表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生アニマル地方都市!!  作者: バンデシエラ
第一章 ほじくり出された赤ちゃんと鼻くそ編
1/3

1話 鼻の中がスッキリしてないとさぁ!?

 どこにでもあるような一軒家の赤い屋根から一羽のスズメが飛び立つ。


 早朝。まだ冬の寒さが残るものの、少しずつ草花が芽吹き始める季節。


 どこにでもある日本の地方都市の住宅街。穏やかな一日の始まり。一棟の2階建てアパートの屋上に、白いワイシャツ姿の青年の姿があった。


 大人と呼ぶにはまだ少し幼く、黒髪と呼ぶには少しばかり色素の薄い茶色がかった髪。ワイシャツはズボンからだらしなく飛び出し、目元は長い前髪で隠れている。


 青年は屋上で慎重に歩を進め、屋上の端で立ち止まる。もう一歩は踏み出せない位置で、下を見ずに前だけを見つめ、一度大きく深呼吸をする。そして――――――


 ――踏み出してはいけない一歩を静かに踏み出した。


 重力に従い落下速度は速まる。瞬きも必要ないほど一瞬で、コンクリートに衝突する鈍い音が住宅街に響いた。


 青年の体は両足から落下し――――足の裏を地面に向けて着地。膝のクッションで衝撃を分散し、たくましい両脚と体幹で凄まじい衝撃にこらえる。


 姿勢を崩すことなく、スクワットの途中のような体勢で約2秒。響き渡った鈍い衝撃音が静まり、青年はため息をこぼす。


「はぁ、今日もダメだったかぁ…………」











   ――転生アニマル地方都市!!――











 世の中大半の人間は前世の記憶なんてものは持ち合わせていないだろう。だが、俺は違う。俺には前世の記憶がある。


 特に最後の記憶、命が終わる瞬間のことは鮮明に覚えている。


 目の前に広がるのは見慣れた絶景。眼下には白い雲が漂い、さらに下には海が遥か遠くに見える。上を見上げれば青みがかった宇宙が広がる。水平線は地上にいる時よりも湾曲して見える。俺は上空1万メートルを飛行していた。


 少し先には俺の母親、母鳥も一緒に飛んでいる。周りを見れば、他にも大勢の仲間たちが同じ目的地に向けて羽を広げていた。


 いつも通りの景色。いつも通りの日常――――でも、それは一瞬で終わりを迎える。


 突然、本当に急に、俺たちの目の前に巨大な飛行機が現れた。下から上がってきたのか、上から降りてきたのか、あるいは真正面から猛スピードで飛んできたのか。それすらわからないほど突然だった。


 そして――――目の前を飛んでいた母鳥が飛行機のエンジン、巨大なプロペラに巻き込まれる。


 一瞬で粉々になり、血と骨と肉と、母親のすべてがバラバラになってプロペラの奥に吸い込まれていく。


 そんな様を見て、恐怖に震える時間も、悲痛に嘆く隙も、絶望する余裕すらなかった。次は俺の番だったから。


 一瞬だけ痛みのような何かを感じ、目の前が真っ暗になり、それで終わった。俺の命は笑えるくらい呆気なく幕を閉じた。


 いわゆる「バードストライク」ってやつだ。鳥と飛行機が空中で衝突する。鳥は即死か、致命的な重傷を負う。飛行機は傷つき、最悪の場合はその傷が致命傷となって飛行困難となり、墜落して大勢の命を奪う大事故となる。誰も得をしない事故ってわけだ。


 特に飛行時間の長い渡り鳥はこのバードストライクに巻き込まれる危険性は高い――――そう、俺の前世は渡り鳥だ。


 そんな呆気なく死んだ渡り鳥の俺は今、なぜか人間に生まれ変わり、日本という平和な国で高校生をやっている。と言っても、高校生を名乗り始めてまだ久しい。なぜなら今日は4月8日。俺の高校の入学式開けの初登校だからだ。


