接触 ②
【闇堕ち少女、怨霊と化す!】
憎悪の炎は死んでも消えない!
呪い系バッドエンドサイコホラー。
恭弥はマコとともに店内に入ると、ウェイトレスに頼んで本田奈央たちの隣の席に座った。恭弥は彼女の友人と背中合わせで座る形となった。
耳を澄ますと、本田奈央たちの会話が背中越しにはっきりと聞こえてきた。絶好の位置を確保できたようだ。
ドリンクバーを注文し、恭弥はマコが持ってきたコーラを飲みながら窓際の席にいる山内に目をやった。緊張した様子で彼はドリンクを握りしめている。
「山内のやつ、だいぶ緊張してるな」
「だいじょぶかな?」
マコが心配げな声を漏らす。
「かえって緊張してるくらいのほうが相手も動揺するさ」
依然背後からは、本田奈央たちの楽しげな会話が響いてくる。しばらく席を立つ気配はない。山内が心の準備を整える時間は充分にありそうだ。
恭弥たちが店に入ってから二十分ほどが過ぎた。そろそろいいだろうと判断して、恭弥は山内にLINEを送った。すぐに「既読」がつく。
山内に目を向けると、どうやら心の準備ができていたようで、彼はすぐにレシートを持って立ち上がると、恭弥とマコがいる席を通過し、迷うことなく本田奈央たちのいる席の前で足を止めた。
恭弥は背後に意識を向けるが、山内の緊張が伝播したのか、目の前に座るマコの顔がこわばっていた。彼女は目を伏せ、意識して山内を見ないようにしている。
「——あの?」
山内の声が背後から聞こえてきた。明らかに震えている。
「すみません、ちょっといいですか」
本田奈央たちの会話がぴたりと止む。見知らぬ男に突然声をかけられたのだから当然の反応だろう。
山内が声を震わせながら続けた。
「……最近、おかしなこと、起きてませんか?」
「え!?」
本田奈央の驚いた声が響いた。
その反応に恭弥は内心でほくそ笑む。夜中の仕掛けがしっかり効いているようだ。
「やっぱり、何かあるんですね?」
山内が力強い声で畳みかける。本田奈央の反応が、彼に自信を与えたようだ。主導権を握りつつある。
しかしここで、本田奈央の友人の声が割って入ってきた。
「ちょっとこれ、何なんです!?」
非難めいた口調に、山内がたじろいだのがわかった。背後から彼の気弱な声が聞こえてくる。
「す、すみませんでした、いきなり変なこと言って……。実は、ちょっとぼく、人よりも霊感が強くて……」
〝霊感〟という言葉が放たれた瞬間、背後の空気がピリッと張り詰めた。
その変化を察したのか、山内は再び自信を取り戻したようだ。再び力のこもった声が背後から聞こえてきた。
「よかったら、ぼくの話、聞いてもらえませんか」
「あ、はい……。じゃあ少しなら……」
「え、奈央、話聞くの?」
「うん、ちょっとだけなら」
「でも、知らない人なんでしょ?」
「そうだけど、悪い人には見えないし」
「……まあ、確かにそうだけど」
山内は彼女たちの席に座ることに成功したようだ。目の前に座るマコが、小さくうなずきながら親指を立てて見せる。
やがて、背後から山内の声が再び聞こえてきた。
「あの、怖がらせるつもりはないんですが、落ち着いて聞いてください」
「は、はい……」
「あなたには、命に関わるほどの〝霊障〟が見えます」
「レイショウ?」
「霊による障害と書いて、〝霊障〟です」
「そんな……」
恭弥は口元を歪める。本田奈央の動揺が背中越しにひしひしと伝わってくる。
「……命に関わるって。奈央、何か心当たることあるの?」
友人が心配そうに聞くが、本田奈央は黙ったままだ。
声が短い沈黙を破ったのは山内の声だ。
「近いうちに一度、お祓いとか受けたほうがいいですよ。そのまま放っておくと、取り返しのつかないことになるかもしれない」
山内は、恭弥が用意した台本通りに喋っている。
「あの……。あなたが祓ったりとかはできないんですか?」
本田奈央の友人が遠慮がちにたずねる。
この予想された質問にも、山内は台本通りに答える。
「すみません、……ぼくはただ、視えるだけで。たとえるなら、お化けは見れても退治はできないって感じなんです」
「そうなんですか……」
「さっき店を出ようとしたとき、あなたから強い悪意を感じて、それで声をかけたんです」
「はあ……」
本田奈央の気のない返事が聞こえてくる。
「ちなみに、知り合いに祓える人っていないんですか?」
本田奈央の友人から、望んでいた質問が飛び出した。
山内は少し間を置き、もったいぶるような感じで答えた。
「一人……います。その人なら、視えるだけでなく祓うこともできます」
「なら奈央、紹介してもらったら?」
「あ、そうだね。……あの、いいですか?」
「ええ、いいですよ。彼の連絡先を教えますので、よかったら直接連絡してみてください」
山内は打ち合わせ通り、佐藤が演じる偽霊能者の連絡先を本田奈央に伝えた。
すぐにでも本田奈央が佐藤に連絡することを期待したが、彼女の心までは操れない。ここから先の展開は未知数だ。
その後短い会話を交わしたあと、山内は本田奈央たちの席を離れて店を出ていった。彼とはあとで合流する予定だ。
背後から、本田奈央の友人の声が聞こえてきた。
「ねえ、奈央。なんかやばいこと、起こってるの?」
「うーん、やばいってほどじゃないけど、……ただ最近ちょっとおかしなことがあって」
「おかしなことって?」
「実はね——」
本田奈央は最近の不可解な現象について友人に話し始めた。
説明を聞き終えたとたん、友人は高い声を上げた。
「それ、ガチでやばいじゃん! ……それが一週間も続いてるんだよね?」
「うん……」
「だったら、さっきの人が言ってたみたいに、専門家に相談したほうがいいって」
「そうだよね」
「絶対そうだって。だってさっきの人、命の危険があるかもって言ってたじゃん」
「うん、そう言ってたね」
「もう〜、なんだか他人事だなぁ。もっと真剣に考えなよ!」
「だよね」
「もしあれだったら、例のバーテンダーに連絡してみない?」
「え、今から?」
「うん、こういうのは早いほうがいいって。……あれ? 気乗りしない感じ?」
「だって、そんな簡単に信用していいのかなって」
「そうだけど、実際にあんたに起こってることをドンピシャで言い当てたわけじゃん? それに親切心で教えてくれたわけだし、疑う理由なんてなくない?」
「まあ、そうかもだけど……」
「じゃあさ、こうしようよ。今からネットで探して、別の霊能者に視てもらうの。これならどう?」
「そうだね。まだ時間あるし、行ってみようか」
恭弥は落胆した。すぐにでも佐藤演じる偽霊能者に連絡を取ることを期待していたからだ。
彼女たちが店を出ると、恭弥は苦笑しながら口を開いた。
「思い通りにはいかないもんだね」
「だいじょうぶかな?」
マコが不安そうに声を漏らす。
「だいじょうぶであってほしいけど……。とりあえず、様子見だね」
「でもさ、最初から佐藤さんを登場させたほうがよかったんじゃない?」
「いや、この作戦の肝は、向こうから連絡をさせることなんだ。要は、壺をこっちから売りつけるんじゃなくて、向こうから買いたいって思わせるのがポイントなんだよ」
「なるほど」
「でも、心配ないよ。今の状況が続けば、きっと藁にもすがる思いで連絡してくるはずさ」
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