番外・生き返った皇子、大罪を負う(11)
どうにかフィーネも無事で、辺境伯達の説得にも成功した。
自分の子供達の事はあれど貴族で領主だ。モデラートがまともな国で背後に神殿がいなければ、こう簡単には頷かなかっただろう。
ようやく全て片付いた。早くフィーネとイチャイチャしたい。
さっさと部屋を出ようとしたら、最後の最後で邪魔が入った。
『いやっ! いやぁ! フェローッ!!』
『大丈夫だ、フィーネ。──私は死なない』
とはいえわざと傷を負う趣味もない。気を失ってしまったフィーネを抱き上げたまま宙返りをして避け、その背中を蹴り上げる。倒れたところで手から剣を弾き飛ばし、改めて背中を踏みつけた。
つくづく愚かな男だ。こんな事をしてもフェローとフィーネの逆鱗に触れただけだというのに。
『……さっさと婚約破棄して追放すればよかったものを』
そうすれば一年前には神殿が保護出来ていた。末の天使の一件が片付くまで、フェローが彼女と会う事を禁じられていたとしても、フィーネが一年も苦しむことはなかった。
前の二人は入学後、三ヶ月ほどで婚約破棄されている。それなのにフィーネは一年と三ヶ月。協力者である皇太子の反感を買えば、切り捨てられる可能性もあった。
なぜ婚約破棄を渋っていたのか。その理由など、フェローは当に見抜いている。
──フィーネは天使の頃から、無意識の内に繁殖の力を反転して使用している。
あれほど男を誘う容姿をしているのに、色気を全く感じないアンバランスさ。女好きのスケルツァンドが食指を伸ばさなかったのも、クソ皇太子が用意した男達が逃げ出したのも、彼女の自己防衛によるものだ。
下半身に脳がある人間ほど、フィーネが奇異な存在に見えるらしい。フェローとしては有り難い。でなければ彼女を閉じ込めるか、世界中の男を殺して回ろうとしただろう。
とはいえ、油断は出来ない。彼女の能力が効かない男も一定数存在する。
正確には効いているが、それでも手を伸ばそうとするのだ──フェローのように彼女自身に惹かれた男は。
今までの罪を悔い改め、彼女を純粋に愛していたなら、フェローは彼に頭を下げて婚約白紙を願い出ただろう。フィーネを譲る以外の条件なら何でものむつもりだった。
しかしこの男は罪を告白することもなく、皇太子から彼女を守り通すこともなく、彼女へ素直に愛も告げずに手を上げようとした。クズは最後までクズのまま死にたいらしい。
皇太子も、どうやらフィーネの傷を強引に開いたようだ。予兆は既にあったとはいえ、フェローがいない場所で思い出して、どれほど恐ろしかったか。
フェローは決して許さない。元婚約者も、皇太子も。
フィーネを思い出せなくなる程に心を壊してから殺してやる。
『連れていけ』
『ッ婚約したのは俺の方が先だったのに!』
『会ったのは私が先だ。──五百年遅いんだよ、小僧』
突拍子のない年数にポカンとした顔をしていたが、すぐに冗談だと思ったのか、暴れながらも連行されていった。ついでに皇太子も護衛ごと追い出してもらい、観客として呼んだ貴族達も帰らせる。
夜まで待ちたくないので舞踏会は昼にしたが、お陰で噂は今日中に広まるだろう。後はその動向を見ていればいい。
ため息を吐くと、連行に付き合ったハルモニが戻ってきた。
『ガキ相手にみっともねぇジジイだな』
『……うるさい。お前は身体が鈍りすぎだ。怪我が治ったら鍛え直してやる』
『うげ、』
『フェロー様』
今世のフィーネの両親に声をかけられる。遥かに年上で一応上司ではあるが、義父にそう呼ばれるのは居たたまれない。
会う度に止めてほしいと頼んだが、全く聞き入れてもらえなかった。流石に嫌がらせではないと思いたい。
『着替えてくるので、彼女を頼みます。辺境伯への説得、ありがとうございました』
『いえ、こちらこそフィーネを助けていただき、有り難うございます。これで心置きなく領地の発展に努められます』
『髪とメイクも乱れているので手直ししますね。手当ても、一応他の怪我もないか確認しておきますが……ご自分でされますか?』
『……いえ、お願いします。その、本当に……結婚式まで待ちますので』
子孫なのでフェロー達の結婚式が遅れた理由も知っているし、神の義父からも色々聞いてはいるのだろう。気遣うような視線が居たたまれない。
義父にフィーネを預け、涙で濡れた彼女の頬を指で優しく拭った。




