持ってる人を沢山探し出せば、私は免除されるかも。
「良いお話を持ってる人の頭上には矢印マークが出るから、それを目印にしてね」
わあ、メタい。
でも凄く助かる。
「ちなみに、話に満足したらランプは輝いて知らせてくれる。強く輝いたら、より満足度が高いってことだから」
「わ、分かりました」
「それじゃあ、これを」
モノッキさんが立ち上がり、件のランプを手渡してくる。受け取ると、思ったより軽い。軽鉄素材みたいな。
「ももちゃんも。ももちゃんも、もってみたい」
渡してあげる。
「落とさないでね」
「落としても、壊れないけどね」
モノッキさんの注釈。そうなんだ。かなり丈夫……いや、半子供向けゲームだし、落とす子も多いだろうから。元々、そういう設定なんだろう。
「ちなみに街の外に持ち出そうとしたら、ランプは消えてここに戻ってくるから」
ファンタジー帰巣パワーがあるんだね。それなら盗難の心配も要らない。だからこそ、私たちみたいな、どこの馬の骨とも知らない冒険者にも預けられるってワケか。
「窃盗未遂容疑で牢屋にも入れられちゃうから。くれぐれも持ったまま、城壁の外に出ないようにね」
ひえ。
ももちゃんも「牢屋」という単語に、少し不安げにしている。手の中のランプを丁寧に持ち替えているのが可笑しかった。
キッチリ脅された後、私たちは1階へと下りる。と、そこで。ももちゃんの頭上に矢印が浮かんだ。え、さっきまで無かったのに。ていうか、プレイヤーに出ることもあるんだね。
「ねえね、あたまのうえにやじるしさんあるよ?」
と思ったら、私の頭上にも?
上を向いてみると、確かに矢印先輩が居た。うわあ、嫌だなあ。いきなり面白い話してって言われても、無茶振りだよ。
「ももちゃんね……きのうね、ほいくえんで」
始めちゃった!?
凄いね、ももちゃん。ノリノリだ。
「ねんどのぱぱつくったの」
「おお」
ていうか、初耳だ。
パパに聞かせてあげたら、大喜びしそうなのに。私から教えてあげようか。
「けどね。ゆきなりくんがね、けっちゃったの」
雲行きが怪しくなってきた。ゆきなりクンの顔がすぐには思い出せないけど、確か大人しい子だったと思うから、悪意を持ってやったというより過失だと思う。そもそも意地悪されたなら、保育園側から通達があるだろうし。
「ゆきなりくん、あやまってくれたけどね……」
あ、やっぱり。ホッとする。
「ぱぱのあたまがとれて、どこかいっちゃったの! ふふ、ふふ♪」
そんな楽しそうに話すことではないんだよ? ももちゃん。
「せんせいとか、ゆっこちゃんもいっしょにさがしてくれたけどね」
ゆっこちゃんというのは、例の小食の子で、ももちゃんと闇取引してる相手だね。本名はユリコちゃん(漢字は知らない)というそうだけど、園児のみんなは舌足らずだから「ゆっこちゃん」って呼ばれてるみたい。
「みつからなかったの。だからね。せんせいがないしょにしとこうねって」
今、まさに内緒じゃなくなっちゃったけど。
パパに教えてあげたら喜ぶ話かと思ったら、真逆だったね。パパが見るまでに、アーカイブ編集しといてあげようか。いくら粘土人形とはいえ、自分の頭が吹き飛んだなんて、あんまりだからね。
ていうか、こんな残虐エピソードでは、ランプの精さんも引いてるんじゃ……
――キーン!!!
目を開けておけないくらいに輝き始めた。大ウケしてるし……
「♪♪」
ももちゃんも甲高い声をあげて喜んでいた。




