第一話
「ったく、何度言えば分かるんだよ」
「そんなムキになるなよ、江戸」
隣から、低い声が飛んでくる。
「いいか。もう一回だけ言うぞ」
誰かが手を挙げた。
「エドマリー!」
「誰がエドマリだ」
「早く稽古してくれよー」
「だーめだ。稽古は、技名をちゃんと決めてからだ」
ぶすくれる声が聞こえる。
ったく、こいつらは。
えっと、誰だっけ。
「じゃあ、師匠はどんな必殺技名があるんですか?」
目を輝かせて聞いてくる。
「聞いて驚くなよ」
俺は、とっておきの技名を披露する。
「真理はガキすぎる。そんなの叫ぶのは漫画の中だけだ」
全く何も分かってないな。
「いや、副団長のことだ。きっと、意味があるんですよね!なんかこう、叫ぶと力がこもって、より攻撃が強くなるとか」
俺はため息をついて、頭をかいた。
「はあ、お前らは何も分かってない」
全員の顔を見渡す。
「良く聞けよ」
「俺が、技名を叫ぶのは――――」
ズキン。
「イたああああ!」
突然の頭痛で目が覚める。
頭が割れそうな痛みに身をよじらせる。
「なにこれえ、ちょー痛いんですけどー!」
永遠に続くかのような痛みは、ほどなくして収まった。
「まさか……失われた過去の記憶が——」
……んなわけあるか。
俺にそんなカッコいい過去はない。
眠い眼をこすりあげると、狭いワンルームに文字が浮かび上がっていた。
「あー、やばい。アニメの見過ぎで、頭がおかしくなってる。十二、、、位階、、新書?こんなアニメあったけ?」
昨日見たアニメの内容を思い出す。
すると、体を包む違和感に気づく。
その違和感は、生まれた時から持っていたように、体に馴染んでいた。
手を伸ばすと、思考に反応するように、それは露わになった。
「なんだこれ」
手のひらで、風が渦を巻いていた。
「なんじゃ、こりゃ」
不思議なことに、自然と扱える。
「おー」
渦を揉んでみると、以外と悪くない。
一応、頬をつねってみる。
「いてっ」
どうやら夢ではないらしい。
「嘘だろ。俺の超能力使ってみたい欲が、実った感じ、でもなさそうだ」
カーテンを開ける。
早朝の5時だというのに、向かいのマンションにはいくつも明かりがついていた。
「……俺だけじゃないのか」
「はあ、まあ、普通に考えるなら原因はこれだろうな」
改めて、目の前に浮かんでいる文字を読み上げる。
――『十二位階神書』
『終読者が選ばれた。世界は終読者によって滅ぼされる。
1 赤の星は運命に従う
2 夜明けの地、人の真似をした獣に喰われる
3 怒る子、花火の病に罹る
4 高波近く、足跡埋まる』
「…………」
なんだこれ。
『5 天の蛍火、地を照らす
6 竜の風が光奪い去る
7 骸に肉、世に着く
8 雷を放つ鯨』
なにかの予言なのだろうか。
『9 怠惰に、銀の海満ち
10 堕ちた月が、罪禍と化す
11 優しき王、消える日を見る
12 不滅の命、進化をもたらし、転づる』
「なんだこの中二くせえ文章は」
まあ、嫌いじゃないが。
「ようは、終読者ってやつがハピバしたから、神書が出されて、悪魔の実もらえちゃいましたってことだろ」
「やば。そもそも、終読者ってのはなんなん。プロローグが雑すぎだろ」
もう一度、手のひらを見る。
意識を向けると、風が小さく渦を巻いた。
「……マジなんだよな」
夢じゃない。
目の前にある神書も、この力も。
何かが、大きく変わろうとしている。
怖くないと言ったら、嘘になる。
それでも、胸の奥が妙に高鳴っていた。
物語が始まる予感がした。




