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俺は、お前を主人公にしたい  作者: サドル ヤスリ


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第二十二話

「真理!今日は西の海岸で釣りしようよ!」


「あの岩場かあ。お目が高いね」


「そこで、どっちが多く釣れるか対決ね!」


江戸が島に帰ってきてから、一週間が過ぎていた。


その間も、救助が来ることはなかった。


「ごめんね、二人とも。僕も行けたらいいんだけど」


「大丈夫だよ。お前は医者の息子なんだから、みんなを見ていてくれ」


海では、今も怪物が現れる。


俺が島を離れれば、守り切れない場面も出てくるだろう。


「それと、しん兄」


「どうした?」


「テレビで、強い能力者に救助活動への協力を要請してたんだ」


「そうか」


「しん兄が、もし行きたかったら……」


明人の頭に手を置く。


まだ高校生なのに、立派なものだ。


「行かないから安心しろ。俺がここを離れるわけにいかねえよ」


「……うん」


近いうち、国が能力者を集めた部隊を作るらしい。


だが、俺には関係のない話だった。


定期報告を終え、日夏と海へ向かう。


「明人君、ちょっと元気なかったね」


「無理もねえよ」


明人は空いた時間、ずっとテレビを見ている。


流れてくるのは、救助情報と啓示についての憶測ばかりだろう。


この島は本土から離れている。


怪物の影響で、救助の目処は立っていない。


そして――


雨が降れば、怪物が陸に上がる。


この一週間、雨は降っていない。


だが、それがいつまで続くかは分からない。


「俺が、みんなを運んでいければいいんだけどな」


「それはもう言わないって言ったでしょ」


「……そうだったな」


「きっと、すぐに救助が来るよ」


口には出せなかった。


このままでもいいんじゃないか。


そんなことを考えている自分がいる。


日夏とこの島で、静かに暮らす。


テレビの向こうの悲鳴から目を逸らして、ここだけを守る。


そんな生き方でもいいんじゃないか、と。


「さて。今日も俺の方が多く釣ったるで」


「昨日は一匹差だもん。今日こそ勝つから!」


二人で岩場に立つ。


「せーの!」


同時に糸を垂らした。


そのとき。


沖に黒い影が浮かび上がる。


「日夏! 怪物だ、離れてろ!」


ナイフを抜く。


そのまま振り抜いた。


刃は何にも触れず、空を切る。


(『怒る子、花火の病に罹る』)


空気を裂く斬撃が走った。


小型の怪物が真っ二つになり、そのまま海へ沈む。


この一週間、いろいろ試した。


どうやら威力を上げるだけなら、この一文を繰り返すのが一番いいらしい。


「ありがと!」


「ああ。怪我はないか?」


「へーきへーき」


この一週間、俺は能力についても調べ続けていた。


日夏が嫌がるので、検証するのはこいつがいない時間だけだ。


「そういや日夏。俺の能力の正体、分かったぞ」


「もー、また危ないことしてないよね?」


「してないって」


以前、検証中に盛大に爆発して以来、やたら心配されるようになった。


「やっぱり、俺の能力は酸素だった」


「へえー」


「空気中の酸素を操れる」


「ふーん」


「それだけじゃなくて、自分で作り出すこともできるみたいだ」


「ほーん」


興味がないらしい。


「結構すごいだろ」


「どうでもいんだもん」


日夏は釣りを再開した。


「真理は、どこかに行っちゃうの?」


不意に言われ、手が止まる。


「行かないよ」


「そっか」


日夏が少しだけ笑った。


「なんだよ急に。さっきの話か?」


「別に、そういうわけじゃないけど」


俺も腰を下ろし、糸を垂らす。


「俺が世界のために戦うような奴に見えるか?」


「違うの?」


「違うよ」


浮きを眺める。


「俺は、この手が届く範囲を守れれば、それでいい」


それが、本音だった。


浮きの周りに、小さな波紋が広がる。


ぴくりと揺れた。


沈む。


まだだ。


もう少し――


そのとき。


ドォン――!


はるか後ろから、爆発音が響いた。


遅れて、地面が低く揺れる。


驚いた海鳥が、一斉に空へ飛び立った。


俺と日夏は、同時に振り返る。


「……何だ、今の」

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