厄災の信仰
「ステフ、コースレ王国から宣戦布告を受けた」
いつにも増して銀色の眼が鋭く私に突き刺さる。
「あの国は長きに渡って我がグラム王国の同盟国ですよ?」
「余も最初は疑ったけど、事実らしい。
それも諜報部を任せたレインが言うには背後にはカルン聖王国がいるらしいんだよ」
「カルン聖王国がなぜですか、疑問ですね。
ん?レイン?あのレインですか?」
「口を滑らしてしまったな、あのレインだ。
話したかったのだが彼に何度も止められていてな。ステフと余に申し訳ないと。
特にあの時のことをまだ悔やんでいてな。
余には渋々会ってくれるが、ステフにはもう合わず顔がないと言って、断固拒否をされてしまったよ」
「王妃の権限使いますかね?」
「やめてくれ」
そう懇願し落ち込んだ様子で抱きついてきた陛下の頭をよしよしと撫でてから。
「本題に入りましょう。私とイチャイチャしたいのはわかってますけど先に要件すましてください」
「ステフ今回は結構精神的にやばいんだ!少しは俺を甘やかしてくれよ!」
いやいや、甘やかしていますよ。
急に抱きついてくるのを受け止めているのですから。
「ウル?ちゃんと説明してくれませんか?」
もう一度頭を撫でてから、催促しました。
「わかったよ。どうやら今回の宣戦布告の原因はあの事件が発端みたいなんだ。
コースレ王国とカルン聖王国はなぜかあの厄災の巫女を聖女として認定したらしい」
「そんなこと私の情報網に入ってませんが?」
「当たり前だ、いくら聖女でも純粋に厄災を望むもの達は見抜けないだろう」
「、、」
考えもしなかったことに唖然として固まっている私を見て。
「ステフは彼らの天敵なのだから、情報が回らないよう妨害をうけていたようだよ。
それにしても、まさか存在している可能性から消しているとは、本当に人を疑わないな。
ふふふ。
どんなに強がってもやはり慈悲深いんだな。誇りに思うよ」
「うるさいですよ。厄災の巫女という元凶を消した今そんなこと考える人がいないと信じてただけです!
続きを話してください!」
「わかっているよ。余の妻が人というものを信じていることを。
怒った顔も相変わらず可愛いな。
一番好きなのはあの事件のときにみたドヤ顔だけどね」
「あれはあくまで無表情です。
いいから本題にもどってください」
顔を真っ赤にしながら陛下に進言した。
「ふぅー。
厄災の巫女を聖女に認定した理由は、この国の西側を守っている貴族のひとり。
ストフトック辺境伯が、厄災の巫女を生み出すことができる神、厄神と呼ばれるもの信仰する一族だったことから始まり、その親族が今カルン聖王国の教皇のようだ」
抱きしめるのをやめたあと2歩ほど離れたウルが顔を歪めたのが見えた。
「つまり辺境伯は敵側ということですね。
なるほど、やっと最後の謎が解けました。
消滅寸前である彼女が、どうやって力を取り戻せたのか。信仰ですか。
彼女が辺境伯領から来てたのは分かっていたので、内密に辺境伯を見に行ったのですが、呪術の影響もなかったので無関係と決めてしまいました」
「えっ辺境伯って余が即位したときくらいしか王都にいないはずだよ。
もしかして辺境伯領にいったの?」
「行きましたよ。
ウルがおかしくなってるときにですが」
目を細めてウルを見る。
「そ、そうか随分遠出したんだね。今度行くときは一緒に行こう」
「何言ってるんですか?その場所は今から戦場になるんですよ?」
「ああ、わかっている、わかっているとも」
「はぁーしっかりしてください。
ウルはこの国の国王なんですよ?
