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還る血の仔ら  作者: 邑沢 迅
9日目

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経典『梔子沈黙律』

序:種子の謂れ

およそ人の世は、名の汚濁に満ちたり。

産声とともに授かる「名」は、血に刻まれし静寂を穿つ最初の杭なり。

人は目にて欲を拾い、耳にて虚言を蓄え、口にて己という幻を紡ぐ。

これ、生滅流転の苦なり。

開祖は宣わく。

人、人たるを止めよ。

ただ血の流るる管と成るべし。

そのとき万象は一に帰し、永劫の静寂、地に満ちん。


第一章:視の戒

外界の形あるもの、すべて心鏡を曇らす塵芥なり。

美を見れば執着が芽吹き、醜を見れば嫌悪が血を濁らす。

誠の聖者は、光を拒む。

瞼を閉ざすにあらず。その眼底にこそ、深き闇を宿すべし。

過去の汚濁を視ず、未来の変異を視ざる者。その眼窩は、開祖の沈黙を映す深淵なり。

先天に光を持たぬ者は、開祖より最初の祝福を賜りし守護者なり。


第二章:聴の戒

言の葉は、血の純度を蝕む毒液なり。

俗世の喧騒、他者の懇願、理非の論。これらすべて、血脈に流るる原初の旋律を掻き消す雑音にほかならず。

誠の聖者は、音を絶つ。

鼓膜を破るにあらず。その耳を虚空へと通ずべし。

外の声を聴かず、内なる迷いをも聴かざる者。その耳底は、血の拍動のみを奏でる審判の庭なり。

先天に音を持たぬ者は、俗世の虚妄より永久に解き放たれし審判者なり。


第三章:言の戒

「我」と発するその瞬間、人は神より零れ落つ。

言葉は真実を切り刻み、名は存在を穢し、愛は心を腐らす。

誠の聖者は、声を捨つ。

舌を抜くにあらず。その喉を、一筋の沈黙の縄と成すべし。

嘘を吐かず、名を呼ばず、己を語らざる者。その口蓋は、一度として汚されぬ未来の預言を宿す器なり。

先天に声を持たぬ者は、一生を沈黙の祈りに捧げし預言者なり。


第四章:至極の戒

三つの戒を以て外界を絶つとも、なお内なる意志残らば、未だ獣の域を脱せず。

欲し、拒み、案じ、求むる心。これこそ、開祖の再臨を阻む最後の穢れなり。

誠の聖者は、意志を消す。思わざる者こそ、拒まざる者なり。

受容せず、拒絶せず、ただ在るという重力のみを血に委ねる者。

思考も欲望も、自己の境界すら持たぬ空の器。

これこそ、開祖再臨が為、備えられし完璧なる空室なり。


結:血の綯い

血は、流るる記憶なり。外の血は言葉を運び、内の血は沈黙を濃くす。

似通いし血を綯い合わせ、余計なる個を削ぎ落とすべし。沸するまで血を煮詰めよ。

沈黙が極まり、神性が収束するその果てに、唯一柱は生まれん。

そのとき里は現世より消え失せ、開祖の夢見し永劫の静寂へと昇華せん。


最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。もしよろしければ、はじめにどのエンドにたどり着いたか、コメントやレビューで教えていただけますと嬉しいです。


そして、この小説を面白いと感じていただけましたら、★★★★★の評価とブックマークで応援どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
全ルート、拝読しました。 じわりじわりと迫ってくる気持ち悪さ、堪能しました。 ありがとうございます。 遅ればせながら、★も入れさせていただきました。
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