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魔王軍長老カインの憂鬱(下)

やっぱりパロネタが多いので、嫌いな方は注意ください。




第1035回目の魔王殿御前会議。

その議場は騒然となっていた。




勇者、暗殺。




魔王城護衛騎士団ヴェルドによってもたらされた情報は、あまりにも衝撃的だった。

長老カイン、そして4天王に電流走る……!

そして開かれる緊急会議。

勇者暗殺事件の幕開けであった。


「皆の衆、分かっているとは思うのじゃが、我々の真の目的は勇者を生かす事である」


カインの言葉に、一同が肯く。

勇者に死んでもらっては困るのだ。

これを語るには、魔族の歴史を紐解く必要があるだろう。


かつて、魔族は幾度か勇者を抹殺した。

そしてその度に、巨大な混乱と内戦を起こしてきたのである。

何故か? その結論として魔界の歴史学者プルートーはこう結論付けた。


『魔族が団結するには外敵が必須である。その外敵には勇者が最も相応である』


つまり、棍棒振り回してるゴブリンや、知能があるのかどうかすら分らないモンスター共が

曲がりなりにも社会秩序を形成するには、勇者という共通の敵が必要であると結論したのだ。

そこで魔界の上位層では、勇者は生かさず殺さずがモットーとなっている。

特に、今代の勇者が子供だったり、次代の勇者が現れていない時は、全力で見逃さなければならないのだ。


それが破られた。

これは、魔界にとって緊急事態を意味する。

カインと4天王の緊張は至極当然のものであった。


「まず始めに、勇者は本当に死んだのですか? そこを確認すべきです」


さらりとノヴァが言う。

狂乱の貴公子の二つ名を持つ彼だが、彼の持ち味はその冷静さだ。

ぶっちゃけ狂乱の何たらは魔王が趣味で付けただけであって、特に意味が無かったりする。

カインはノヴァの言葉で落ち着きを取り戻しながら答えた。


「ふむ。確かに、2500年ほど前にも今回と似たケースがあったという。その時は、身代わりが死んだというが」


「ルナスの悲劇やね。あの物語、うちは好きやわあ」


大気の女王シャナが、うっとりとした表情で答える。




ルナスの悲劇とは?




