第3話:健康って素晴らしい
「お嬢様、随分と怪我もよくなってきましたね。今日のお医者様の診断で、包帯も取れるといいですね」
「ええ、そうね。やっと包帯が取れるのね。嬉しいわ」
前世の記憶を取り戻してから、早1ヶ月。この1ヶ月、私はすっかり心を入れ替え、穏やかな日々を送っている。最初は怯えていた使用人たちも、少しずつ今の私に慣れてきてくれたのか、今では笑顔も沢山見せてくれる様になった。
そして私の我が儘のせいで事故に巻き込まれてしまった使用人や御者、護衛たちにも改めてお詫びに行った。彼らも酷い怪我をしていたのに、逆に謝罪されてしまったのだ。
包帯を巻いて私に謝罪する彼らを見たら、申し訳なくて涙が込み上げてきた。彼らが今後自由に過ごせるよう、一生遊んで暮らせるだけの慰謝料を渡したのだが…
有難い事に、御者も使用人たち護衛も、今後もこのお屋敷で働いてくれると言ってくれたのだ。怪我が治り次第、皆持ち場に戻る事になっている。こんなクズでどうしようもない私の傍で、今後も働いてくれるだなんて、どれほど皆いい人たちなのだろう。
彼らの期待に応えるためにも、もっと私も人間として成長しないと!
そう思っている。
そして今日は、やっと私の足と腕に巻かれている包帯が取れる予定の日だ。この包帯が取れれば、晴れて私も完治したことになる。
これでやっと、外に出られる。
何分両親が過保護の為、私の怪我が完全に治るまでは、極力部屋から出ない様にと言われていたのだ。なんだか前世の事を思い出し、胸が苦しくなった。それでも怪我が治れば、外に出られる、そう自分に言い聞かせてこの1ヶ月、過ごしてきたのだ。
とはいえ、ただ部屋で過ごしていた訳ではない。クズ令嬢から脱出するため、令嬢としてしっかりお勉強をして来たのだ。昔の私は、お勉強が苦手で教育係にも随分迷惑をかけていた。
もちろん今は、心を入れ替えてしっかり勉強をしているのだ。
皆に支えられ、今日という日を迎える事が出来た。
「ケガの方もしっかり治っておりますね。もう問題ないですよ」
「本当ですか?先生、ありがとうございます。皆も今までお世話をしてくれてありがとう。あなた達がいつも適切に処置してくれたお陰よ」
近くに控えていた使用人たちにも、お礼を言う。
「お嬢様が先生のいいつけを守って下さったお陰で、怪我の治りも早かったのですわ」
「そうです、私共は何もしておりませんわ。ですが、こんな風にお嬢様が私共に感謝してくださる事が、とても嬉しいですわ」
そう言って涙ぐんでいる使用人たち。今は少しマシになったが、それでも13年もの間、酷い仕打ちをして来た私の為に泣いてくれるだなんて、どこまでいい人たのだろう。そう思うと、私まで涙が出そうになる。
それでもなんとか涙を堪えた。そして包帯が取られた腕と足を見た。これで自由に動ける。こうしちゃいられない、早速外に出ないと。
向かった先は、中庭だ。
「なんて空気が美味しいのかしら?やっぱり外の空気は最高ね。それにお日様の光が妙に気持ちいいわ。まあ、このお花、とってもいい匂いがするわね。こっちのお花も。こうやって直接花々に触れると、心も穏やかになるわ」
今日はとても天気も良く、絶好のお散歩日和だ。清々しい空気、気持ちの良い太陽の光、それに綺麗な花々。あぁ、健康って本当に幸せな事だわ。
つい嬉しくて、踊り出したくなる。
あら?あそこにいるのは
「あなたは庭師ね。とても綺麗にお手入れをしてくれて、どうもありがとう。お陰で私、とても気持ち良く過ごせるわ。こんなに綺麗な花々を育てられるあなた達は天才ね」
庭の手入れをしていた庭師に近づき、そっと手を握った。なんて働き者の手なのかしら。彼らのお陰で、この美しいお庭が保たれているのよね。
「お…お嬢様、私共の手など握ってはいけません。お嬢様の手が汚れてしまわれます」
慌てて手を振りほどこうとする庭師。顔が赤くなっている。きっと照れているのだろう。
「まあ、あなたの手は汚く何てないわ。こんなにも綺麗なお庭を維持できる、素敵な手だわ。これからもこの調子で、お庭を素敵に保ってね」
すっと手を離すと、笑顔で手を振った。あぁ、なんて素敵な庭なのかしら?
「あら?鳥さんたちもこの庭が素敵すぎて、遊びにきたの?思う存分楽しんでいってね」
可愛い鳥さんたちにも声をかける。
その時だった。何やら草むらからガサッという音が聞こえたのだ。




