番外・生き返った皇子、大罪を負う(4)
自分の「遺体」の処理は実に簡単だった。
元々、姦悪皇子は死ぬ予定だったのだ。生きていようが本当に死んでいようが関係ない。
同じ場所で横たわり、時を戻すと同時に事前に指示しておいた者達に運ばせ、医者に診断書を捏造させて速やかに埋葬してもらった。予想通り、告別式は行われなかった。
その間もずっとあの男は半狂乱で喚き散らすばかりだったが、周囲は弟を殺したショックで錯乱しているのだと同情的だった。この様子では帝国が傾くまで──いや、傾いても真相には辿り着かないだろう。
その後、皇太子は全てから逃れるように女性へ手を伸ばしたが、不能になった事で完全に精神を病んでしまった。
婚約者のテヌートは、なぜかその責任を取るために毒杯を飲まされた。口を付ける前にすでに狂っていたようなので、おそらく真実を知らされたのだろう。自分が抱かれていた相手が誰で、自分が殺した相手が誰だったのか。
やはり皇帝と皇妃は、皇子の入れ替わりに気付いていたのだろう。
黙認していた理由は分からないが、皇太子を止めなかったのは事実だ。どんな理由があろうとも、フェローは彼らを決して許さない。
埋葬される寸前に棺桶から抜け出し、代わりに用意されていた浮浪者の骨を入れた。
そしてフィーネを連れ、天使の一族の手を借りながら国外へと脱出した。
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『フェロー? どこにいるの?』
『……ここだよ、お姫様』
それから一年。
帝国からかなり離れた国・パストラル。かつて彼女の姉とその配偶者が築いた国で、二人は幸せに暮らしていた。
学園のモクレンの木から分けてもらった種は、彼女の力もあって瞬く間に成長した。その木の下で、フェローは本を読んでいる。
帝国が落ち着いた頃にでも、あのモクレンは他の場所へ移すつもりだ。彼女の友人を一人であのままにはしておけない。
『もう、一人にするなんて酷いわ』
『寝かしつけているところを邪魔したくなかったんだよ。……眠ったのかい?』
『ええ。今は見てもらっているから大丈夫』
ようやくフェローを見つけたフィーネは、頬を膨らませて抱きついてくる。二児の母になった彼女は、変わらず可憐で愛らしい。
義父は能力を自覚したと言っていたが、幸いにもその辺りの記憶はうやむやになっているようだ。おそらく罪悪感に苛まれないよう、自己防衛が働いているのだろう。帝国の噂が耳に入らないように遠くまで来たが、不要な心配だったようだ。
義父に言われた通り、落ち着いた頃に天臨祭を迎える前にフィーネと契った。
子供が出来やすいと言われていたので気を付けていたつもりだが、彼女はすぐに身籠った。しかも双子だ。
流石に妊娠中に結婚式をするわけにもいかず、来年へ持ち越しになった。
『ふふ。なんだかこういうの久しぶりね』
『ずっと一緒にいるだろう?』
『子供達がいるじゃない。私のことも構ってほしいわ』
『……それは私の台詞じゃないか?』
彼女から香るモクレンに似た匂いは、酷く甘い。契って以降、強くなっている気がする。
惹かれるように唇を重ねる。そのまま腰を引き寄せ、更に深めていく。
『ん……フェロー……こ、ここでするの?』
『!??!!?』
引き止められて我に返れば、彼女を押し倒して服を剥がそうとしている最中だった。
慌ててフィーネを起こし、乱れた服を整える。彼女の火照った顔に、たまらず目を背けた。
『? しないの?』
『……しない。また子供が出来たら延期しないといけないだろう?』
『出来るか分からないじゃない。子供は授かりものだってお隣さんも言っていたわ』
『義父君が言っていただろう。君は出来やす、い……と……』
ふと、フィーネと契ったばかりの頃を思い出す。あの頃も、気が付けばフィーネをベッドに連れ込んでいた。
今までそういう事に無縁で、あの男同様に性欲が強いのだとばかり思っていたが、彼女が妊娠している間は落ち着いていた。
そして無事に子供が生まれた今、また同じような事を繰り返そうとしている。
フィーネの能力は繁殖。
彼女に呪われた男が不能になったのなら、彼女に愛される男は──
《結婚式は……まあ、そちらの都合に任せるよ。大変だろうけど、まあ、頑張りなさい》
義父の言葉が頭を過る。
あの含みの意味を、フェローはようやく理解した。
『フェロー?』
フィーネが顔を覗きこんでくる。金色の、フェローと同じ色になったはずなのに惹き付けてやまない瞳。先程散々味わった、ぽてりとした唇。紅潮が消えぬ頬。
妊娠と出産を経て更に大きくなった二つの膨らみは、直接触れると更に柔らかいことを当にフェローは知っている。それだけじゃない。彼女の身体など、本人よりも知り尽くしていた。
彼女の香りが鼻孔を擽る。
ごくり、と喉を鳴らした。
『…………こ、』
『こ?』
『子供は、作らない。来年は絶対に結婚式を挙げる。いいね?』
『ふふ、出来たらまた持ち越しね?』
『頼むから作らないと言ってくれ……!』
そう言い伏せたものの、結局、危惧していたことは現実になった。今度は三つ子だ。
フィーネの能力は祖先から伝わっているだろうが、一族たちの目はこの辺りから生暖かいものへと変わっていった。弁明したい気持ちに駆られたが、フィーネの誘惑に負けているのは紛れもない事実で、子供達の面倒を手伝ってもらっている手前、なにも言えない。
フェローは必死に手を尽くした。しかし、ことごとく全敗した。
古今東西から性欲を抑える薬や避妊薬を取り寄せて自分で試したが、フィーネの力の前では全く意味もなく。逆に飽きるほどすればフィーネもウンザリするだろうと思ったら、完全に逆効果だった。あの時の自分を殴れるなら殴ってやりたい。
そんなこんなで十年。
流石にこれ以上はフィーネの身体も心配だ。一族の目も突き刺さるように痛い。
頭を抱えたフェローの前に、救いの白鳩──義父が現れた。
『よく効く避妊薬だと言って水を飲ませなさい。もう自己暗示に頼るしかない』
お陰でようやく結婚式を迎えられた。
たくさんの子供達に会えて義父は喜んでくれたが、とても目を合わせられなかった。




