番外・生き返った皇子、大罪を負う(1)
本編で語られなかった部分をフェロー視点で明かしていきます。
繁殖の能力が出てくるので、ざまぁで相手が不能になったり、子作り関係の話が多めです。
直接的な表現は控えてますが、苦手な方はお戻りください。
かつての自分は愚かだった。
彼女からあれほど与えてもらっておいて、自分のものを失う勇気と覚悟がなかった。
『フェローチェ=ジョア=アンダンティー! 貴様は私に成り済まし、とある女性徒と親密な関係になり、その名誉を著しく傷付けようとした! テヌートの時にあれほど温情をかけてやったというのに……!』
『………』
『何とか言ったらどうなんだ、フェローチェ!』
学園の卒業パーティ。兄が言っていた、姦悪皇子を殺す茶番の舞台。
壇上には兄とその婚約者。その視線の先で、フェローは仮面をつけて跪いていた。
兄の手には鈍く光る剣が握られている。一見では分からないが刃はつぶしてあり、斬られたふりをした瞬間、フェローの服に仕込まれた血糊の袋が破けるという算段だ。
陳腐な計画だがバレる事はないだろう。妙だと思ったところで、姦悪皇子を生かす理由までは誰も辿り着かない。
『ッ皇家の名を汚し続けるお前を、これ以上生かす事は出来ない! 父上からは既に許可は得ている! 私にとっては愛しい弟だが──許せ!』
そう言って剣が振り下ろされた瞬間、焼けつくような熱と痛みを感じた。何が起こったか分からず、為す術なく倒れこむ。
かすれ始めた視界に入ったのは、恐怖で顔を歪ませた兄と、血で赤く染まった剣。
『な……んだこれは……っ』
『……?』
『誰だ剣をすり替えたのは!?』
──そうか。斬られたのか、俺は。
兄がフェローを殺すはずがないと確信していたからこそ、完全に油断していた。
姦悪皇子は手当たり次第に女性を手をつけ、相当の恨みを買っている。この機会を逃すはずがなかった。
兄の後ろにいたかつての婚約者が、ニコリと笑って前へ出る。
『私ですわ、殿下』
『テヌート……!?』
『だって殿下、おっしゃっていたじゃありませんか。皇家のために殺すべきだが、彼は血を分けた弟だからと。私も、自分の侍女をこの獣に食い散らかされるのはウンザリなのです。だから──きゃあ!?』
『余計な事をしやがってッ! 帝国を潰す気か、この雌豚が!!』
『で、殿下……?』
『医者を! 医者を呼べ、早くッ!!』
もはやフェローを失う恐怖で、皇太子の仮面は完全に剥げていた。腕にすり寄ったテヌートを振り払い、殺した相手を必死に助けようとする。周囲はただただ困惑し、身動きが取れずにいた。
しかし学園に保険医はいるが、ここまでの深手を治療する道具も設備もない。仮に用意出来たところで、もう──助からない。
床に血が広がるにつれ、どんどん身体が冷たくなっていくのが分かる。
死んでしまうのか。こんなところで──彼女を置いて。
必ず迎えに行くと、約束したのに。
『…………フェロー?』
走馬灯なのか、彼女の声がする。
こんな自分を愛してくれた、かけがえのない光。
『フェロー……返事をして。全部……演技、なんでしょう?』
頭を持ち上げて仮面を外され、彼女が覗きこんでくる。薄い金に染まった髪と瞳、温もりと、ふわりと香るモクレンの匂いに混じる雨の気配。
──まさか、本物なのか。フェローを心配して、約束を破って帝国に戻ってきてしまったのか。
自分の死ぬ事よりも深い恐怖と後悔に塗りつぶされる。
ここに居てはいけない。逃げろ。そういくら叫んでも、自分の喉は何も発しない。発したところで、きっと彼女は自分を置いてどこにも行けない。
彼女の瞳が絶望に染まっていく様を、ただ見ていることしか出来ないなんて。
こんなことなら、全てを投げ捨ててしまえばよかった。
なによりも大事な彼女を深く傷付けてまで、守るものに一体何の価値がある?
『お前は──フィーネ! そうだ、お前の奇跡でフェローチェを助けてくれ! さあ!』
兄が彼女に気付き、その肩を掴む。やめろ、汚い手で彼女に触れるな。何も出来ない自分が一番憎くてたまらない。
彼女を守らなければならないのに、もう、目も開けていられない。
『ゃ……いやっ! フェロー!』
『早く!』
『イヤァアアアアアアアッ!』
悲痛な叫びと共に、目映い光が迸った。




