第75話:心を入れ替えたのかしら?
「アイリ殿下の神的な美しさに、頬を赤らめない男など男ではないよ。とはいえ、ファラオは全く興味がないようだったね。あいつ、もしかして男ではないのか?」
「ファラオ様は、れっきとした男性ですわ。それだけ私の事を、大切にして下さっているのです。まさか他国の王族に、あんなにもはっきりと言って下さるだなんて…私、昨日の自分が恥ずかしくなりましたわ。
ファラオ様が嫌がっておられるのに、お兄様やアレック様、セシル様とダンスを踊ってしまって。そりゃファラオ様が怒るのも、無理はないですね。それなのに、ファラオ様に不満を抱いたりして。
本当に私、恥ずかしくてたまらないのです。これからはファラオ様の気持ちを一番に考えて、生きていきますわ」
「ファラオは、極端に嫉妬深いだけだよ。そんなファラオに付き合う必要はない。それにソフィーナだって、アラン殿下になびかなかったしな。男の俺から見ても、アラン殿下は相当カッコいいぞ。そこいらの令嬢たちがいたら、猛獣の様に群がられるくらいに」
「お兄様、令嬢を猛獣扱いするのはお止め下さい。私はお兄様と違って、顔で人を好きになったりはしませんので」
「誰が顔で好きになるだ!普通美しい方を見たら、自分の意思とは関係なく顔が赤くなるものだ。今日のソフィーナ、ちょっととげがあるぞ」
無意識に赤くなるか…そんなものなのかしら?
「そうなのですね。それは失礼いたしました。とにかく向こうも貿易について前向きの様ですし、こちらも全力でおもてなしをしましょう。とはいえ、油断は禁物ですが」
あれほど空気を読まずに、ファラオ様にアピールしていたのだ。そう簡単に切り替えたとは思えない。何か企んでいるに違いないわ。
そう思っていたのだが…
「ソフィーナ様、この街はどこもとても衛生的ですね。きちんと道路も整備されております。こんなに大きな街なのに」
街にやって来たアイリ殿下は、なぜか私にベッタリだ。ファラオ様には見向きもせずに、私にだけ話しかける。
「こちらがこの国で作った、絹を使った生地ですね。とても柔らかくて触り心地がいいですわ」
「そうなのです。とても触り心地がよくて。私の着ているドレスももちろん、こちらの生地で作られているのです。肌にとても優しい素材ですので、肌の弱い貴族方にも安心して着用して頂けますの。
今他国でも非常に注目されており、下着やドレス、さらには普段使うタオルやシーツなどにも活用されております。他国からの輸入量も大幅に増えており、今急ピッチで製造を増やしております。
ぜひアラバシア王国でも、取り入れていただけると嬉しいですわ」
「もちろんですわ、ねえ、お兄様」
「そうだね、この生地、とても触り心地がいい。昨日のシーツもタオルも、この生地が使われていたのだよね。あんなに肌触りが良い素材がこの国にはあるのかと、驚愕しました。ぜひ輸入を検討させていただきます」
「ありがとうございます。では次は、こちらへどうぞ」
案内するところ全てに興味を示してくれる、アラバシア王国の殿下たち。案内する方も、つい熱が入ってしまう。
真剣に説明を聞くアラン殿下とアイリ殿下を見ていると、本当に貿易の事を真剣に考えてくれているのだろうと思える。
そもそもこの方たちは、国の代表で来ているのだ。さすがに色恋のせいで、大切な貿易話を水に流すほど愚かではないか。
でも、油断は良くない。一応気を付けないと。
そう思っていたのだが、翌日も、その翌日も2人は真剣に視察をしていた。初日とは別人のように、アイリ殿下はファラオ様に、アラン殿下は私に構わなくなったのだ。
もしかしたら、本当に心を入れ替えてくれたのかもしれない。このまま彼らとの交渉がうまく行き、アラバシア王国と良い関係が築けたらいいな。




