9 銀髪少女の魔法
……な、なんだ。
この子の魔法の本質は。
攻略の糸口を探るため、俺は痛みを堪え、必死に考える。
目にもとまらぬスピードを持ち、そのか細い腕からは想像もできない威力の打撃を与えてくる。
ドンッ!
少女の拳が俺の腹に突き刺さる。
俺はすぐに反撃を試みるが、やはり先程と同じようにすべての攻撃が防がれ、そしてその一部が俺に返ってくる。鏡に反射した光のように。
さらには自分への攻撃をことごとく跳ね返した鉄壁のバリアー。
どうして、こんなに色々なことができる。
魔法は一種類しか、使えないはずなのに。
ドンッ!
今度はみぞおち付近に、少女の拳が当たる。
攻撃の直後なら、隙ができるかもしれないと思い、俺は全力で逃亡を図るが……
やはり一瞬で距離を詰められ、咄嗟に両腕でガードするも、別の巨木に叩き付けられる。
くっ、こんな撫でるような弱々しいパンチにどうしてこんな威力が。
……って、撫でるようなパンチ?
俺はふと疑問に思う。
いくら魔法で強化したからって、そんなものが本当にここまでの威力を発揮するのか?
もしかして、俺の今までの解釈は全部間違っている?
ドンッ!
何度目かになる巨木に押さえつけられるような感覚。
少女はすでに俺の眼前に佇んでいた。
……そ、そうか。少しだけ分かってきたぞ。
銀髪少女は俺を殴っているわけじゃない。
後ろに強く飛ばされたから、そう勘違いしてたけど、彼女は俺を触っているだけだ。
恐らく、彼女の魔法は力を強くしたりするものではなく、弾くという概念ではないか?
そう考えれば、俺の魔法を跳ね返したことにも納得できる。
驚異的な速度も自らの身体をを弾く感覚で行えば、たぶんできそうだ。
弾く魔法。
しかしそれが分かっただけでは、勝てない。
どこに逃げても一瞬で追いつかれ、こちらの攻撃はすべて防がれる、そんな状況は何一つ変わっていないのだから。
もっとより詳しく分析して、弱点を見つけなくては。
俺のありとあらゆる方向からの攻撃を完璧に防いだことから、銀髪少女の身体を覆うように不可視のバリアー的なモノが常に張られている可能性が高い。
だとすると、弾くモノには何らかの条件があるはずだ。
すべてのものを弾く……なんて魔法なら、酸素とかも弾き、生きていけなくなるもんな。
これまで少女が弾いたものは、人間、魔法、少女自身。
弾かなかったものは、空気や地面。
こうやって考えると魔法と魔法使い――つまり魔力となるが……情報が少な過ぎて、断定するには危険かもしれない。
いや、そんなことを言ってる場合じゃないな。
可能性があるなら、試してみる。
俺は痛む身体に鞭打って、全力で魔法を発動させる。
狙いは少女――ではなく、少女の遥か頭上にある巨木の無数の枝。
俺の攻撃が大きく外れたことを不審に思ったのか、少女がチラッと上を見上げ――
少女はその場から消えた。
いや、高速で後退したのだ。
バサバサと降り注いでくる、無数の木の枝。
『地獄の森』の木々は、大木ばかりで枝も太く、落下したものが直撃すれば結構痛いだろう。
……避けたな、初めて。
俺は落ちてきた手頃な大きさの枝を掴み、スッと剣のように構える。
そして――
高速で迫り来る少女を、木の枝で迎え撃つ。
「はああぁぁ!」
素早く、そして鋭く振った木の枝は、しかし呆気なく空振り――
いつの間にか真横にいた少女が、俺の脇腹に触れる。
ドンッ!
またしても勢いよく吹き飛ばされ、俺は巨木に叩き付けられる。
「がぁっ!」
鮮血が零れる。
さすがにもうボロボロだ。
意識が朦朧とし、眠くなってくる。
フッと、目の前に少女らしき影が差す。
……詰んだな。
強すぎる。
俺もこの半年間で、相当強くなったと自覚してたけど、上には上がいるんだな。
敵わねぇよ、こんな化け物。
完全に諦めた俺は、せめて最期に自分を殺す少女を見ようとする。
視界がぼやけて、よく分からなかったけど……
こんな小さな女の子に……
それだけは認識できた。
「まだ生きてる。殺さなくちゃ」
少女の声が聞こえてくる。
……でも、なんだろう。
今まで気づかなかったけど、いや、気のせいかも知れないけど……
少女の声は、どこか……
――怯えていた。
……どうして? こんなに強い少女が何に怯えるというのか。
だってこの少女は本当に強――
……あ。
そうか、そうだったんだ。
ここにきてようやく、俺は自分の勘違いに気づく。
そうだよな、そうだよな。
だったら……
一度光を失いかけた俺の瞳に、新たな光が差し――少女の淀んだ双眸を真っ直ぐ捉えた。




