36・思い出した令嬢、恋をうたう(中)
「私は君しか見ていないよ。ずっと君だけを想ってきた」
「わ……私だって、眠っている間も好きだったもの」
「張り合うな。こればかりは君の負けだ」
「一つくらい譲ってくれてもいいじゃない!」
「それはこっちの台詞だ」
首を傾げるとため息を吐かれた。意味が分からない。
何でも出来るフェローが、何も出来ないフィーネに負けるはずがないのに。
首の向きを変えて再度傾げると、彼に呆れた目で「もういい」と言われてしまい、抱き上げられて一緒に木の上から下ろされた。
もう少し満喫したかったフィーネだったが、跪いたフェローに手を差し出されて舞い上がる。
手を置けば、立ち上がった彼に腰を引かれて踊り始めた。
青空の下でモクレンの白い花弁が舞う光景は酷く幻想的だ。
その中で幸せそうに笑う彼に見惚れてステップを忘れてしまうが、避けてくれているのか、フェローの足を踏むことはない。
「──さて。これからどうしようか、フィーネ」
「どうするって?」
「帝国は終わる。君の姉妹に影響しないように少しずつ解体していくが、そんなものは他の者に任せればいい。このまま学園を卒業まで通ってもいいし、切り上げて神殿で二人でまったり過ごすのもいいだろう」
「神殿……アリアはいないの? 結婚式はまだ先でしょう?」
「婚前旅行中だよ。今ならまだモデラートにいるだろうし、会いに行くかい? 同じように他の国を巡るのもいいね」
フェローは何てことないように言っているが、モデラートとの編入がここまでスムーズに進んだのは、おそらく最後の天使アリアの配偶者の尽力があったからだろう。
婚前旅行中なのに邪魔をしてしまって申し訳ない。謝りたいしアリアにも会いたいが、今は二人きりにさせてあげたい。
「もう。結ばれたばかりなのでしょう? アリアに嫌われてしまうわよ」
「それは悲しいな。でも、君は私を愛してくれるだろう?」
「勿論。でも姉妹を泣かせたら、貴方なんて放って私が慰めるから」
「…………それは困るな」
本当に困った顔をするので笑ってしまう。
フィーネの叶えてほしいお願いほど聞いてくれないけど、流石に今回は聞いてくれるだろうか。
踊りながら今後の事を考える。
確かに卒業はしたい。フェローと一緒に学園へ通うのもいい。恋愛小説のように教師と生徒の禁断の関係も惹かれてしまう。
神殿へ行って、彼が過ごした五百年の痕跡を探してみるのもいいかもしれない。神父のフェローも素敵だったし、修道女の服も着てみたい。
旅行もいい。フェローと男爵領へ行って、自分の生まれ育った場所を見てほしい。領民に紹介したらきっと驚くだろう、とっても素敵な人だから。
でも一番は、なんといっても──
フィーネは微笑う。その胸に溢れる気持ちを込めて。
「私、貴方と恋がしたいわ」
「……もう好きなのに?」
懐かしいやり取りだ。確かに今思えば、前世で結婚して子供まで生んでいるのだ。少し気恥ずかしい気もする。
でもあの頃よりもずっとずっと彼が好きで、全てを手にしても、とても満足出来そうにない。




