29・生まれ変わった令嬢、真実を知る(4)
「ぁ……あ……っ」
足に力が入らず、座り込む。息の吸いかたも分からなくなる。
寒くて身体の震えが止まらない。必死に自分の身体を抱き締める。
「──切れないように細工を施していた剣は何者かによって入れ換えられ、姦悪皇子は死に、皇太子は気が狂って離宮に閉じ込められた。そして当時の皇帝は”皇太子が真実の愛に目覚めて市井に下りた”という醜聞で誤魔化したという訳だ」
「ッ彼女に近寄るな!」
「つまりフェルマータ侯爵など幻影に過ぎない。──いるなら姿を現せ! どうせ群衆に紛れて怯えているか、尻尾を巻いて逃げ出しているだろうがな!」
コツリコツリと足音が近づき、目の前で誰かが跪く。
フェローじゃない。咄嗟に逃げようとしたが、前に流していた髪を掴まれて痛みが走った。
「ッ……!」
「──せっかく男を誘う身体をしているくせに、これでは宝の持ち腐れだな。俺が贈ったドレスを着れば多少はマシになったものを。それとも下に着ているのか?」
「いやぁ!」
「ッの野郎!!」
ドレスを破られそうになって抵抗したら、皇太子が吹っ飛んだ。
どうやら強引に拘束を解いたハルモニが突き飛ばしたようだ。
「失礼します!」
「きゃ……っ」
「~~ッ殺してやる! 剣を寄越せッ!」
フィーネを抱えあげ、群衆をかき分けてハルモニはどこかへ駆け出す。後ろから不穏な声が聞こえる。
階段を駆け上がり、扉を体当たりで開けようとするがビクともしない。頭上から舌打ちが聞こえた。
「あのジジイいつまで時間かかってやがる! もう持たねぇぞ!」
「なんだ、味方からも見放されたか?」
皇太子が階段を上ってくる。ハルモニがまた舌打ちをして、二階ホールへ逃れた。
しかしその先にはテラスへ続く窓しかなく、どれもカーテンで覆われている。開けている間に皇太子に追い付かれるだろうし、体当たりではビクともしないだろう。
「わ、私の事は置いていって。貴方が殺されてしまうわ」
「ジジイに殺されます。どの道死ぬなら悔いが残らない方を選びますッ!」
とうとう端まで追い詰められてしまった。
剣を握って歪んだ笑いを見せる皇太子の背後に、元婚約者と護衛が続く。
「──追いかけっこも終わりのようだな?」
「……」
「フィーネ、自分からこちらへ来い。そうすれば、その男の命だけは助けてやる」
「いや……絶対ウソ、だろ。誰が、信じるか…ボケ」
「! ハルモニ、貴方……っ」
息が段々荒くなっているハルモニを見上げれば、肩の部分が血に染まり始めている。おそらく抵抗から逃れた時に剣を掠めたのだろう。
前世の記憶がフラッシュバックで蘇り、身体が震え出す。このままではハルモニが殺されてしまう。
どうしてフェローは助けに来てくれないのか。もしかして、どこかでまたあの時と同じように──
「いや……っ、いやぁ……!」
「ッ落ち着いて下さい、フィーネ様!」
「彼女もお前に愛想がついたようだ。さあ、おいでフィ──」
「フィーネ!!」




