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王子様だと知らずに、恋をしました *一夜を共にした相手が既婚者だと知った公爵令嬢の話*  作者: HARUHANA


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13/28

13.ブレスレット

 今日、漸くこのドレスの袖を通すことが出来る。

 贈られたドレスには、メッセージが添えられてた。


 “君への想いをドレスに託そう“


 受け取った時は、あまりに嬉しくてソフィと喜んだけど……冷静に考えれば、真っ当ではない。王位もしくは上位貴族だけが着ることを許されるロイヤルブルーを、本当に私が着て良いのか……ドレスを見るたびに苦しくなったりもした。

 だけど、ノエル様が『隣で見届けましょう』と言って下さった。


 今日で最後……これで本当に、最後にするわ。


「お嬢様、準備を始めましょう」


 ソフィと他に数名のメイドに囲まれて、自分じゃない自分が仕上がっていく。身体も磨かれ、特別な時につける宝飾、そして……特別なドレス。

 一緒に採寸した訳でもないのに、ピッタリと合うそれに胸が痛くなる。


「とてもお似合いです。ノエル様がエントランスでお待ちだそうです」

「そう……行きましょう」


 ちゃんと、ノエル様の隣で笑えるかしら。

 ちゃんと、ノエル様の隣で区切りを付けられるかしら。


 螺旋状の階段を降りる途中、こちらを見上げるノエル様と視線がぶつかった。微笑むでもなく、無表情とも言えない顔で見上げたまま静止してる。

 どこか変……だったのか、それともアレクのドレスを着た私に失望した……のかもしれない。そんなことは……覚悟の上だったけれど。


「お待たせしました、ノエル様」

「待ってなど……いません。とても、綺麗です」

「ありがとうございます」


 両親に挨拶をして、ノエル様の腕に手を掛けた。

 馬車に乗り込んで暫くは沈黙が続いたけれど、ふとノエル様が胸元から小さな箱を取り出した。

 

「こんなものを出して、貴女にどう思われるか分かりませんが……宜しければ、こちらを」


 中からは、ドレスと同じ色合いのブレスレット――


「ノエル様、これ……」

「これは僕から卒業のお祝いに用意しました。今日の装いに合うと思います」

「綺麗……ですね」

「付けて頂けるなら、手を……こちらへ」


 ソフィは何か知ってたのかもしれない。だって、予め用意してたはずのアクセサリーの中からブレスレットだけ無かったから。本当に綺麗だと思ったから、少し控えめに手を差し出した。


「――出来ました。うん、やっぱり見立ては間違ってなかったですね」

「ありがとう……ございます」


 手首を何度も回しながら煌めきを楽しんだ。

 不思議なほど、心が落ち着いた気がする。まるで、お守りみたい。


「今日は、僕の側から離れないと約束して下さい。何もない、とは思いますが、念のためです」

「分かっています。ノエル様の隣で、儚く散ると約束したでしょう?」

「そう、でしたね。何か困ったことがあれば、すぐ声を掛けてください」

「はい」


 会場となるホール前に到着し、ノエル様のエスコートで馬車を降りた。

 遅く来たつもりもないけど、周囲にはあまり人もおらず、ホールから賑やかな声だけが聞こえてくる。この扉を開ければ――


「心の準備は宜しいですか?」

「……はい。大丈夫です」

「では、参りましょう」


 ドアマン二人が、揃って大きな扉を開けた。

 眩い光が溢れ、シャンデリアの煌めきを浴びながら、中央に敷かれたレッドカーペットをノエル様の腕を取りながら進んでいく。


「まぁ……エリアナ様のドレス素敵……」

「エリアナ様の隣の方って、ノエル・ランドアーク様!?」

「学園を首席で卒業された外交官が、なんでエリアナ様と――」

「それにしても、お似合いね。羨ましい〜」


 周囲の騒めきが、嫌でも聞こえてくる。

 歩く度にユラッと揺れる裾、方々の光を煌きに変える散りばめられた宝石の粒に、注目されないわけがない。

 そのまま前方まで歩いていくと、目の前のアレクがこちらに向かって手招きしているのが見える。リードしてるノエル様にも勿論見えてる。だから、ゆっくり私のペースに合わせて王太子夫妻の方へ向かい始めた。


「ご挨拶申し上げます。アレクシス王太子殿下、マグノリア妃殿下」

「エリアナ嬢、卒業おめでとう」

「……おめでとう。とても……素敵なドレスね」


 微笑んだ妃殿下の表情に、ほんの少し圧を感じた……気がする。なんだか、目の奥が笑ってないような――


「うん。とても良く似合っているね。今日のパーティを、存分に楽しんで」

「はい……ありがとうございます」


 アレクは、不気味なくらい、ノエル様を見ない。

「行こうか」そう言ってくれたおかげで、その場を後に出来た。けれど、視線はノエル様に向いても……どうしても心はアレクを追ってしまう。


「大丈夫?」

「……ダメですね。どうしても目の前にすると、心が揺れます。情けないですよね……」

「そんなことはありません。学友と思い出話をするも良し、僕と……ダンスをするのも良し」

「ふふっ、ノエル様はダンスが得意なのですか?」

「これでも貴族の端くれですからね。貴女をリード出来るくらいには。試して、みますか?」

「……そうですね。試して差し上げます」


 顔を見合わせてクスッと笑い合う。こんな時間、アレクとは決して無かった。ダンスだって、アレクとは踊ったことがない。比べられないのが、唯一の救いかもしれない、と思ったりもする。


 優雅に奏でられる音に合わせて、広く開けられたホールの中央に、幾つものカップルが並び始めた。私の腰を支え、手を取合い、ステップを踏んで流れるよに身を委ねる。目線の高さに見えるブレスレットが、また一層輝いて見えた。


「近い、ですね」


 やっぱり異性と近いのは、いつだって緊張する。


「でも、楽しいですね」


 宣言通り、リードしてくれるノエル様が笑いながら、そう言った。


「エリアナ嬢、今は僕を見てて下さい」

「え……」

「殿下は、完全に僕に敵意を向けています。貴女は、見なくていい」

「分かりました」


 でも……優雅にターンすれば、どうしても視線がズレてしまう。僕を見ててください、と言ってくれたのに……目に入ってしまったアレクの表情は、今まで一番、怖かった。

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