幕間・深夜の礼拝堂にて
夜も更けた教会の礼拝堂にて。
月も隠れてしまい、光源となるランプすら点けず、二人の男が一つの長椅子の両端にそれぞれ座っていた。
「──で? とうとうヤったのかよエロジジイ」
「まさか。今世こそは義父君との約束を守るつもりだからね」
「ハッ。どうだか」
一人の若い男は足を組み、一人の年老いた男は背筋を伸ばし、懺悔室の側にある扉を見つめている。
「──彼女の記憶は戻らなかった。翌朝に思い出すかもしれないが、まあ限りなく低いだろう」
「は!? 計画はどうすんだ。もう止められねぇぞ」
「このまま進める。──今日思い出してくれれば最善だったが、こればかりは仕方がない」
元々、予感はしていたのだ。
最後の天使の恋が叶うまでは、と義父によって封じられていた記憶。本来は配偶者と再会しなければ思い出さないはずなのに、彼女は一人で少しずつ記憶を取り戻していった。
義父の言う「会う」が「面と向かって会う」だったとしても、最初に再会した時点で彼女は男の正体に気付いていた。中途半端に思い出している彼女なら、あの時点で全てを思い出しても不思議はなかった。
けれど彼女は変わらず、少しずつ思い出す。
まるで、その先に何が待ち受けているか知っているかのように。
「──私も、出来ることなら思い出させたくはない」
男が他の配偶者と違うように、彼女もまた他の天使とは違う。
そんな事、分かっていたはずなのに。
「……アンタはそれでいいのかよ。五十年は一緒に居たんだろ」
「……」
「このままじゃ何度生まれ変わっても、半年程度の記憶しか思い出さねぇぞ」
大地に降りてきた一人の天使。真ん中の子だから家族に放っておかれたと言うが、それでも家族を愛し家族に愛されてきた少女。
姉達と違って悪意と戦う術を持たず、人間の欲の深さを知らない。白雲のように無垢だった彼女。
二人が過ごした五十年ほどの日々を考えれば、半年など瞬きの記憶でしかない。けれどそれは、彼女に決して消えない傷を付けた。
もう同じ思いをすることはないと教えたところで、傷が完全に癒えることはない。
「構わないさ。愛など何度でも育めばいい。──彼女を待った五百年を思えば、些細な事だ」
そう言って年老いた男は立ち上がり、自分の部屋へと戻る。
そこで眠る、彼女の元へ。