と説教したいのはやまやまですが。
この王都に情報が入るということは、すでに敵側は動いてますので時間がありませんね。
陛下、軍議の時間です」
王宮にある軍略専用にと特別に作られた部屋の中、長方形の机に我が国を中心とする大陸の地図が描かれています。
そこに私と陛下、宰相、騎士団と魔法団の団長と副団長、それぞれの部隊長が集まりました。
「皆も聞いているであろう、コースレ王国から宣戦布告を受けた。
それに加えストフトック辺境伯の反乱だ。
背後にはカレン聖王国もついているそうだ。
信じられないだろうがこれは事実だ」
陛下が皆を見渡しながら伝えました。
「陛下、発言してもよろしいでしょうか?」
「ああ構わぬ。
これは軍議だ。必要とあれば全ての発言を許可する」
「では、宰相として確認したいことがありますわ。二つの国はあの厄災の巫女を聖女認定し、わたしの友人である王妃様を厄災の巫女として討伐対象としているのは事実でしょうか?」
「それも事実だ」
赤い髪と赤い目、普段は決してしない怖い顔をしたサリーファ宰相の問いに陛下がすぐに返答しました。
陛下、討伐対象の件は聞いていませんが?
「それを聞いて安心しましたわ。慈悲もなく叩き潰せばいいだけですのね、わたしの友人があれと同じと言われるのは流石に笑えませんわ」
あの事件で散々言われてるときは爆笑してたのに、今は本気で怒っていますね。
彼女の笑いの基準がわかりません。
今はそんなことより。
「皆さま、そのことで聞いてほしいことがあります。
この戦争の本当の裏には厄災の巫女の呪術が関係しています」
「どういうことですか王妃様?
呪術とは厄災の巫女が消えると同時に効果がなくなるのではないのですか?」
「副騎士団長がおっしゃることは合っています。ですがそれはこの国に限ったことなのです。
遥か前に聖女様は、消滅させられなかった厄災の巫女をこの国から出すために、結界を貼られました。今も微弱ですがその力のおかげで魂に対し呪術は深く刻み込まれません。
ですがこの国以外では、呪術の効果がすぐには消えません。
厄災の巫女がこの国に来る前に、呪術をコースレ王国に仕込んだのでしょう。
それを利用し、この戦争を起こしたのはカルン聖王国の教皇とストフトック辺境伯です」
「ではコースレ王国は呪術の影響下にあるということですか?」
「余も軍議前に聞かされ、驚いた。
まさか戦争を起こすほどの命令を下せる者達と平民が。
関わることができるとは普通に考えて、ありえんしな」
今度は騎士団長から質問してきたので、私の代わりに陛下が答えくれました。
「それも教皇がやったのでしょう。
他国とはいえカルン聖王国は宗教国家ですから、教皇の地位は王と言っても過言ではありません。
外交として来られたらコースレ王国も無碍にはできないはずです」
「それでは、本来なら戦うはずのない国を相手にして戦争をするということか!
我が魔法団はそんな無駄なことをするために鍛錬してきたのではない!」
「無駄ですって!わたしの友人が侮辱されたのよ!そもそもそんな呪術にかかる方が悪いのよ!」
「落ち着いてください宰相。
あと魔法団長の気持ちもわかります」
顔を怒りに染めた魔法団長に食ってかかる私の友人を落ち着かせ、内心落ち込んでいるであろう陛下の肩に手を置き。
「魔法団長、安心してください。
この戦争に参加するのは私と公国の兵士だけで十分です」
「ステフ!君が戦争に参加するなんて聞いてないぞ!それに公国だとしても、二つの国を相手にするほどの兵士はいない!
無謀だ!」
「落ち着いてください陛下。
そもそも呪術に対抗できるのは私だけなのです。行かないわけにはいきません」
「だがな」
「大丈夫ですよ。私は王妃であると同時に聖女なのですよ?
確実に勝てます。
それにいい作戦があるんです」
「作戦?」
「はい」
陛下と皆に作戦内容を伝えると、
唖然とされましたが、なんとか賛成多数を得ました。
友人は爆笑してましたが。
また見ていただいてありがとうございます。
酒及びコーラのつまみになれるようがんばります!