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十九 最終局面の銃声

          


 いよいよ大詰めとなった。


 佐東隊を取り囲む多岐川・真江田・朝野・山内隊。そして因幡隊を枝畑・金盛・八州家隊が襲う。いや、枝畑先輩だけは逆に因幡とか言う人に、違う意味で襲われてるようだ。


 それはさておき、既に佐東隊は壊滅寸前、因幡隊も(違う意味で)混乱状態にある。そんな状態になって、やっと重い腰を上げた敵陣営。敵方総大将を除く残りの三部隊が、おっとり刀で出撃し、佐東隊の救援に向かう。それと呼応するかのように、俺達の前に立ちはだかっていた、安堂・宇治家・比音野の三部隊も、明らかに遅い因幡隊への援軍へと向かう。


 そして俺と竹仲さんの部隊は、誰にも邪魔される事なく、敵方総大将への直通ルートを手に入れた。無論それは、相手方裏切り三人衆の手心があればこそだ。どうやら本当に、今回は勝つ気が無いらしい。


「さあ、ここからが本番ですよ。橋場さん、四千の兵を与えます。二手に分かれて挟撃を!」

「おう! まかせてくれ!」


 二つの部隊が馬防柵を回り込み、次第に勢いを付け、突撃を敢行する。距離を縮めるにつれ、敵の鉄砲隊の激しさが増し、倒れ消える雑兵達の姿も増えてゆく。だが勢いは止まらない。この代償、何倍にも増して返してやる。

 敵陣営へ背後からの攻撃は、塹壕も場防柵も何も妨げるものは無い。逆に前方にある自ら作った障害物が、敵方退路の邪魔と変化している。


 俺の部隊四千は、正面向かって左から。竹仲さんの部隊四千は右から、敵総大将五千を挟み討ちにした。


 これまでの鬱憤、全てを晴らさせてもらおう! そら、脳内のマッチョモヒカン共よ! 久々に大暴れだ! 


 遠慮はするな、鉄砲兵なぞ恐れるに足らん! 襲い掛かる雑兵の槍も軽くあしらえ! ただひたすら槍を付き奮い、雑兵撃退数のカウントを増やしていく。まるで無人の野を駆けるようだ!



 そして目指すは、あの嫌なインチキスナイパー、最東隆夫の首級! 



 敵雑兵を掻き分け、いよいよそれが俺の目の端に止まる。あの小憎たらしい面と総大将を示す馬印だ! 


 だが次の瞬間、俺は奴を通り越し、その向こう側へと馬を疾走させた。ニセゴルゴの腕に持たれていたモノが、目に飛び込んできたからだ。奴の自称得意技、鉄砲だ。その銃口の先にあるものは……我等が総大将、竹仲綾名その人だった!


「ちょっ! 竹仲さん、何でそんな前衛に!」


 総大将ともあろうお方が、自ら槍を携え、雑兵たちを蹴散らしている! もしかして大詰めの高揚感に、夢中になりすぎて突出してしまったのか?


「竹仲さん伏せて!」


 思わず叫んだ声に、彼女が振り向く。一瞬周囲を確認して、しまった! と言う表情を見せた。やはり夢中で槍を振るうあまり、うっかり前に出すぎてしまったようだ。


 ――パーンッ!――


 幸運にも、ニセゴルゴの放った玉は彼女を逸れてくれた。……やっぱ射撃が下手なんだろうな。


 だが奴も慣れたもの、二射目の準備に怠りは無かった。どうやら近侍の者に種子島の玉を込めさせていたようだ。見れば三射目も準備している。こいつはまずいぞ!


 俺は行く手を阻む雑兵を蹴散らしながら、最東と竹仲さんの射線に割って入った。



 ――パーンッ!――



 合戦の怒号や雑踏に紛れ、微かに聞こえた発砲音。と同時に、俺の右肩口に小さな、本当に小さな感覚が走った。

 途端、真っ赤に緊急表示される、五割を切った俺のライフゲージ。そしてかき鳴らされる警告音。ああ、いつもの事ながら、嫌な気分だ。


 でも今回はそんなに悪くない。だって俺に当たったって事は、総大将を守れたって事だもんな。


「た、竹仲さん逃げて! 早く!」


 叫び振り返ると、竹仲さんはまだそこにいいる。逃げる素振りは無かった。そう、どうしていいのか分からないといった表情で、固まっているんだ。

 やれやれ困った総大将だ。君が逃げてくれないと、次の一発で俺は討ち死にだ。そうすると誰が君を守るんだよ?



