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魔法使いの攻略法  作者: 東井なつき
序章 原生の森
9/14

8 最恐の魔法使い

 流れるような銀髪は、しかし所々汚れていて――

 真ん丸な双眸も半眼に閉じられ、そこから覗くは、光を反射しない淀んだ漆黒。

 年頃は十二歳くらいだろうか、可愛らしく端整な容貌からは、表情というものが見受けられない。

 まるで精巧に作られた人形のような少女だ。


「……う、嘘。銀髪の幼女って……まさか」

 薄汚れた布に身を包んだ銀髪少女を見て、歌姫が驚愕に目を見開く。

「し、知ってるんですか?」

 俺は銀髪少女から目を離さず、早口で訊ねる。


「この森の奥には、一か所だけ誰も近寄らないエリアがある。そこに足を踏み入れた者が誰一人帰ってこなかったからだ。最初は、凶悪な猛獣の棲み処があると思われていたけど、実際は違った。そのエリアを住み処にしていたのはたった一人の幼女」

「……そ、それが、彼女だと?」

 俺は銀髪少女を見たまま訊く。


「ああ。そのエリア付近で瀕死の男が見つかり、『銀髪の幼女にやられた』とだけ残して息を引き取ったと噂になり、ロリコンが何人も向かったが、やはり誰一人戻らなかった。今では誰もそのエリアの話をしようとはしなかったけど……どうしてあいつがこんな場所に?」


 ロリコンの凶悪犯なんて知ったことではないが、凶悪犯を幾人も手に掛けてきた少女。

 凶悪犯と日々戦ってきて、恐怖心とかなくなったと思ったけど、まだ俺の中にあったんだな。

 ……どうする?

 見た目、メッチャ可愛いのに、足震えてきたんだけど。


 と、銀髪少女がおもむろに口を開く。

「殺される……」


「え?」

 あまりにも不可解な言葉に、俺は思わず声が出る。

 むしろ、それ俺たち。


「――だから、殺さないと……」


 刹那、銀髪少女が消え――俺が手を伸ばせば届く距離――眼前にいた。

 ……嘘だろ。


 そんなことを思い浮かべた時には、ものすごい衝撃と共に、俺は真後ろに吹き飛ばされていた。

 瞬間移動ではない。

 純粋に速かったのだ。


 吹き飛ばされた俺は、巨木に激突する寸前、どうにか真後ろに魔法を発動し、勢いを殺す――

 いや、ほとんどそのままの速度で巨木に叩き付けられた。

「ぐぁっ!」

 背中や頭を強打。

 しかし、この半年で身体もかなり丈夫になった俺は、どうにか意識を保ったままでいられた。

 すぐに地面に着地した俺は、俺が元いた場所、ルナや歌姫の姿を確認しようとしたが……


 もうそこに誰もいない。


 ドンッ、ドンッ! と続けざまに、そんな轟音がした。


「……る、ルナ」

 歌姫はまだしも、ルナは戦闘力皆無の女の子だ。

 あんな攻撃くらったら……

 俺は、すぐにでもルナのもとに行こうとしたが……


「まだ、生きてる。殺さないと」


 いつの間にか、眼前に銀髪少女がいた。


「くそっ!」

 俺は全力で魔法を発動させる。


 俺の突き出した右手から溢れ出る無数の光。

 修行の甲斐もあり、波打つ光線の威力も速度も操れる数も、飛躍的に向上した。

 ほとんど一瞬で、銀髪少女を四方八方から取り囲み、容赦なく少女の身体を貫く――


「え?」

 

 そんな呟きを漏らしたのは、俺だった。

 銀髪少女を貫くはずの俺の魔法は、なぜか俺の身体に突き刺さっていた。

 ……跳ね返された?


 四方八方から銀髪少女を攻撃した光線は、少女の身体に傷一つ負わせることなく、まるで光が鏡で反射するかのような軌道を描いた。

 幸い、俺が出現させた光線の内、俺に戻ってきたモノは四つだけ。

 どれも致命傷ではないが、右足を打ち抜かれ、俺はバランスを崩しかける。


 そんな隙を少女が見逃すはずもなく、懐に入られた俺は先程同様、後方にものすごい勢いで吹き飛ばされる。

 しかも今度はすぐ後ろが、巨木。

 俺はまたも巨木の根本付近に叩き付けられる。


 ……マズい。

 後ろに思いきり吹き飛ばされれば、態勢を立て直す時間くらいあるだろうが、無駄にぶっとい巨木がアダとなり、このままではサウンドバック状態だ。


「……まだ、生きてる。殺さないと」


 無感情な少女の声が、俺の心に冷たく響く。 

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