30・生まれ変わった令嬢、真実を知る(5)
突如、バンッとけたたましい音が鳴り響き、自分を呼ぶ声にフィーネは我に返る。
どうやら一階の入り口が開いたようで、覗きこんだハルモニがため息を漏らした。
「──遅ぇんだよ、クソジジイ!」
「余裕綽々で任せておけと大口を叩いておいて、この様か。いつまでフィーネに触れている気だ、クソガキ」
「柔らかくて良い匂いがします」
「殺すぞ」
広間側に背を向けているため、フィーネからは下の様子が見えない。
彼が来てくれた。しかし、その声は今世で聞いたものとは違う。
フィーネが戸惑っている間も、上と下で二人のやりとりは続く。
「はいはい、お返ししますよ。──落とすなよ?」
「誰に向かって言っている」
「そういう訳ですので、ご容赦下さいフィーネ様」
「え──きゃあ!」
ハルモニが二階ホールから一階へ、フィーネを落とした。突然の事に目を瞑って衝撃に備えたが、誰かに受け止められる。
ふわりと包まれるモクレンの香りに目を開ければ、そこに居たのは前世の姿で仮面を被ったフェローだった。
「……フェロー?」
「そうだよ、お姫様。遅くなってすまない」
「どうして若返っているの?」
「義父君からもう一つ奇跡を授けてもらったんだ。君だって恋をするなら若い方がいいだろう?」
「どちらも大好きだわ、貴方だもの」
首に腕を回し、胸に耳を押し付ける。とくとく、と鼓動が聞こえた。
フィーネを包む匂いや感触、体温が、フェローが生きている事を教えてくれる。
安堵で、ホロリと涙がこぼれた。
頬を伝い落ちる前に、フェローが唇で受け止めてくれる。
「おいこらイチャつくなジジイ。まだ終わってねぇぞ」
いつの間にかハルモニが隣にいた。どうやらフィーネを投げた後に自分も飛び降りたらしい。
上着を脱ぎ、片腕だけで器用に布を巻いて止血している。手慣れた手つきを眺めているとフェローに怒られてしまった。
「フィーネ」
「ごめんなさい。私のせいで怪我をしたから……」
「君のせいじゃない。彼がマヌケだからだ」
「~~ッ癪ですが、その通りです。あまり気になさらないで下さい」
「……ありがとう」
こんな口を叩いているが、フィーネのエスコートを頼むくらいには信頼しているのだろう。きっとハルモニも。
前世は一人だったフェローにそういう相手が出来て少し寂しい気もするが、それ以上に嬉しい。フィーネだけでは、フェローのこんな一面を見ることは出来なかっただろうから。
うっとり眺めていると、二階で呆然としていた皇太子達が慌てて駆け下りてきた。
「ッとんだ女だな! 使えないと分かった途端、別の男に乗り換えたか!」
「どこの誰かは知らんが、その女を渡してもらおうか。貴族なら俺の顔くらい見たことがあるだろう?」
皇太子はまだ剣を握っている。でもこうしていればフェローが斬られることはない。
必死で彼にしがみつけば、力強い腕で抱き返された。




