腕を伸ばしたら
「残念だったな」
「何が」
「さっきのだよ。 同じクラスになれなくてって…」
「んな訳ないってわかってたし」
結月と一緒に前を歩く麻琴をチラッと見る。
(俺と同じクラスになったことがないことも知らないだろうし。
てか、意識したこともないんだろうな…)
「はぁー…」
「落ち込むなよ。話せただけ良かっただろ」
(まぁ、そうだけど…)
「「あら」」朝陽と結月の声がハモる。
待機場所ではクラスごとに座ることになっていて、そのクラスの列が、番号順に十人ずつの一列。ひとクラスにつき、四列になっている。
柊斗は4組1番。麻琴は3組31番。
ということで、二人が一番前に並んで座ることになった。
(こんなことあるんだ…)
左腕を伸ばしたら肩に手が届きそうな距離に柊斗がいる。
今までこんな近くに座ったことない…
なぜか呼吸、仕草一つにも緊張してしまう。
(映画館とかバスで他人が隣にいるときの方が緊張しない…)
柊斗が座っている左側に全神経が集中しているように熱い…
(マジか…)
右腕を伸ばしたら顔に手が届きそうな距離に麻琴がいる。
隣に座る日が来るなんて…
少しでも体を動かそうとすると緊張する。
(今まで隣に誰がいようと何とも思わなかったのに…)
心臓って右にあったかなと思うほど、右側がドキドキしている。
―こんな時、普通の幼なじみだったら…
そんな二人をそれぞれの位置から見つめる結月と朝陽
(んー まぁ、喋らないよね…)
(隣にいるだけで緊張してるだろうなぁ)
外で二人が話した…というより挨拶だけど、それでも久しぶりに言葉を交わすのを見たくらい、二人は話さない。
小学校低学年までは、まあ普通に合図したり、話をしているのを見たことがあるが、だんだんと話さなくなっていった…というより、お互いに近寄らなくたってしまった。
「なあ、なんで前みたいに麻琴と話さないんだ?」
「それは…かっこ悪いところ見せたくないから…」
(今考えたら可愛い理由だけど、後悔してるんだろうなぁ…)
「ねえ、どうして柊斗くんと話さなくなったの?」
「なんか…麻琴だけが柊斗と話すのずるいんだって…」
(今思えば、柊斗くんのことが好きな女子の嫉妬だけど、幼いときの言葉って意外と縛り付けるんだよね…)
それからずるずると、ここまで来てしまった二人。
同じクラスにもなったことないし…
高校も同じ学校に進学したのに…
でも、もし同じクラスになったら、
(柊斗くん、絶対に麻琴と同じ係か委員会やるだろうなぁ)
(席で隣になった男子はもちろん、同じグループとかにも圧かけそうだな)
((……もしかして、神様はそれが分かってて同じクラスにしないのでは!))
柊斗と麻琴の並んでいる後ろ姿を見て、二人は同じことを考えていた。
―それでも、一回くらい二人を同じクラスにしてあげてください。
そして、その時は(私・俺)も一緒でお願いします。
楽しそうなので!
あと20分で入学式開始。その前に三年生が一年生ににリボンを着けてくれることに。
「あ、柊斗と麻琴ちゃん隣だ」
リボンを着けてくれる三年生の中に湊がいた。手にはプラカードを持っている。
「3組のプラカード係で来たよ」
湊がニコッと笑うと、周りから小さな歓声が上がる。
(おぉ~ さすが湊さん)
「あっ、こっち着け終わったら俺が着けたいからとっといてくれる?」
柊斗にリボンを着けようとしていた男子に一言言って、麻琴にリボンを着けはじめる湊。
「えっ? 女子は女子の先輩が着けてくれるんじゃ…」
「颯汰に頼まれたんだよね~」
ニコニコ答えながら、リボンを着ける湊。
(絶対嘘だ。
俺の反応を見たいがために、わざとやってるだろ)
「なんか、すみません。ありがとうございます…」
(何て恐ろしいことを… お兄ちゃんの言うことなんか聞かなくていいのに… てか、変なこと頼むな!
あぁ…このあと色々聞かれそう…… ま、言うことは決まってるけどね)
麻琴が申し訳なさそうにお礼を言うと、周りに聞こえないようにコソッと
「俺がやりたかったってものあるから」
そう言いながら、ニコッと笑い柊斗をチラッと見る湊。
湊の言葉に、麻琴は若干引いたように笑う。
(湊さんのこのノリ、ちょっと苦手なんだよね…)
イラッ…
(困らせるようなことするなよ)
麻琴に着け終わると、湊は柊斗にリボンを着けはじめた。
「よかったね。隣で」
耳を済ませないと聞こえないような小さな声で二人が会話をする。
「わざとだろ。 てか、クラス違うのに、わざわざ俺にまで…」
「ん? かわいい弟に着けたかっただけだよ」
「ウザッ」
「きゃー」周りに聞こえるように言った湊の声に騒がしくなる。
(よくこんなこと平気で言えるな…)
チラッと麻琴を見ると、さっきまでは話もしていなかった周りの女子たちに詰め寄られていた。
「いや、家が近所で…小学校から一緒なだけで…」
早速、周りの女子達から、柊斗と湊について聞かれ、いつも通りの説明をする麻琴。
…
((湊さん、何かしたな))
プラカードを持って入ってきた湊と前方の騒がしい様子から、湊が二人にちょっかいを出していることを察した二人。
前で並んでいる二人を見て、何もしないわけがない。
(あとで麻琴に聞かないと)
(あとで柊斗に聞いてみよ)
―「入場します」
先生のかけ声で静かになり、みんなが歩き出す。
(助かったぁ… やっと緊張から抜け出せる)
(せっかく隣だったのに、結局何も話せなかった…)
二人にとってドキドキだった待機時間。
一人、その光景を見られなかった颯汰は湊から話を聞いて、悔しがっていた。




