ピックの身体
「はぁ……」
「どうした、新入り。」
「あっ、先輩、お疲れ様です。」
「おう、お疲れ。」
ここはカロリール兵が住んでいる寮の一つである。そこの共同スペースに新入りが一人悩んでいた。
「先輩、俺ここでやっていけますかね。」
「どうしたよ?いきなり…前は元気にやっていたじゃねぇか?」
「俺、前職のこと知っていますか?」
「あぁ…たしか…別の領で冒険者をしてたんだっけ?」
「えぇ、これでもそれなりには有名だったんですよ。この歳でCランクまでいっていたんです。」
「おお、流石は平民からうちに入れただけはあるな。」
カロリール領で、兵士になるには実力があれば他は要らないとなっているが、そこに求められる実力が高い為平民では子供からのスカウトでしか無理だと言われている。
つまり、この新入りはそれなりに優秀なのである。
「それなのに、ここでは子供と一緒に訓練ですよ。しかもその子達にも負けることはあるんです。どうなってるんですか?!ここの子供は!」
「静かにしろよ、仕方がないだろう。冒険者の仕事は魔物退治をメインにした何でも屋なんだから。対人戦の経験、ましてや行軍の経験なんてないだろう。」
先輩は新入りの声がうるさかったので、耳を塞ぎながら言った。
冒険者の仕事は魔物退治が主体になっているが、ただ、魔物も自然の一部である為、退治しすぎると自然界になんらかの異常が生じてしまう。
例えば、ブラックウルフという魔物がいる。この魔物は森に住む普通より黒い毛並みをしたオオカミである。ブラックウルフを討伐しすぎると、森に住む草食動物型の魔物が増殖してしまい、植物と動物が死に絶えてしまう。
魔物は通常の動物と違い凶暴であり、人間に有害な魔力を持っている動物のことである。
大体の魔物は大きく草食動物型と肉食動物型に分けられるが、魔物の食性は食糧危機になると雑食になる為より人間や村を襲うようになるどころか、森林破壊や他の動物を絶滅させることもある。
そういうことになる為、冒険者は依頼にない魔物退治は原則禁止又は制限されている。その為、依頼がない時の冒険者は街にある困りごとを請け負っている。
「確かに、行軍経験はありませんが、対人戦の経験はありますよ。」
「でも、お前、ガキに負けていたじゃねぇか?」
「…………」
「すまん、だからあまり落ち込むな。」
新入りがこれ以上落ち込まないように先輩は話題を変えようと別のはなしを振ることにした。
「確かにうちの子供達は領主様や隊長達が連れてきた選りすぐりの子達だからな。お前が負けるのも仕方がない。あっちからしたら大人との戦闘なんて慣れまくっているからな。強い子供とやりなれないお前が負けるのは仕方がないことさ。」
「じゃあ……先輩も戦えば負けることもありますか?」
「ある訳ないだろ。」
「……やっぱり俺なんて……」
つい、当たり前のことすぎて本当の事を言ってしまい、また新入りを落ち込ませてしまった先輩はどうするか悩んでいた。
負ける訳ないのだ。この先輩も元々スカウトで入ってきた子供だったのだから。
「あっ、でも流石に領主様のお子さんには負けるぜ。」
「えっ!そうなんですか?」
「当たり前だろ、普通の貴族でも平民が勝つには難しいのに、その中でもトップの戦闘能力を持つカロリール家の人達だぞ。子供だろうがなんだろうが勝てる訳ないだろう。」
この世界の貴族は、自分達の領地と権力を守る為、長年に渡って強者の血を入れまくっている。
だから、平民と貴族間の力の差は広がるばかりである。
そんな中たまに、平民の中にも貴族に迫る力に目覚めるものも中にいる。それがゲームでの主人公である。
「あの人達は別格だ。俺たちと同じ尺度で測っていい人ではないよ。」
「そうですね。実は今日ピック様の訓練の手伝いをしていたのですが、あれが同じ人間だとは思えませんでした。」
「バカ!あの人達をあれ呼ばりすんじゃねえ!使用人達にでも聞かれてみろ!お前死ぬぞ!」
先輩は新入りを心配して怒鳴った。
昔、先輩の初めての後輩もこの新入りと同じ平民上がりの後輩だった。その後輩もこの新入りのようについ言葉遣いを誤りそれを聞いた使用人に殺された事があったからだ。
「えっ!すみません。つい……」
「たく…いいか、お前はもう他領の人間ではなく、この家に仕える兵士なんだ。メリハリはつけろ。じゃないと殺されるぞ。」
「それは、カロリール家に消されるという事ですか?」
新入りは先輩の話を聞き、カロリール家の怒りを買って殺されると思った。
「そうじゃない、正確には使用人に殺されるだ。領主様も他のカロリール家の人達も温厚で慈悲深い人達だ。陰口程度でちょっとした罰や減俸はあっても殺されるような事はない。ただ、使用人達は違う。あいつらは、カロリール家信者と言っていいほど狂信的な忠誠を誓っている。」