かつて勇者アレスの村が襲われた時、その幼馴染であるルナスが勇者の身代わりとなって死んだ。

幼きアレスは復讐を誓い、最後は魔王と刺し違えた後、ルナスへの愛を謳いながら果てたという。

変身魔法が一躍有名になった古事としても知られる、伝説の悲恋の物語である。


「それとなく変身魔法による身代わり説を流すとするかのう……。これで魔族達もしばらくは暴れんじゃろう」


魔界の秩序維持のため、カインは幾つか手を打たねばならない。

頭が痛い話だった。


「しっかし、何で勇者が殺されたんじゃあ? それも、人間の手で」


海の王ダイダックルが心底不思議そうに言う。

ヴェルドによってもたらされた情報は、要約すると以下の通りである。

勇者殺された。殺したのは人間。どうやら国による処刑らしい。

人間達の希望であるはずの勇者を、何故国を挙げて殺したのか? 謎は深まるばかりだ。


眉間に皺を寄せながら、カインはふと炎の王エルタークが沈黙している事に気が付いた。

エルタークを見ると、蒼白の顔にびっしりと汗が浮いている。

カインはエルタークを気遣って声をかけた。


「エルタークよ、気分が優れぬか? あまり酷いようなら、しばらく席を外しても構わんぞい?」


エルタークは胃の中身をリバースしたばかりだ。

それで辛いのだろうとカインは予測した。

しかしエルタークは黙したまま動かなかった。

ぶるぶると震える体。体育座りでどこか遠くを見ながら、ぽつりと言った。


「クックック……俺のせいだ……」


カイン、ノヴァ、シャナ、ダイダックルの視線がエルタークに集まる。

エルタークは、体育座りのまま顔を伏せて語りだした。


「ちょっとした冗談のつもりだったんだ……。勇者を殺さなきゃ、国を襲うって言ったんだ……」


エルタークは今にも泣き出しそうだった。

しかし、彼の発言自体はさほど問題では無い。

人間の国に攻撃をかました後に捨てセリフを吐くのは、魔王軍の様式美と言っても過言では無いからだ。

この場合、エルタークの発言は古典の引用だろう。


『勇者を差し出さなければ国を滅ぼすぞ? 怯えるがいい、人間共!』


第25代目魔王による名セリフである。

この発言を聞いた人間達は奮起し、伝説に謳われる勇者アーティスの最強パーティーが結成されるのである。

外圧によって勇者の成長を促進させた事例として、魔界上層部では広く語り継がれている事柄だ。


「え、エルタークよ。よしんばお主が本当にそう言ったとしても、それが原因であるとは……」


「う、うちもそのくらいの事言うし! 気にする事あらへんよ!」


「わ、我輩もそんな事で人間共が勇者を処刑するとは思わんじゃけん!」


可哀想なくらいに塞ぎ込むエルターク。それを気遣う3人。

遠巻きに見ていたノヴァが、怜悧な声で告げた。


「カイン様。もし身代わりでは無く、勇者本人が処刑されていたらどうします」


その言葉に、カインはしばし黙考した。


「うむ……。よし、勇者の代役を用意しよう」


「代役……ですか?」


少し不思議そうに聞いてくるノヴァに対し、カインは流れるように答えた。


「勇者の安否確認が必要だ。そのために詳しく調査する者が必要になる」


「それは、引き続き諜報部隊に……」


「諜報部隊はマズイ。この件は、出来るだけ内密に調べたいのじゃ」


カインは恐れた。

勇者の身辺を探る諜報部隊は、今まで守秘義務など無かった組織だ。

勇者の身辺情報が広まることに神経質になる必要が無かったからだ。

しかし、この件はマズイ。勇者本人の処刑が確定し、その情報が漏れるとなると……。


「内密に、ですか」


「うむ。そして、もしもの時には勇者の代役も担ってもらうのじゃ」


秘密が守れる調査員を派遣し、勇者の生存が確認できれば良し。

もしもの時は、その調査員が勇者の代役をし、魔界にとっての外敵を演じる。

それが最善の手に思えた。


「問題は、誰を任命するかじゃが……」


カインは4天王を見た。

何故なら、4天王の中から代役を選ぶつもりだからだ。

勇者を演じられるほど強く、勇者の代役が必要であると自覚している者。

手っ取り早いのはこの4人だ。


ちらり、とエルタークを見る。憔悴しきった顔だ。……頼み辛い。

シャナはそわそわしている。

妙に魔王の座を狙っていたし、彼女に頼むのは得策では無いかもしれんのう。


ダイダックルは……バカじゃしなぁ……。

やはりノヴァかのう。何か色々出来そうじゃし。

考えるの面倒じゃなぁ。よし決めた!


「ノヴァ、お主に頼もう」


カインが命じると、ノヴァはしばし沈黙した。

いつもは、受けるにしろ断るにしろ即答するノヴァにしては珍しい。

そんな事をカインが思っていると、ノヴァは重々しい態度で承諾した。

やれやれと一息つきながら、物のついでに言った。


「では、次期魔王はシャナで」


あまりにもカインが気軽に言ったので、シャナの反応は遅れた。


「え? う、うちが魔王!? やったー!!」


喜ぶシャナとは対象的に、ダイダックルは納得いかないと叫んだ。


「ちょ、ちょっと待つんじゃい! 何でいきなり決まるんじゃ!!」


カインは「当たり前だろう」無表情で言った。


「魔王様の言葉に従うなら、お主は息子を作った後に処刑じゃぞ?」


うぐ、とダイダックルは言葉に詰まる。

カインは辟易としながら話を続けた。


「ワシとエルタークの条件はぷりてぃでキュアな感じじゃし。それなら、シャナに小学4年生の格好をさせた方がマシじゃ」


「ちょ、ちょっと待って! うち、小学4年生の格好しないとあかんの!?」


「うむ。それが魔王様の示された条件じゃからの。条件を受諾しない限り、誰も次期魔王と認めんじゃろうて」


絶叫するシャナに冷たく言い放ち、カインはやれやれと溜息を吐く。

これで全てが決まった。後は知らない。知りたくも無い。

ごちゃごちゃ言うシャナ、ダイダックルを議場から蹴り出し、ノヴァと打ち合わせをする事にした。




「すまんのう、ノヴァ。貧乏クジを引かせてしまったか。しかし、お主以外に頼れる者がおらんかったのじゃ」


「……いえ。カイン様のご命令とあれば」


ノヴァにしては珍しく、歯に物が挟まったような口調だった。

やはり、勇者の代役など面白くなかろう。

カインは精一杯、ノヴァをねぎらうつもりだ。


「思えば、お主が4天王に入ってから3年と経っておらんな。しかしお主の優秀さは、他の3人も認める所じゃろう」


ノヴァが4天王に加わったのは、今から3年ほど前の事だった。

ある日の事、不思議を探しに行った魔王が連れて来た青年。それがノヴァだった。

カインがノヴァを信頼するまでは早かった。何故なら、他の3人がダメ過ぎたからである。

付き合った期間など関係無い。むしろ長年付き合ったからこそ、ノヴァを除く4天王達は信頼できなかった。


「そう、ですね。知り合って間もないにも関わらず、カイン様は僕に信を置いて下さりました」


この控え目な所がノヴァの美点だな、とカインは思った。

エルターク、シャナ、ダイダックルの3人とも引く事を知らない。

だから会議も纏まらないし、まともな意見も出ないのだ。

今まで会議を円滑に進めて来られたのも、冷静なノヴァの存在あってこそだった。


「お主ほど優秀な男であれば、信を置くのに何の問題も無いじゃろう。それは、お主自身の持つ力じゃ」


朗らかな気持ちでノヴァを褒めるカイン。

そんなカインに対し、ノヴァは張り詰めた表情を作る。

ふいに目を閉じ、苦吟(くぎん)するかのように眉間に皺を寄せた。

しばしの沈黙のあと、ノヴァはゆっくり瞳を開けて言った。


「しかし……敵である人間の僕を、信頼して下さるなんて……。僕は、深い感謝の念を禁じえません」


え? ノヴァが人間? どういう事?

