第2話:どうしようもないクズでごめんなさい
「旦那様、準備が整いました。お嬢様、脳の検査を…」
恐縮しながら私に話しかけてきたお医者様。周りには見た事のない立派な器具たちが並び、不安そうな医者や看護師さんたちがこちらを見つめていた。
すっかり忘れていたが、今まであまりにもクズ過ぎて、正気に戻った事が異常と判断されていたのだった。非常に失礼な事だが、今までのクズっぷりを考えれば当然の事。
こんな検査なんか受けなくても、私の脳は正常だ。むしろ改善されたと言いたいところだが、せっかく準備してくれたのだ。ここは素直に治療を受けよう。
「ありがとう。異常は見つからないとは思いますが、お願いします」
「お嬢様が“ありがとう”“お願いします”と言ったぞ。これは一大事だ。すぐに検査をしないと。では早速、この機械を付けさせていただきます」
当たり前の事を言っただけなのに、腰を抜かしそうになるほどびっくりしている周りの人たち。ええ、分かっておりますよ。それほどまでに、前までの私がクズだったって事ですよね。分かっているけれど、何だろう、この何とも言えない気持ちは…
その後恐縮しながらも検査を行う医師たち。
「旦那様、全ての検査を終えましたが、特に異常は見当たりませんでした…もしかしたら、事故の影響で一時的に脳が混乱しているだけかもしれません」
「そうか、わかった。異常が見当たらないなら、仕方がない。様子を見よう」
「承知いたしました、また何かありましたら、すぐに駆け付けますので。それでは私共はこれで失礼いたします」
どうやら私の脳に、異常は見つからなかった様だ。そりゃそうだろう、いくらこの国の最新の機器を使っても、私が前世の記憶を取り戻し、人としてまともになった事なんて、分かるはずがない。
「ソフィーナ、特に異常はない様で、よかったよ。それじゃあ私たちは部屋から出ていくけれど、何かあったらすぐに教えてくれ。君たち、ソフィーナの世話を頼んだよ」
「「「はい、かしこまりました」」」
両親が部屋から出ていくのを見送った。ふと使用人たちに目をやると、小さく震えていた。彼女たちには、今まで散々な扱いをして来たのだ。本当に申し訳ない事をした。こんな我が儘でどうしようもないクズな私を見捨てず、世話をしてくれていただなんて、本当に頭が下がる。
「お嬢様、痛みはありませんか?もし痛みが強いようでしたら、痛み止めを準備させていただきます」
「お嬢様のお好きなお茶を準備しました。どうぞお飲みください」
「体を拭かせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?もしお嬢様がお嫌でしたら、もちろんそのままでも結構ですので」
怯えながらも必死に私の世話をしてくれようとする使用人たち。こんなにも優しい彼女たちに、私は酷い事をしていたのだ。なんと詫びたらいいのやら…
「皆、ありがとう。今は痛みも落ち着いているから大丈夫よ。体を拭いてもらえるかしら?汗をかいたせいか、ベタベタしていて気持ちが悪いの。もし手伝ってもらえるのなら、湯あみをしたいのだけれど…お茶はさっぱりした後で頂くわ。それから…」
彼女たちの方を真っすぐ見つめた。彼女たちの顔が引きつるのが分かる。きっと怖いのだろう…
「今まで、酷い事をして本当にごめんなさい。私は傲慢で我が儘でどうしようもないクズだったわ。あなた達には、謝っても謝り切れない程酷い事を今までして来たわね。それなのに、私の傍にいてくれてありがとう。
これからはもっとまともになるから、どうか私を今後も支えてくれるかしら?」
今までのクズっぷりを謝罪し、彼女たちに頭を下げたのだ。こんな事で許してもらえるだなんて思っていないが、今の私に出来る事と言えば、これくらいしかない。
「お嬢様、頭をお上げください。もちろん、これからも私共は、しっかりとお嬢様のお世話をさせていただきますわ」
「そうですわ、お嬢様が謝罪なさることはございません。こちらこそ、これからもお願いいたします」
「あなた達、優しいのね。ありがとう。こんな私だけれど、よろしくね」
彼女たちに向かって、にっこりとほほ笑んだ。すると、なぜか頬を赤らめた彼女たちだったが、すぐに笑顔に戻った。
その後も、いつもの様に甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼女たち。こんなにいい子たちに、私は今まで暴言や暴力をふるっていただなんて、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
これからは絶対にそんな酷い事はしない。そう心に誓ったのだった。