 人間に生まれ、物心ついた頃には前世の記憶もよみがえっていた。そしてそのころから俺の中で、「空を飛びたい」という強い願望が膨れ上がっていった。あの大空に自分の翼を広げ、世界を俯瞰していたあの頃の自分に戻りたい。陸も海も国境も関係なく、社会も法律も上下関係もなく、世界を見下ろしていた自由だったあの頃に。


 アパートの屋上から飛び降りて、大空に身を投げうつあの頃の感覚を再現すれば、またいつか飛べるようになるような気がする。そうして気がつけばアパートの屋上から飛び降りるのが日常になってしまったが、未だに空を飛ぶことはおろか、飛べそうな感覚を掴めたことすら一度もない。


「――ってヤバい! 学校遅れる!!」


 今日は高校の初登校日。にもかかわらず俺はいつもの日課と物思いに勤しんで時間を忘れていた。


 いつも通り、学ランの袖を腰に巻き、白い髪留めで前髪をかき上げて留める。


 鞄を手に、アパートの駐車場を出ようとすると――――なにか違和感を覚えた。視線を感じる。


 違和感のある方に振り向くと、駐輪場の裏から顔だけ出し、こちらを覗いている男がいた。平日の朝から人を盗み見ているだけでも怪しいのに、あろうことかよく見ると鼻くそをほじっている。


 ――怖っ、不審者?


 俺はスマホを手に、警察に通報しようか迷った。しかしよく見ると体も駐輪場の陰から一部はみ出しており、俺と同じ高校の学ランを着ている。改めて顔を見てみると多少大人びているがまだ幼く、髪の毛はツンツンと逆立っている。


 目が合うと、男は気まずそうに目を逸らす。


 ――いや気まずいで済まされる怪しさじゃないんだけど…………


 不審者に自宅の場所までバレてしまって気味が悪いが、俺は学校に行くことを最優先にした。


 駐輪場まで走って行き、急いで自分の自転車を出し、アパートの駐車場から飛び出した。


 この時間から全速力で漕げばなんとか間に合いそうだ。初登校、初日から遅れたらさすがにマズい。


 自分の出せる最高速度で走ってわずか数分。俺が今日から通うことになる、「静川(しずかわ)県立三鳥(みとり)高等学校」に到着。自転車を駐輪場に停め、上履きに履き替え、校内の階段を駆け上がる。1年生の教室は2階だ。


 教室の前に着いた。出入り戸は開いており、時間はまだ余裕がある。俺は荒くなった呼吸を一度整え、教室に足を踏み入れた。


 意外と騒がしい室内。今日が高校初登校なのに、既に近くのクラスメイトと親しげにしている生徒も多い。同じ中学の人同士が多いのだろうか。


 俺は黒板の掲示を読み、自分の席に移動する。着席すると、


「おはよう翔来君」


 隣の女の子が声をかけてきた。長い黒髪を後頭部の下の方で一本に束ねており、シースルーバングの可愛らしい前髪の女の子。


「あ、おはよう八月一日(ほづみ)さん」


 俺は緊張しながらも挨拶を返した。


 彼女の名前は八月一日(あおい)。八月一日さんは俺の幼馴染であり、そして――――俺の初恋の相手だ。当然その恋は実ることなく、八月一日さんは俺の気持ちなんて知る由もない。


「翔来君と一緒のクラスになれて、しかも席も隣になれて嬉しいよ! 今日からよろしくね!」

「あ、うん……」


 俺は何か言おうと考えたけど、他の女子生徒が八月一日さんに話しかけ、彼女の視界から俺の存在はすぐに消えた。


 嬉しいなんて社交辞令で簡単に言ってくれるが、俺の八月一日さんに対する想いはそんな一言では言い表せない。


 昔は、幼い頃は違ったんだ。彼女と俺はもっと親しい間柄だったし、俺と彼女はいつも隣にいるような存在だった。気安く下の名前で「葵」と呼んでいたし、遠慮はなかった。


 それが小学校中学校と学年が上がるにつれ、俺たちの間には少しずつ埋まらない差が開き始めた。八月一日さんは明るくて上品で、クラスの高嶺の花に。俺は冴えないクラスのあぶれ者に。今では八月一日さんは遥か遠くの、もっと明るいところにいる。俺は暗い地の底からいつも彼女を見上げているんだ。例え隣の席になったとしても、それは変わらない。