 いや、俺が守るんだよな! 絶対に、彼女は俺が守って見せるんだよな!



「うおおおおおおお――! ニセゴルゴ覚悟ぉー!」


 前を見やると、既に三発目の弾が込められた種子島を持ち、俺に照準を合わせるインチキスナイパーの姿。俺との距離は約二十メートル程。間に合うか? 瞬時に詰め寄り、せめて一太刀! あと少し――!



 ――パーンッ!――



 間に合わなかった。銃声に驚き、嘶き止まる馬。せめて竹仲さんが逃げていてくれたらと、振り向いてみる。だがやはり彼女は変わらずそこに居た。驚いたと言う表情でこちらを見ている。あとちょっと、もう五メートルの距離だったのに……せめて一太刀俺の手で入れてやりたかったよ。無念だ、本当に無念でならない。


 見てみなよ、ニセゴルゴだって無念そうな顔をしてるじゃないか。構えていた種子島を弾き飛ばされて、せっかくのチャンスをふいにしたって面だ。全くぎりぎりのところでついてない…………あれ?


「何、俺生きてる? 何これ? 奇跡? 神様ぁー!」

「橋場がそこまで信心深いとは思わなかったんだけど?」

「いやぁ、奇跡を大安売りしてくれるんならどんな神様にだって尻尾を振ります――」 


 そう言って声をかけてきた方向を見ると、多岐川先輩が馬上から銃を構えた状態で、こちらに向かってきているのが見えた。と言う事は、さっきの発砲音は――うひゃー……もしかして、すっごいベタな助けられ演出?


「バーカ! かっこいい神演出だっつの!」


 そう言って馬上から、手にした種子島の銃口をゴリッと敵総大将の頭に押し付ける多岐川先輩。


「チェックメイト! ってな。マジいっぺんこんなのやってみたかったんだよ」

「あの。余裕ぶっこいてますけど、まだ合戦中ですよ? しかもまだ向こうじゃ皆戦ってるじゃないっすか!」

「いやさぁ、最東の姿が見えたんで、狙えるかなぁって思ってさ。そしたらこいつ、ぜんぜんこっちに気付かないでやんの。マジで無用心つーかバカっつーか。これで総大将とかマジ笑えるわ」

「まあそのお陰で助かりましたよ。ありがとうございます」


 俺は馬上の先輩に向け、深々と頭を下げた。


「おっと動くなよ雑兵共! 攻撃してきたら総大将に風穴開けんぞ? 綾名ちゃーん、もう大丈夫、こっち来いよー!」


 大声で雑兵を威嚇しながら、我等の総大将を呼び招く先輩。

 でもずるいよな、チャラチャラした性格の癖に、こんなカッコイイ登場の仕方で俺達を救ってくれるなんて……やっぱりドサクサに紛れて後ろから刺すか?


「んじゃあ、そろそろケリつけるか」

「あ、はい」

「ちょ、ちょっとやめろって! 降参するから!」

「お屋形さまー、こんな事言ってますけど?」


 俺は馬上の竹仲さんに意見を伺った。


「私への悪口雑言は構いません。ですが、織田部長や朱池先輩への仕打ちには、責任を取っていただきます。宜しいですね?」


 無表情で敗残の将へと言葉をかける。その一言一言に、例え様も無い凄みを感じた。


「じゃま、そう言う事で――チャオ!」



 ――パァン!!――



 新生美都桜高校IXA部が、初めて挙げる勝ち鬨の声。


 それは、朱池会長の野望を打ち砕いた瞬間でもあった。


 そして我等の総大将、竹仲さんの周りに皆の使い番が現れ、喜びの声を伝える。


 平成二十五年十一月七日、午前十時五十六分。美都桜高校と條庄学園の合戦は終結した。



次回、最終回 「エピローグ~凱旋」




この章を最後まで読んでいただいて、まことにありがとうございました!

あと一話です、どうか最後までお付き合いお願いいたします!


なお、更新は17:00頃となります。

どうかご一読よろしくお願いいたします!

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