突然始まったノヴァの告白。

それに対し、カインはポカーンと目を丸めた。

ワシ、初耳なんじゃけど……。


「仲間に裏切られ、殺されかけ、僕は自暴自棄になりました」


ノヴァの独白が続く。

カインは、ただただそれを聞き続けた。


「そして魔王様に戦いを挑み、破れました」


ノヴァは3年前の事を思い出した。

信じた仲間に裏切られ、国から追われる事になったあの日。

追っ手は執拗で、いつか殺される事は確実だった。


「このまま死ぬのか? 何も為さないまま、僕は死ぬのか?」


虚しくなった。

生きた証が欲しかった。

どうせ死ぬのなら、華を飾りたい。

自分の生きた証という名の華を。


ノヴァは決断した。

魔王に戦いを挑む事を。

よしんば魔王に負けたとしても……。

魔王に挑んだ事は、生きた証足り得る気がした。




そして、負けた。




「国に帰りな。お前にも待っている家族がいるだろう」


魔王の言葉がノヴァの胸に突き刺さった。

家族など居ない。孤児であるノヴァには、家も家族も無かった。

唯一信じたはずの仲間。その仲間の裏切りの果てに、ノヴァは全ての居場所を無くしたのだ。


「僕に帰る所など無い。殺せ」


ノヴァは挑むような目つきで魔王に言った。

魔王はしばし面白がるような表情をした後、こう言った。


「貴様の命の使い道、私の部下に選ばせよう。ふひひ、面白くなってきたぜ!」


その後、ノヴァはカインに預けられた。

魔王の話によると、魔王軍の長老カインは拷問好きな変態であり、

魔法の研究のために仲間を実験台にするのも(いと)わないという。

ノヴァは捨て鉢な気分でカインの下についた。


しかしカインは、ノヴァを丁重に扱った。

さらにノヴァの実力を認めると、4天王に推薦した。

これを魔王が承諾し、ノヴァは4天王に名を連ねる事になる。


硬く心を閉ざしていたノヴァだったが、魔王軍の中にこそ自分の居場所がある事に気付いた。

カインは、決してノヴァを軽んじなかった。

それどころか、人間であるノヴァを信頼している節すらあった。

ノヴァは思った。信じてみよう、もう一度。僕を信頼してくれる、この人を。


「確かに、勇者の代役には人間である僕が相応しいでしょう。全ては魔王軍、そしてカイン様の為に……!」


ノヴァの強い意志を込めた言葉に、カインは聞き入った。

そして思う。何にも知らなかったって言える雰囲気じゃねえ、と。


ノヴァが人間? 今聞いたわい、今!

そもそも魔王は「面白い奴拾った」とだけ言ってノヴァを寄越して来たのである。


それにしても、誰が拷問好きじゃ、とカインは辟易した。

仲間を魔法の実験台とか、変な本の読み過ぎじゃろう……。

魔王様。どうしてあんたは何時も、どうでも良い所で嘘を吐くんじゃ!?


「うん、まあ、その……頑張って」


そうノヴァに言うのが、カインの精一杯だった。

決意に満ちたノヴァが議場を出て行く。

彼はきっとやってくれるだろう。

無責任にそう考えながら、カインも議場を後にする事にした。


「それにしても、シャナが小学4年生か……。キッツイのう」


明日からどんな顔でシャナを見ればいいのだろうか?

まあ明日になってから考えよう。

嫌でもこれから毎日見る事になるのだから……。

332歳の送る、小学4年生のコスプレ姿を。




カインが議場を後にする。

全ての者が去ったかに思える議場の中に、うずくまる影があった。

ゲロを吐き、自責の念に駆られ、体育座りして塞ぎ込んでいた炎の王エルタークだった。

存在感を消していた彼は、カインとノヴァに気付かれる事無く議場に残っていたのだ。


「…………」


エルタークは考えていた。

魔王の事。魔王の腹心であり、4天王を統括してきたカインの事。

次の魔王となるシャナ(小学4年生)の事。実は人間ですとぶっちゃけたノヴァの事。

色々考えて、考えて……遂に、考える事を止めた。


「クックック……カインに丸投げすりゃいいじゃん」


素晴らしい発想に至った彼は、これからもカインを頼る事を胸に誓う。

果たして長老カインに隠居の日は来るのか。

シャナのコスプレ姿に、魔王軍は耐えられるのか。

物語の続きは誰も知らない。




【完】




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