 八月一日さんと隣の席になれて嬉しいという気持ちはあるが、それ以上に彼女と関わる際の精神的なプレッシャーや、いつも彼女を見上げてしまう故の自分に対する劣等感に苦しめられることが憂鬱だ。


 チャイムが鳴り、入学式の日に会った担任の先生が現れる。30過ぎの女の先生だ。


 中学生活はとても楽しかったなんて言えるようなものじゃなかった。高校生活はせめて、「つまらなくはない」と言えるくらいの3年間にしたい…………





 §





 今日の学校は授業はなく、クラスのオリエンテーションや学校案内、自己紹介や写真撮影があった。終礼を終え、昼過ぎ辺りで解放される。


 俺は寄り道する予定もなく、校門を出てそのまま帰路に就く。大量にもらった教科書や書類のせいで鞄はパンパンになり、足取りは重くなる。鞄の重さのせいで自転車に乗るとバランスを崩すので、それが嫌で自転車を押して歩いて帰る。


 今日半日でクラスメイトの雰囲気を体感したが、どこか毒々しいというか、あまり温厚な人たちには思えなくて息苦しい。周りの人間を冷たく観察し、誰か失敗した人がいたらそいつを笑いものにしてやろうという、そういう陰湿な空気を感じる。


 あんなところで友達ができる気がしない。自分から話しかけて拒絶されるのは怖いし、それにもし、俺の悪い噂なんかが広まっていたら…………という不安もある。


 鞄の重さが、この先3年間大丈夫だろうかという重くのしかかる不安を再現するかのように俺の体を押し潰す。


 桜並木が続く川沿いの堤防。桜の花びらが舞い、雲一つない晴天があまりにも俺の心情と対照的過ぎて、太陽すらも俺を見下しているみたいだ。


 そんな陰鬱な気持ちで歩いていると、


「助けて~!」

「助けてくれーッ!!」


 平穏な日本の日常では聞き馴染みのない、切羽詰まった男女の悲鳴が響く。男女の悲鳴は示し合わせたかのようにシンクロしていた。


 悲鳴のする方を見る。堤防の下、川で溺れる女性と…………さっきの鼻くそをほじっていた不審な高校生が一緒に溺れていた。


 豪雨で川の水が氾濫している日ならまだしも、こんな天気のいい日に穏やかな川で2人とも流されている。川幅だってそれほど広くない。


「おーい! そこの奴! こっち来てくれ!!」


 見つかってしまった。例の不審者に。


 呼ばれてしまってはしょうがない。坂になっている堤防を下りて、川沿いの2人のもとに近づく。


 女性も俺の存在に気づき、瞳孔を開いた必死の形相で、


「たっ、助けてくださいッ!!」

「えぇ…………どういう状況……?」


 あまりの女性の必死さに、俺は面食らって思わず呟いてしまった。よく見ると例の不審な高校生は溺れながらもまた鼻くそをほじっている。


 女性が甲高い声で叫んだ。


「私妊婦です! お腹の中にまだ子供もいるんですッ! 今の私の命は実質2人分ですよ!?」


 不審な高校生も張り合うように声を荒らげた。


「俺だって未来ある優秀な若者なんだ! さあ! お前はどっちを助けるんだ!? 選べ!!」


pixivにキャライラスト上げてます

→https://www.pixiv.net/users/73175331/illustrations/%E8%BB%A2%E7%94%9F%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%9E%E3%83%AB%E5%9C%B0%E6%96%B9%E9%83%BD%E5%B8%82!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