第35話:公爵令嬢として
「お嬢様、今日もとてもお綺麗ですよ。ドレスもよくお似合いですわ」
「皆、今日もありがとう。それじゃあ、そろそろ行ってくるわね」
王宮に行く日の朝、いつも以上に磨き上げてくれた使用人たち。自分の瞳の色でもある紫色のドレスを身にまとい、部屋から出る。
「お父様、お待たせして申し訳ございませんでした。さあ、参りましょう」
お父様と一緒に、馬車に乗り込んだ。そういえばお兄様の姿が見られない。いつも私が出掛ける時は、お兄様が見送りに来てくれるのだけれど。
「お父様、お兄様の姿が見えないのですが、具合でも悪いのですか?」
もしそうなら大変だ。お兄様のお見舞いに行かないと、そう思ったのだが。
「ソリティオなら、私の命令で朝から領地に向かったよ。ソリティオがいたらきっと、一緒について来てしまうだろう。ソフィーナを大切に思うソリティオの気持ちは有難いが、ちょっと行動が行き過ぎているからね」
「まあ、そうだったのですね。ですがお兄様は、私の事をいつも思って下さっての行動ですわ」
「ああ、分かっているよ。とにかく今日は、次期公爵になるために大切な視察だから、ソフィーナは気にしなくていいよ」
そういう事ならいいのだが…
「ソフィーナ、君はいい意味で随分と変わった。貴族社会でもソフィーナの評判は、180度変わったよ。君は公爵令嬢だが、私たちはソフィーナには自分の意思で好きな様に生きて欲しいと思っている。
だからどうか、私達や家の事は考えずに、自分の気持ちを大切にしてほしい。それが私たちの願いだ」
正直私はあまり公爵令嬢だからとか、考えていなかった。よく考えてみたら、この国で一番権力を持っている貴族でもある我が家。もしかしたら貴族たちの間で、殿下と私を婚約させようという動きが進んでいるのかもしれない。
そして今日、そういった話が出るのかしら?だからお父様は、今このタイミングで私にその話をしたのかしら?
「お父様、もしかして殿下の婚約者に私の名前が挙がっているのですか?有力候補だったソラ様がルドルフ様と婚約してしまった今、一番権力を持った我が家に白羽の矢が立つのは容易に想像が出来ますわ」
昔の私なら、絶対に候補に選ばれなかっただろう。でも今は、多少なりともまともになった。でも、殿下はきっと私との婚約など、絶対に嫌だろう。もしかしたら今日、その件で私に相談したいのかもしれない。
ソラ様と殿下の件も、大人たちが推し進めたと言っていたし。きっと今回も、私の知らないところで、大人たちが動いているのかもしれない。
「ソフィーナ、そんな真剣な顔をしなくてもいいのだよ。いざとなったら、ねじ伏せるくらいの力を、お父様は持っているからね。だから安心しなさい。君の気持ちを無視して、何かを進めようとはしないから」
お父様が悪そうな顔をしている。私の為ならきっと、王族相手ですら喧嘩をするだろう。お父様はそういう人だ。もちろん、お父様にそんな事をさせるつもりはないが…
「お父様、私の事を心配して下さり、ありがとうございます。ですが私はそんなに軟ではありませんから、大丈夫ですわ」
にっこり微笑みながら、お父様に伝えた。
「それならいいが…今のソフィーナは、周りに気を遣う節があるからな。昨日も王家の使いの者に気を使っていたし。お父様は心配だよ」
私に甘々なのは、相変わらず健在ね。
さて、王宮が見えてきた。昨日は呑気に中庭を散歩しようなんて考えていたけれど、そんな感じではなさそうだ。気合を入れていかないと!




