三年後
あれから三年経った。
今日が試験の日、三年経った事で、俺の身長は26cmアップ、体重は75キロ増である。
見た目はまんまデカくなっただけ、画面をズームしたようになった。
「ピック、甲板で何してんの?」
「光合成」
俺は今船の上にいる。つまり、一年後の試験に合格したのである。
「サラとヘラは結局行かなかったわね。」
ミラード叔母さんが残念そうに言った。
サラ兄さんとヘラ姉さんは試験に突破したが、新大陸に行く事を棄権した。
理由は色々あるが、まぁこの三年でそれぞれの事情があったとだけ言っておこう。
俺は何もなかったので、行く事にした。
「それにしても、新大陸に着くまで暇よね〜。」
何故か?ミラード叔母さんは俺の隣に座り話し始めた。
「どうする?ちょっとだけ戦う?」
いや、俺とミラード叔母さんが戦ったらこの船がもたない。
「やめてください。ミラード様、ヤラバの船大工が特別性船でも貴方様が暴れたら、壊れてしまいます。」
ヤラバとはカロリール領にある市である。海に面しており最も発達した海洋技術がある港町で名のある船大工や漁師が住んでいる市である。
「えぇ、その時は泳いでいけばいいじゃない?」
「そんな事が出来るのは私達ぐらいです。此処には私達以外にも国から集められた人達が乗っているのです。それに軟弱な北部の者も乗っているんです。確実に死にますよ。」
オスカーがミラード叔母さんの提案?を否定した。
「はっ!野蛮な南部の者の発言は違うな。」
「何ですか?」
「いや、バカみたいな話が聞こえてきたのでね。つい、笑ってしまったよ。」
「あら?この程度でそう思うなんて、噂通り軟弱、いえ、貧相なのかしら?」
ちなみに、このようなやり取りはこの船では日常茶飯事である。
そもそも、この国は北部は南部に野蛮、南部は北部に軟弱と蔑称を持っている。その為、この国は南北で仲が悪い。
これは昔、他国からの侵略により北部が奪われた時に北部の者は南部に逃げようとしたが、王族以外の者を入れる事は無かった。ただ他の人を見捨てた訳ではなく、カロリール家を中心とした南部の軍が北部の領地を一つ、一瞬にして奪い返してそこに押し詰めたのである。その後も北部の者には何もさせずに全てを奪い返した。
これにより、王族含めて北部の者は南部に対して多額の褒賞金を払い、他国から奪った金品も全て南部の者が頂いた為それを元手に南部は圧倒的に発展した。
これで南北で貧富の差が激しく大きくなった。これは今ではマシになったが、今でも豊かなのは 南部である。
「言ってくれるね。メイドの分際で!」
俺とミラード叔母さんは北部どころか他者にあまり興味が湧く事が少ないので、こう言う時は一緒に連れてきたオスカー達に任している。
「あまり大声で話さないでいてくれますか?ピック様は今お休み中なのです。あまりうるさいと一生うるさくない様にしますが?」
俺がうざがっているのを感じているのか、オスカーが殺気だってきた。この北部の貴族は気付く気配がないな。そんな時……
「まぁまぁ、落ち着きたまえ、君達。」
誰かが割り込んできた。えーと誰だっけ?この女性?
「ハイルス伯爵!ですが、この者は私達に対して蔑称を言ったんですよ!」
「それは君も一緒だろ。此処を手打ちにしないか?そうしないと前みたいな事になるよ。」
ハイルス伯爵にそう言われた北部の貴族は、苦い顔してそそくさと立ち去った。
「全く、あのような人は早く処理した方が良いと思うのです。どうせ、新大陸でも役に立ちませんよ。」
俺にアイツらを殺すように指示したら、嬉々としてメイド達を総動員して実行に移しますと、言いたげなオスカーである。
「それはやめてほしいかな。君達、相手では武が悪すぎる。」
ハイルス伯爵はそんな事を言っている。
「ふーん、貴方、北部に置いとくには勿体無いわね。」
この船に乗って初めて北部の人に興味持ったのか、ミラード叔母さんが話しかけた。
「ははは、あのミラード・カロリールにそう言ってくれるなんて光栄だね。」
あっちはミラード叔母さんの事を知っているようだ。
「あら、私の事を知っているのね。」
「そりゃあ知っているよ。若干10歳にして国に叛逆を起こしたテロリスト達をたった1人で全滅させた死神の名前を知らない人間をこの国にはいないよ。」
「そんな事?あったかしら?」
ミラード叔母さんは覚えていないらしいが、そういう事確かにあったのは知っていたが、うちでは当たり前の戦果なので、本人ですら忘れているようだ。
「そんな事よりも貴方の名前を聞かせてくれない?」
「あぁ、まだ名乗っていなかったね。私の名はサラブレッド・ハイルス。北部で伯爵をさせてもらっているものだ。」