終章・令息は懺悔室で相談をする(前)
大地の半分をも占める大国・アンダンティー帝国。
皇都にある学園内に建つ教会の懺悔室。
そこに、一人の少年がいた。
金髪に金色の瞳。眼鏡をかけてはいるが、その端正な容姿は全く隠せていない。
制服を身に付けており、ボタンの色は銀。貴族の色だ。
「──今日は、どういったご用ですか?」
木製の細かい格子の奥から聞こえてくる声は高く、口調は緩やかで、どこか楽しげである。
少年は頬を赤らめた。彼が恋をしているのは火を見るよりも明らかだ。
「……お聞きしたい事があります」
「なんでしょう?」
「その……」
言いにくいのか視線を逸らし、膝の上に置いている手を握りしめたり緩めたりと忙しない。声の主は静かに見守る。
長い沈黙を破り、少年は意を決したように口を開いた。
「…………婚約者がいるんですが、彼女が誘惑してきて困っているんです」
「あら、……ふふふ」
「……笑ってないで助けて下さい」
格子の奥の相手に笑われてしまい、少年はますます顔を赤らめた。
悔しげに声の主を睨むが、大地に君臨する獅子も彼女の前では猫も同然である。
「そうですね……。誘惑とはどういったものなのか、具体的に説明していただけますか?」
「……言わないと分かりませんか」
「分かりません」
「…………今、彼女のタウンハウスに二人で暮らしているんですが、」
「あらあら、もう結婚してるようなものじゃないですか。お幸せに」
「話の腰を折らないで下さい!」
少年はため息を吐き、前髪をかき上げた。
「胸を押し付けるように抱きついてきたり、着替えを手伝わされたり、ベッドに潜り込んでくる──ぐらいなら、まだいいんです。前世でもう諦めましたから」
「ふむふむ」
「食事を食べさせ合ったり、一緒に風呂に入ろうとしたり、きわどい服を着てベッドに入ってくるのは止めてもらいたいのですが」
「なるほど、この三つは効果あり……と」
「メモをとるな」
眼鏡も外して胸元へしまう。元々変装用だが、大した効果はない。
ただ、かけると物珍しさからか「彼女」の瞳がいつもよりキラキラと輝くので、ついついかけてしまうのだ。
敬語も演技も止めて、声の主を問い詰める。これ以上はお遊びに付き合うつもりはない。
「で、誰の入れ知恵だ? 君じゃないのは間違いない」
「……守秘義務がありますので」
「夕食に君の好きなパンケーキを付けてあげよう」
「…………しゅ、守秘義務が、」
「なら私の部屋に鍵をかける」
「食事とお風呂はアリアの手紙を参考にして、服はハルモニ。あ、服は自分で選んで買ったの」
「うんうん、いい子だ」
「ああ、悪い子だわ……」
おそらく彼女は顔を両手で覆って俯いている。その隙にランプの火を消して、音を立てずに懺悔室を出た。
居住スペースへ入り、そこから通じている格子の先へと向かう。
「ごめんなさい、アリア達が羨ましかったの……。それに……その、ああいう服を着たら貴方が喜ぶって聞いたから、つい……。怒らせたいわけじゃないの」
「……」
「だ、だって、フェローもいけないのよ。一緒に学園に通うって約束したのに、授業中はどこかへ行ってしまうじゃない。来たら来たでみんな貴方に注目するし、いつも先生に囲まれて!」
「君が私ばかり見て授業に集中しないからだ。それに、あれは注目しているんじゃなくて怯えているだけ。教師と話しているのは、私がこの学園を買い取ったから。──この前も説明したはずだが」
「い、いつの間に!」
扉を開ければ、そこにいたのは一人の少女。
ふわふわとした長い金髪を一つにまとめ、緩い三つ編みにして前に垂らしていており、髪と同じ色を宿した瞳は少し垂れていて、おっとりとした印象を与える。
制服を身に着けており、ボタンの色は銀。貴族の色だ。彼女の胸の膨らみは大きく、今にも弾けてしまいそうである。
というかまだ成長を続けているので、最近はよく弾けている。彼女に裁縫をさせる訳にはいかないので、ボタンを縫うのは少年の役目だ。
以前それを見られてハルモニに呆れられたが、彼女の胸が触れるボタンを他の人間になど任せられない。