「そうなんですか?」
「あぁ、だから使用人と兵士の寮は離されている。」
使用人と兵士の寮はどちらもカロリール家の屋敷にあるが、正反対の場所にある。
それは互いにあまり仲が良くないからだ。
「それに、街では悪く言われているピック様も歴としたカロリール家の一族だ。」
「そうですよね。あんな重い剣を振り回すなんてどう見ても異常ですよ。それに8歳にしては身体がデカすぎる。」
ピックの身体は147cm、体重は95kgという、子供とは思えない身体をしている。
「元々、カロリール一族は肉体的にも精神的にも成長が早い。その中でもピック様は特別た。あの人の身体は様々な環境に適応できるようになっている。」
「様々な環境?」
新入りは先輩の言っている事があまり理解できていなかった。
「そうだ、たとえ灼熱の砂漠だろうが、極寒の氷の大陸だろうが、裸一貫でピック様は生きることが出来る。」
「流石にそれは言い過ぎなのでは。」
人間がそんな格好と環境で生きていけるとは新入りは到底思えなかった。
「いや、これは事実からなる話だ。」
「事実?」
「あぁ、今から3年前、ピック様が5歳の頃ピック様が乗っている馬車が土砂崩れにあい崖に落ちてしまった。あの時はたまたま、最後尾にピック様が乗っている馬車があったため。その馬車以外は土砂を免れたが、御者とメイドとピック様の三人が落ちてしまった。」
「それでどうなったんですか?」
「御者は即死。メイドとピック様はギリギリ生きていた。そんな極限の中で助けが来るのに一ヶ月かかった。」
「どうしてそんなにかかったんですか?」
貴族の子息が落ちたとなると、即座に捜索隊が組まれてすぐに助けられるのにも関わらず一ヶ月も掛かるのはどう考えてもおかしかった。
「理由は単純だ。そこまでの道が無く、作るのに時間がかかったんだ。」
「え?でも、一ヶ月もかかりますか?」
この世界には魔術などがある為、工事などが地球より短縮して行うことは可能なのである、
その為、崖下までの道を作る工事も一ヶ月かかるのは通常ありえなかった。
「そこは特殊な環境でな。魔術を使おうにも魔力が乱れて降りることはもちろん階段などの道を作ることも無理だった。その為、純粋な人力での捜索しか出来なかった。」
「でも、助かったんですよね?」
「あぁ、二人とも生還した。問題はその間なにを食べて生きていたのか?だ。」
そう、崖の下には食べ物は一切無かった。馬車にあった食糧も土砂に呑まれている。そんな中何を食べていたのか?
「食べていたのさ、ピック様を。」
「え?????」
新入りは混乱していた。
「メイドはピック様の血肉を食べて生き長らえていた。」
「じゃあ?ピック様は?」
「何も食べてないよ。崖下にはに川が流れていた。水は飲めたが、魚を獲る道具も魔術も使えなかったから、魚は食えなかった。」
「それで、生きれるんですか?人間が?いや、そんな生物いるんですか?」
新入りは水しか飲めない上に血肉を従者に食べられて生きているなんて人間どころか、そんな生物がこの星にいるのかと純粋に疑問に思った。
「ピック様はメイドに喰われて傷だらけだった。いや、それが無くても土砂崩れによる傷もあっただろう。そんな状態じゃ傷が化膿する前に出血多量で死んでしまう。」
「そうですよね!そんな状態で生きれる生き物なんて……」
存在しない。そう続けようとした新入りの言葉より早く先輩は言った。
「いるだろう。そんな状態でも生きていける生物が……」
「何ですか?それは?」
「植物だよ。」
「植物ですか?」
「そう植物だ。種類にもよるが、植物は生命力が高い。根っこが生きていれば、また、芽を出す程に高い。」
確かに植物の生命力は凄い。新入りも実家は農家な為その生命力は嫌という程知ってはいたが……
「でも、人は動物です。」
「あぁ、でも、ピック様は自分の体内に植物の光合成を再現した器官を作り出していた。」
植物は葉緑体を使って光合成行っている。ピックはそれを細胞内に作っていた。完全に同じものではないが、結果は同じである。
通常、呼吸を行えば、酸素より二酸化炭素が多く排出されるが、ピックの場合、この細胞によって二酸化炭素よりも酸素が多く息に含まれている。
「メイドは、ピック様の実を食べて生きていた。」
「何ですか?ピック様の実って?血肉を食べていたんじゃないんですか?」
「俺も詳しいことは知らん。だが、ピック様は光合成以外にも植物のように果実を実らせる事が可能らしい。」
「そんな事出来るんですか?」
「できるんだよ。言っただろうピック様の身体は様々な環境に適応できるって。」




